8. 第四武器庫
■ 18.8.1
「じゃ、みな自室に戻ってロックを掛けて閉じ籠もっていてくれ。その内パワーが回復して照明が点くだろう。ブリッジを奪還した証拠だと思ってくれて構わんが、それでもまだ部屋から出るな。全船制圧完了したらその旨連絡する。それまでの辛抱だ。」
そう言って後ろを向いて歩き始める。
「分かった。宜しく頼む。」
と、ベルスォットの声が後ろから追いかけてきた。
めいめいに自室に戻り始めた足音とざわつきが後ろから聞こえてくる。
「来たのとは別ルートでブリッジに向かう。海賊を潰していくぞ。」
歩き始めれば当然一緒に来るルナに向かって言う。
「はい。二時の方向の気密扉から主通路Dに出られます。ブリッジ到着直前で他のルートと合流し、ブリッジに到達出来る通路は最終的に一本のみです。途中、携帯火器類を中心に保管してある武器庫があります。」
乗り移ってくる前にルナはこの船の内部構造データをロードしている。
少々古い設計データらしいので、多少現状と異なる所もあるかもしれないが、大枠では問題無いだろう。
海賊は襲撃する船の図面など持っていないだろうから、その分こちらが有利なはずだった。
今回はこっちもAEXSSを着用し、白兵戦用の武装をしている。
海賊が操る整備不良のポンコツHASとは言え、ハンマー一本で突っ込んで行かされた時とは訳が違う。
積極的に海賊に接触し排除していく。
「諒解。それで行こう。」
軍用正規HASに比べれば装甲は大きく劣るものの、プロテクタ付きのLASよりは遙かに防御力の高いAEXSSを着用している俺達は構わないが、平服を着ているフィールスが気になる。
とりあえず俺達に同行していれば良いだけならば、常に後ろに隠れていれば何とかなるか?
仕事の為についてくる見知らぬ女とは言え、眼の前で撃ち殺されてはさすがに夢見が悪い。
「武器は途中で手に入れるにしても、LASさえ着ていないんじゃ戦えないだろう。戦闘になったら無理に手を出さず離れていてくれ。」
最悪派手な撃ち合いになって爆発物でも使った日には、船殻に穴が開いて、船外作業服さえ着ていないフィールスは撃たれるより前に窒息死だ。
そう思って、気密扉をくぐってすぐに後ろを振り返ったが、フィールスは俯いてとぼとぼと歩いて付いてきており、話しかけられたことにさえ気付いていない。
・・・大丈夫かこいつ。
「フィールス。」
名前を呼ぶと、はっと顔を上げる。
何とも悲壮な表情をしている。
まあ、丸腰なのだから気持ちも分からんでもないが。
「な、なんでしょうか。」
おどおどというか、ちょっとなにかあったらすぐに死んでしまいそうな気の弱そうなか細い声で返事が返ってくる。
「この先に武器庫があるらしいが、中身は知っているか? HASかせめてLASは格納してあるか? その服のままじゃさすがに拙いだろう。」
船の構造はある程度ルナが把握しているとしても、武器庫の中身までは分からない。
警備担当主任だったなら、乗船した時に武器庫の中身も把握しているのではないかと思った。
「え・・と。この先にあるのは第四武器庫、だと思いますが。銃器類が中心で、あとは、確か簡易船外服とか、緊急用マスクくらい、だった・・・と、思います。」
ん?
