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皇太子妃に返り咲き ~冤罪令嬢、謎のイケメンに溺愛されて大逆転~  作者: ひろの


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第29話 秘策

ベルナールたちが入っていってから、しばらく経った。

三人は廊下の角に隠れたまま、じっとしている。


結局、この状況の打開策が思いつかない。


沈黙が続く。

重苦しい空気。


「もういいや、俺が突っ込んであの兵士達と一戦交えてくる」


カイルが決意したように言う。


「大丈夫だ。すぐに逃げる」


カイルは不安げな表情を精一杯隠しながら、

笑みを浮かべて続けた。


「兵士達が離れた隙にお前たちが突っ込め!」


「だめだ!」


ユーリが即座に否定する。


「お前が危険すぎる」


ユーリが真剣な顔で言う。


「あの兵士達はベルナールの懐刀だ。

 相当な実力者ぞろいに見えるぞ。

 最後まで逃げ切れるとは思えない」


ユーリが続ける。


「帝室への不敬をでっち上げて、

 お前はその場で殺されるぞ」


「……。じゃあ、どうしろってんだよ!」


カイルが悔しそうに静かに壁を叩く。


「私が行きます」


セリナが前に出る。


「この変装だったらバレずに中に入れるかもしれません。

 陽動します」


「ダメだ」


ユーリがきっぱりと言う。


「陽動してどうする?その後は?」


ユーリが続ける。


「それに自惚れるな!

 そんな変装がバレないとでも思ったか」


ユーリが真剣な目でセリナを見る。


「なにより……」


「……なにより?」


セリナがユーリを見つめる。


ユーリの心の中で叫ぶ。

(お前を少しでも危険に晒すわけにはいかない!)


でも、それは口に出さない。


「考えが甘い……」


ユーリが小さく言う。


「……手はないというの?」


セリナが不安そうに聞く。


「いや」


ユーリが顔を上げる。


「一つだけ秘策がある。

 多少賭けにはなるが、勝算がないわけではない」


ユーリが自信を持って言う。


「今、取れる中では最善手だ」


「それはどういう?」


セリナが聞く。


「静観する」


ユーリが冷静に答えた。


「ベルナールが出てきてから、陛下にお会いする」


「でも、……先に完璧な証拠を陛下が受け取ってしまえば……」


セリナが不安そうに確認する。


「私達の証拠が、自分達の保身のためにでっち上げたものだって

 思われたりはしないの?」


ユーリが頷いた。


「普通に考えたら、その可能性が高い」


だが、落ち着いた表情は変わらない。


「何より、ベルナールは25年間尽くしてきた功臣だ。

 そして今回は皇太子のリュシアンがそれを後押しする」


二人がさらに不安な表情をする。


「特務官とはいえ、特に今回は……

 セリナ――

 お前の反逆罪が一度確定している状況だからな」


「じゃあ、ダメじゃない!

