第27話 潜入準備
帝都セレニャール、惑星ニャニャーンの首都星。
フェルナ号は帝都の小さな港に着陸した。
目立たないように商船用の港を選んだ。
ユーリとセリナは、皇居近くの庶民街にあるホテルに入る。
古びた建物だが、清潔で静かだった。
三人で一つの部屋を借りた。
カイルはすぐに外へ出る。
「じゃ、俺は皇居の周りを偵察してくる」
カイルが軽く手を振る。
「何か分かったら、連絡する」
「頼む」
ユーリが頷く。
部屋にはユーリとセリナだけが残った。
窓から帝都の街が見える。
高い建物、行き交う人々、でも――
二人には、落ち着かない空気が流れている。
セリナがベッドに腰を下ろす。
「ユーリ、帝都に入れたけど……どうするの?」
セリナがユーリを見上げる。
「いや、考えている最中だ」
ユーリが窓の外を見る。
「特務官として色々な潜入ルートを知っているが……」
ユーリが続ける。
「リュシアンが、どんな妨害をしてくるか分からない」
ユーリが端末を取り出す。
画面を開き、特務官の専用サイトにアクセスする。
「まぁ、もう資格停止されてるだろうけどな……」
ユーリがログインを試みる。
ID入力し、続けてパスワード入力した
そして――
「あぁ?」
ユーリの目が見開かれる。
「どうしたの、ユーリ?」
セリナが心配そうに聞く。
「入れた……」
ユーリが呟く。
「どういうこと?」
セリナが立ち上がりユーリの隣に来る。
「俺の特務官IDはまだ有効だ」
ユーリが画面を見せる。
「つまり……犯罪者扱いはされていない」
「え?」
セリナが驚く。
「まだ、私の逃走共犯がユーリだってことが
バレてないの?」
「いや、そんなわけがないんだが……」
ユーリが首を傾げる。
「罠か?」
「リュシアンや、ヴィオラたちの?」
セリナが不安そうに聞く。
「ああ」
ユーリが頷く。
「だが……このIDを使って、
真正面から堂々と進む方が何かと都合がいい」
ユーリがセリナを見る。
「皇宮内の全ての場所に合法的に入る権限がある。
それに特務官の中には俺に味方する者も多いからな」
「……真正面から?」
セリナが繰り返す。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず……だ」
ユーリが微笑む。
「怖いか?」
「うん、もちろん怖い」
セリナが素直に答える。
でも――
すぐに微笑む。
「でも平気。ユーリと一緒なら」
セリナがユーリの手を握る。
「私は、どうしたらいい?」
「お前も特務官のふりをして潜入することになる」
ユーリが答える。
「分かった、やるわ」
セリナが力強く頷く。
「だが……一つだけ問題がある」
ユーリが言いにくそうに言う。
「問題?」
セリナが首を傾げる。
「現在、女性特務官はいない」
ユーリが続ける。
「男装する必要がある」
「なら、男装するわ」
セリナがすぐに答える。
「カイルの制服の予備はある?