なんか妙な言い方をするな。
「確認してないのか? 乗船した時とか。」
「え・・・と。はい。備品リストをチェックした、だけで・・・す。済みません。船内で、海賊と戦闘になる事は、今回の視察では、想定されていませんでした、から。」
大丈夫か警備担当主任。
海賊なんてどこで襲ってくるか分からないから脅威なんだぞ。
手元の武器を把握していなくてどうする。
まあもっとも、俺も手近なところに武器が無いと落ち着かなくなったのは、ここのところやたらと銃をぶっ放すような依頼ばかりこなしているからだが。
普通の運送業の船乗りは、手近なところに軍用のライフルが無いと落ち着かない、なんて馬鹿なことは言わない。
俺の感覚がおかしいのかも知れん。
「今備品リストは?」
「す、済みません。船のネットワークが落ちているので、閲覧できない、です。」
海賊との戦闘を想定していないとか、船のパワーが落ちたら非常時にこそ重要な情報にアクセス出来なくなるとか、なんか色々甘すぎないか、この会社。
「・・・分かった。まあ、いいか。行ってみれば分かるだろ。」
「え、でも。船のメインパワーが落ちているので、武器庫を開くことは、出来ないと思います・・・が。」
「ん? ああ、大丈夫だ。何とかする。ちょっと船の内装を傷付けてしまうかも知れんが、まあ、今更だろ。」
「あ・・・はい。」
もともと丸腰で死地に追いやられて死にそうな悲愴な顔をしていたのが、自分が把握しておくべき武器庫の中身の情報をはっきり示す事が出来なかったからか、今にも泣きそうな顔で俯く。
これは、例え武器庫で武装させたとしても、後ろに離れたところを付いてこさせる方がよさそうだ。
戦えるとはとても思えん。
海賊のHASと対峙したら、恐怖に硬直してすぐに撃ち殺されそうだ。
なんでこんなのが警備主任やってんだ。
もしかして普段の仕事は会社の受付の脇に座ってるだけ、なんてんじゃないだろうな。
その後海賊の待ち伏せを受ける事もなく、かといって俺達三人の間に会話なども無く、そこそこ広めの通路を少し歩くとルナが立ち止まった。
「武器庫です。」
ルナの眼の前にドアがあり、俺の読めない文字でドアに何か書いてある。
多分、武器庫と書いてあるのだろう。
「フィールス、一応やってみてくれ。開けば良いが。」
「は、はい。」
フィールスがおどおどと進み出て、ドアの前に立つ。
ドアは開かない。
ドア脇の小さなパネルを開いて、中のボタンを押すが反応は無い。
やっぱりダメか。
「フィールス、下がってくれ。」
ドアに近付いた時の数倍の速度でフィールスがドアから離れて俺の後ろに回る。
「マサシ、私が。」
フィールスが下がったのを見て、ライフルを持ち上げようとした俺の横から声がかかった。
確かにライフルをぶっ放すと、音で何処かに隠れているかも知れない海賊に気付かれる可能性はある。
「ああ。クラックするのか?」
パワーは落ちているが。
「いえ。もっと簡単な方法です。」
そう言った次の瞬間、黒メイド姿のルナの両腕が一瞬ぶれたように見えた。
そして、武器庫のドアがゆっくりと四つに割れて、切断面から滑るようにこちらに落ちてくる。
二枚の割れたドアをルナが左右の手で受け止める。
割れたドアを通路の端に置くと、ルナは元の位置に残ったままの下側の二枚を蹴り飛ばした。
元ドアだった物体は簡単に吹っ飛び、武器庫の中に消えた。
多分、刀で切ったのだろう。
高周波震動刃を持つ刀だから、そりゃ宇宙船の内部ドアなんて野菜を切るよりも簡単に切れるのだろうが。
それにしても切った瞬間のルナの動きが全く見えなかった。
・・・ルナがどんどんどこか俺の知らないところを目指して邁進して行ってる気がする。
「フィールス、お前の武器だ。一番使い易いのを選べ。」
そう言うと、フィールスがおどおどしながら武器庫の中に入ってくる。
「え、でも、でも。パワーが落ちているので、ラックのロックが外れません。」
「それはどうとでもなる。とにかく使いやすい武器を選べ。」
武器庫のドアが開かないくらいだから、実際に銃を格納しているラックは絶対に動かないだろう。
そして多分、同じやり方でロック解除されるだろう。
フィールスが武器を選んでいる間に、俺は武器庫の奥に目を走らせる。
携帯火器を中心に置いている武器庫と言うだけあって、さすがにHASの固定ステーションなどは設置されていない。
が、HASのものよりも小振りなステーションがいくつか並び、LASとまでは行かないまでも、膝や肘などの要所にプロテクタが付いた民間用の船外作業服が固定されているのが見える。
軽装甲とは言えもともと戦闘をこなせる様に作られているLASほどでは無いにしても、ちょっとした事で気密が破れていてはお話にならないので、船外作業服は多少の衝撃には耐えられる程に強度はあるし、瓦礫や部品の角などで簡単に傷付かないように要所々々に簡単なプロテクタが付いている。
そもそも船外作業服を着ていれば、とりあえず宇宙空間に放り出されてもすぐに死ぬ事は無い。
「え、えっと。これに、します。」
フィールスが銃を選んだ声を聞いて振り替えると、彼女は軍からの放出品であろうゴツいアサルトライフルを指し示していた。
てっきりSMGか何か、軽くて取り回しの良いものを選ぶと思っていたのだが。
大丈夫か?