 このままじゃグレイヴおじ様まで!?」


セリナが焦る。


「俺を信じろ」


ユーリがセリナの肩を優しく掴む。


「え?」


セリナが驚いて顔を上げる。


「言ったはずだ。秘策だと」


ユーリが真剣な眼差しでセリナをしっかりと見つめる。


「今は内容を言えない。

 だが、俺を信じてくれるか?」


セリナは――

ユーリの目を見つめ返す。


不安がある。


怖い。


でも――


「……信じる」


セリナが静かに答える。


「何があっても、ユーリを信じる」


そう言うとセリナは力を抜いた。


「俺には信じろって懇願しねーの?」


カイルが笑みを浮かべてユーリに問いかけた。


「お前の場合は、疑ったら力ずくで従わせる」


ユーリが冷たく言う。


「おー、こわ!」


カイルが笑う。


「信じる信じる!」


・ ・ ・


カイルが急に真剣な顔になる。


「あ、そうこうしていたら出てきたぞ」


カイルが扉の方を見る。


「意外と早かったな。

 よほど信ぴょう性の高い証拠だったんだろうな」


三人は壁に隠れて息をひそめる。


セレスティアル・コートの扉が開く。

ベルナールとリュシアンが出てくる。

安堵した表情、そして満足そうな笑みだ。


二人はヴィオラに向かって話しかけている。


よほど気持ちが落ち着いたんだろう。

声は大きく、その内容がユーリ達にも聞こえてくる。


「安心しろ、ヴィオラ」


ベルナールが娘に言う。


「陛下は真剣な眼差しで証拠を精査なされた。

 儂とて陛下にお仕えして忠義を示してきたのだ」


ベルナールが胸を張る。


「矛盾はないと頷かれたぞ」


「本当ですか、父上!」


ヴィオラが喜びの声を上げる。


「ああ」


ベルナールが頷く。


リュシアンも笑顔で続けた。


「明日の朝議で、セリナの罪状について再審議を行ってくださる」


リュシアンが不快な笑みを浮かべた。


「これでセリナも終わりだ」


セリナが――

息を飲む。


口を両手で押さえて、不安げな表情になり

体が震えた。


ユーリが――

ゆっくりとセリナを抱きしめる。

包み込むように。

優しく。


「信じるんだ、俺を」


ユーリが小さく囁く。


セリナの耳元で。


「必ず、お前を守る」


セリナはゆっくりと手を下ろした。


そして――

ユーリに笑みを向けた。


弱々しく、それでも一片の疑いもなく、信じている笑み。


ベルナールたちは談笑しながら去っていった。

廊下を歩く足音が、遠ざかっていく。


完全に気配が消えたのを確認したあと、ユーリが一歩前に出る。


「次は俺達の番だ」


ユーリが真剣な顔で言う。


三人はセレスティアル・コートの扉に向かって歩き出す。


・ ・ ・


セレスティアル・コートの中を進む。


豪華な廊下。


金色の装飾。


美しい絵画。


やがて、最も奥に位置する扉が見えてくる。

巨大な白い扉、その上には、帝国の紋章が輝いている。


神聖皇帝の執務室であり、最も神聖な場所である。


扉の前に立ち、ユーリが深呼吸する。

セリナも、カイルも、緊張している。


中からは、静かに紙をめくる音が聞こえる。

カイゼルが、提出された証拠を真剣に読み上げているのだろう。


ユーリが扉を叩く。


コンコンコン。


「ん?誰だ?」


中から、低く、威厳のある声が聞こえた。


「特務官のユーリです」


ユーリが答える。


「ユーリ?!」


驚いた声。

そして――


「……入れ」


ユーリが扉をゆっくりと開く。


三人が執務室に入る。

広い部屋、奥には大きな机、

その向こうに――

白髪の老人が座っている。


神聖皇帝カイゼル。

帝国の支配者にして、絶対の権力者である。


三人は、深く一礼する。


「ん?」


カイゼルが三人を見る。


「見かけぬ顔がいるな」


カイゼルの視線が、セリナに向けられる。


セリナが――

一呼吸おいて、もう一度礼をする。


そしてウィッグを外した。

桃色の髪が現れる。


「お前は……セリナか!?」


カイゼルが驚いた。


「陛下、拝謁賜り恐悦至極にございます」


セリナが頭を下げる。


「セリナです」


「その髪は……」


カイゼルが、セリナの桃色の髪を見る。


そして――

表情を和らげる。


「いや、お前の父アルフレドは残念だった」


カイゼルが静かに言う。


「あの者は、朕とこの神聖帝国に忠義を示し、

 多大なる貢献を果たした」


カイゼルが続ける。


「あの時、お前に優しい言葉の一つもかけてやれず、

 申し訳なく思っている」


「陛下……」


セリナの目に、涙が滲む。


「もったいないお言葉です。

 父も、喜んでいることと思います」


少しだけ間をおいてから続けた。


「ですが、私は一度陛下に対し反逆の罪を問われました」


セリナが真剣な目で言う。


「天地神明に誓って、そのようなことはないと、

 亡き父が残した証拠を持って、

 このような強引な方法で拝謁賜りました」


ユーリがゆっくりと近づいて、証拠が入った端末を渡す。

カイゼルは黙ってその中のデータを見た。


一頁一頁、真剣な表情で丁寧に読み解いていく。

時間が、ゆっくりと流れる。


やがて――

カイゼルが顔を上げる。


「真逆の証拠をリュシアンとベルナールからも受け取った」


カイゼルがユーリに向けて話しかけた。


「全く粗が見えない証拠だ」


セリナの顔が曇る。


(やっぱり……ダメなの……?)


「アルフレドの遺した証拠は、時系列の欠落が多々あり、

 完璧とは言えない」


カイゼルが続ける。


でも――

ユーリは冷静に回答する。


「逆にそれこそが、真実味が増すというものです」


カイゼルが鼻で笑う。


「物は言いようだな」


ユーリがまだ余裕の態度を崩さずに答えた。


「はい、後はリュシアンと私、どちらを信じていただけるか……」


そして、少しの間の後、ゆっくりと、

そしてはっきりと続ける。


「陛下――

 いえ、父上」


「……!」


セリナとカイルが、あからさまに目を見開いて驚いた。


(父上……!?)