カイルとなら、そこまで身長差はないから」
「いや、簡単に言うが……その……」
ユーリの顔が、赤くなる。
視線を逸らす。
「何?」
セリナが不思議そうに聞く。
「お前には……その……」
ユーリが口ごもる。
「胸が、ある」
ユーリに急に胸を意識されて、
セリナの顔が一気に赤くなる。
「……!」
でも――
すぐに冷静になる。
「包帯はある?」
セリナが聞く。
「あるが……」
ユーリがカイルの荷物から、予備の制服と包帯を取り出す。
「どうするつもりだ?」
「ユーリ、手伝って」
セリナが背中を向けると、上着に手をかける。
そして――
脱ぎ始める。
「おい!ま、待て!」
ユーリが慌てる。
「何をする気だ!?」
「胸は、横に寄せて包帯を使って背中で固定したら
目立たなくできる」
セリナが冷静に答える。
「分かった、分かったから待て」
ユーリが慌てて言う。
「ホテルの女を呼んでくる」
「ダメ」
セリナがきっぱりと言う。
「他人は信用できない。
リュシアンの手の者かもしれないし」
セリナがユーリを見る。
「ソフィがいないなら、ユーリに頼むしか」
セリナが続ける。
「ダメなら、カイルに頼むわ」
「あー、分かった!」
ユーリが諦めたように言う。
「やるから……くそ」
ユーリが深呼吸する。
セリナが服を脱ぐ。
上着。
そして――
下着も外す。
背中だけが、ユーリに向けられている。
白く、滑らかな肌。
ユーリの心臓が、高鳴る。
ドクドクと、うるさいほどに。
顔が、熱い。
(落ち着け……落ち着け……)
ユーリが自分に言い聞かせる。
「じゃあ、始めるぞ……」
ユーリがゆっくりと近づいて、セリナの傍に回り込んだ。
セリナは、慌てて手で胸を隠す。
顔が、真っ赤。
「ま、前は私がやるから……」
セリナの声が震える。
「ユーリは、後ろから包帯をしっかりと締めてほしいの」
「あ!?す、すまん」
ユーリが慌てて後ろに回る。
顔を落とす。
「すまん、故意じゃない」
ユーリが早口で言う。
「何も見てない」
「分かったから、これを持って」
セリナが包帯の端をユーリに手渡す。
手がわずかに触れる。
二人とも、ビクッとする。
セリナは、露わになった胸元に包帯を当てる。
ぎゅっと押さて胸を横へ流すようにして、包帯を巻きつけていく。
「もう少し、締めて」
セリナが小さく言う。
ユーリが包帯を引く。
呼吸が苦しくならない程度に、
でも、しっかりと。
背中で結ぶ。
「セリナ、呼吸は大丈夫か?」
ユーリが心配そうに聞く。
「平気」
セリナが答える。
「このまましっかり結んで」
「ああ」
それを何度か繰り返す。
包帯がセリナの体を巻いていく。
ユーリの手が、セリナの背中に触れる。
温かい。
柔らかい。
・ ・ ・
胸を覆うように包帯が巻きつけられた。
硬めのインナーを着る。
「シャツを、ください」
セリナが小さく言う。
「ああ……これだ」
ユーリが震える手でカイルのシャツを渡す。
それを着て、ボタンを留めていく。
一つ、一つ。
そして――
最後にジャケットを受け取り、羽織った。
セリナが、振り返る。
立派な装飾が施されたシャツとジャケット。
細身の、特務官が完成した。
「……どう?」
セリナが恥ずかしそうに聞く。
ユーリは――
しばらく言葉が出なかった。
ただ、セリナを見つめている。
ユーリが思う。
(凛々しい……でも……やっぱりセリナだ)
ユーリは胸のドキドキが止まらない。
「ユーリ?」
セリナが、不安そうに聞く。
「……大丈夫だ」
ユーリが、ようやく答える。
「似合ってる」
セリナの顔が、また赤くなる。
「ありがとう……」
小さく呟く。
二人――
しばらく、見つめ合う。
部屋に静かな時間が流れる。
それを打ち破るようにセリナが口をひらいた。
「ウィッグはある?」
「あぁ、一応カイルが変装用にいくつか持っているはずだ」
そういうとカイルの荷物からウィッグを取り出した。
セリナがその中から黒い長髪のウィッグを選び、被った。
桃色の髪が隠れて小さなレオンのようになった。
「セ、セリナ……髪色が……」
「いいの!この桃色は父上も愛してくれた大事な髪だけど
私も今は特務官よ!
カイルが女装したように私だって、任務のためにワガママなんて言ってられない!」
そう言いながらもセリナは胸を張らずに、肩を少し落として微笑んだ。
(ン……少し……苦しいかな。
でも……私がしっかりしなきゃ、またユーリが苦労しちゃう!)
「分かった……カイルが戻ったら、その状況を確認する。
そして問題なさそうならすぐに潜入するぞ」
「えぇ!」
一見するとサービスシーンなんですけど、ユーリさんがピュアで自制心強すぎて事故りませんでした…。
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