さほど背も高く無いし体格も華奢な彼女が、軽量化されているとは言え数kgはあるライフルを持つのは少々厳しいような気がするのだが。
確かにHASを狙うならSMGにメタルキャップ弾などという豆鉄砲ではお話にならないので、重力加速式のゴツいアサルトライフルと重金属徹甲弾が必須だ。
しかし、悲愴な顔で今にも死んでしまいそうな表情の彼女にそんな役割は期待していない。
彼女がこの視察旅行を終えて職場に戻った時、さっき喚き散らかしていたクソな上司から責め立てられないように、俺達と一緒に海賊と戦ったという実績を作る為だけにここに居るし、俺もそう納得している。
無理に戦う必要など無いのだ。
「大丈夫か? 結構重いぞ。行動に支障が出たりしないか?」
と、思わず聞いてしまう。
俺達はAEXSSのパワーアシストがあるから軽々振り回すが、彼女は全くの生身だ。
「え、えと。大丈夫、です。使い慣れてます、から。」
マジか。
こんなんでもライフルを使い慣れてるとか。
まあ、警備部なら射撃訓練とかはあるのだろうな。
「分かった。ルナ、頼む。」
と俺が言うと、ルナは言葉も発さずに手に持った黒刀を一閃した。
金属音がして、ライフルを固定していた金具の一部が床に落ちる。
ルナが手を伸ばして固定部を無理矢理開いて、ラックからライフルを取り出した。
後ろに向いてそのままフィールスに手渡す。
フィールスはライフルをひっくり返して軽く外観を確かめた後、サイト脇の蓋を開いて起動ボタンを押し、蓋を閉じる。
ライフルのID認証作業に入ったようだ。
使い慣れていると言うだけあって、確かに手慣れている様に見える。
「認証終わりました。動作問題ありません。」
そう言ってフィールスはスタスタと重火器ラックの脇に置いてある小型のコンテナに近付く。
・・・・ん?
脇に掛かっていたバックパックを取り上げるとその口を開き、開いたコンテナの中から取りだした予備のブレットタブとハンドグレネードらしき固まりをそれぞれいくつかバックパックに放り込んだ。
更に簡易マスクを放り込んだ後に、サングラス型のシールドセミゴーグルを取り上げて頭に装着した。
まるで毎日何度も繰り返している動作を行っているかのようにその動きに全くの無駄がない。
成る程。言うだけのことはある。
「準備完了です。行きましょう。」
と、こちらを向いて顔を上げたフィールスの視線が、透明なゴーグルのシールドの向こう側から俺の目を真っ直ぐ見る。
・・・覚悟が決まったのか?
なんか随分凜々しくなった感じがするが。
「おい、大丈夫か? 重いだろう?」
ブレットタブはものにも寄るが、一個数百gかそれ以上ある。
何個ものブレットタブを放り込んで、ついでに他も色々突っ込んだバックパックは5kgを超えているはずだ。
ライフルと合わせて10kg近い重さだろう。
馬鹿にするわけでは無いが、生身の華奢な身体の彼女にはかなりの負担に思える。
「大丈夫です。野戦訓練の時はアシスト無しでこの三倍もの重さを背負って五昼夜戦闘行動しますから。」
どこの特殊部隊の訓練だそれは。
てか、なんかさっきまでと雰囲気全然変わってないかこいつ。
「お前、さっきまでと雰囲気全然違うぞ。」
「はい。銃を持つと安心できます。戦う意志が沸き起こってくるのを感じます。」
そう言って、ニコリともせずに俺の目を真っ直ぐに見る。
なんてこった。
銃を持たせると人格が変わる奴かコイツ。
響きがただのアブナイ奴にしか聞こえない。
実際は丁寧な言葉と、落ち着いた雰囲気でアブナイ感じはしないが、それでも銃を持たせると性格が変わる二重人格である事に変わりは無い。
なんでこんなのばっかりと縁があるんだ。
うちの船には任意に人格を入れ替えることが出来る上に、戦闘中はやたら饒舌になるバトルジャンキーが居る。
思わず溜息を吐き、微妙に頭痛を感じてこめかみに手をやる。
その指はヘルメットのシールドバイザーに阻まれた。
いつも拙作にお付き合い戴きありがとうございます。
美人で華奢でちょっとちっこくて、武器を持たせるといきなり二重人格。
好みです。(笑)
ここのところ仕事が酷い状態になってまた更新間隔がグチャグチャになってますが、更新は続けます。