「なんだ、言ってなかったのか、ユーリ」


驚いた二人を見て、カイゼルも普通に返す。


「ユーリは朕の側室の子である」


カイゼルが説明する。


「年長ではあるが、母が伯爵という低位の出ゆえ、

 皇位継承権は二位だ」


カイゼルが心の中で呟く。


(そうだ、ユーリの母こそ朕が愛した唯一の女。

 最も目をかけた息子よ)


カイゼルが苦い表情をする。


(後ろ盾のないお前を、皇太子にはできぬ。

 それゆえにと特務官として傍に置いたが……

 厄介な問題に首を突っ込んだようだな)


「セリナ、カイル、黙っていて済まなかった」


ユーリが二人を見て静かに言った。


「改めて、俺の真の名を教える」


ユーリが続ける。


「ユーリ・ニャーリ=アルヴァイン。

 アルヴァインは、母の家名だ」


現王朝はニャーリ朝。


名の中央は父方の家名が付く。

紛れもなく皇室の出だった。


「俺が皇族だと知らないのも無理はない」


ユーリが続ける。


「百六十年前の皇位継承戦争以降、帝国法典は改訂され、

 第一皇位継承者を除く一親等皇族は、

 領土も軍権も、評議会の席すら持つことを禁じられた」


ユーリが淡々と説明する。


「"影の皇族"として生涯を隠され、

 わずかな化粧領だけを与えられ、静かに死ぬのが常だ」


セリナとカイルは、未だにこの衝撃の事実を受け止め切れていなかった。

ただ、呆然としている。


「ユーリ、お前のことは愛している」


カイゼルが真剣な目で言う。


「だが朕は神聖皇帝だ。

 真実を明らかにする必要がある」


威厳を保ったまま、カイゼルは続ける。


「お前たちの証拠は、確かに受け取った。

 しっかりと吟味することを約束しよう」


最後にゆっくりと宣言した。


「明日、審議を行い、そこで判決を言い渡す」


「ありがとうございます、父上」


ユーリが深く頭を下げる。


そして――

ユーリが振り返って、セリナの頬に手を添えた。

悲しげな目をしている。


「身分差の話をしただろう?」


ユーリが小さく言う。


「もし俺が男爵であれば、

 俺の力でいくらでも昇りつめるだろう。

 そして同じ公爵となって、お前を必ず手に入れる」


ユーリの目が潤む。


「だがな、俺は皇族なのだ」


最後に苦しげに言った。


「力を持つことが許されない。

 お前を……絶対に手に入れることが出来ない」


少し間をおいて続けた。


「お前はおぼえていないようだったがな。

 俺とお前があったのはあの夜が初めてじゃない。」


驚きを隠せないセリナがさらに驚く。


「俺は3年前からお前の父と連携してお前の屋敷には

 何度も訪れている。

 庭で笑うお前の姿を何度もみていた。」


「え?」


「その笑顔が心に焼き付いて、それを守りたいと思った瞬間、

 もう引き返せなくなっていた――」


ユーリが苦笑いした。


「思えばその時から俺は、お前への想いを……

 諦め、隠し続けていたのかもしれない」


ようやく意味を理解したセリナの目から、自然と涙が溢れた。

本人も、そのことに気づいていない。


ただ――

涙が、止まらない。


「そんな……」


セリナが震える声で言う。


「へ、陛下」


セリナが振り返る。


「お願いがございます」


「なんだ?セリナ、言ってみなさい」


カイゼルが優しく言う。


「陛下、もし私の反逆の濡れ衣を晴らすことが出来ましたら……

 私は命を助けていただくだけで構いません」


セリナが必死に言う。


「公爵位は、要りません」


「おい、セリナ」


ユーリが驚く。


「私が平民に落ちれば……」


セリナがユーリを見て、

涙を流しながら、必死に笑顔を作る。


「今度は私が、ユーリの傍に駆け上がります!」


「ならぬ」


カイゼルが冷たく返す。


「そんな……」


セリナの笑顔が崩れる。


「もしお前が無実であるならば、

 朕はお前を女公として取り立てるだろう」


カイゼルが続ける。


「お前は我が友、アルフレドの娘だ」


カイゼルが厳しい目で言う。


「それを平民になどはできぬ」


「陛下……」


セリナが膝から力が抜ける。


カイゼルは俯いているユーリを横目で確認すると、そのまま続けた。


「話は終わりだ。下がれ」


ユーリは――

泣き続けるセリナにゆっくりと近づいて、背中に手を回す。

セリナも背筋を整えた。


三人は敬礼して、その場を離れた。


複雑な表情でカイゼルは、それを見送った。

衝撃の事実の判明! ……と言っても予想してた人いたでしょー?


10話でいきなりユーリが好き好き態度出すの急すぎるでしょ?

実は3年来の片思いを拗らせていて、それが10話の事件で堰を切って

溺愛になっちゃったんでした!そこからは歯止め効かなくなっちゃいましたね!

ここまでは予想出来てました??


私は1話を書き始める時点で最終話までの2万字くらいの

プロットを作ってそれを拡張する形で執筆しています。

なので長期の伏線回収は結構大好きです。


この片思い拗らせの背景を知ってからもう一度一話から再読すると、

赤の他人のユーリが父親(友人)との口約束だけで、皇太子と戦うという

ありえない展開に意味が出てきます。

そして皇子だったという背景も皇太子と戦いうるという条件になるのです。


セリナの恋はつり橋効果の憧れから起きた普通の恋で、

ユーリは高嶺の花を影から見続けた、初恋の拗らせ片思いの成就だったと

思えば、1話からの流れがまた違った形で読めるかもしれません。


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。

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