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夜空に瞬く星に向かって 第二部  作者: 松由実行
第十八章 シェイクハンド・プロトコル
97/101

7. 無理。


 

 

■ 18.7.1

 

 

 その後、居住用コンテナの中に身を隠しているジュシブンレドール社員に次々とベルスォットが声をかけ、その呼び掛けに応じて部屋から出てきた社員が別の社員にも声をかけ、といった具合に次々と部屋から出てきた社員達が、コンテナが積み上げてあるカーゴルームに残った少し広めのスペースに集まっていた。

 男八人に女五人。

 ・・・おや? 一人多くないか。

 まさか、海賊が混ざっていたりしないだろうな。

 ベルスォットが騒いでいないから多分そんな事は無いのだろうとは思いつつ、俺の脇に立つベルスォットに声をかける。

 

「十三人居るぞ。乗客は十二人と言ってなかったか?」

 

「ああ、あそこに居る赤とグレイのオーバーオールを着た男は、この船のクルーだ。海賊の襲撃があったとき、丁度このカーゴルームに居たらしい。海賊の襲撃と聞いて、ビビって慌ててコンテナ客室の中に逃げ込んだのだそうだ。」

 

 そんな事で良いのか船員。

 海賊の襲撃に遭ったら、他の船員達と連携を取りつつ敵の侵入を迎え撃って乗客の安全を確保するべきじゃ無いのか。

 まあ、多分自分達よりも武装度の高い海賊を碌な武器も持たずにどうにかしようなどと考えるのは、ニュクス曰く脳筋の地球人だけなのかも知れないが。

 或いは、自分の意思で無く、会社の命令で仕方なく船員をやらされているだけの者の意識はその程度、という話なのかもしれなかった。

 いずれにしても、そんなビビリ船員は情報源としても海賊と共闘する戦力としても当てには出来ないだろう。

 

 集まったジュシブンレドールの社員達に状況を説明しようかと思っていたのだが、少々異常な光景に目を奪われる。

 俺の横に居るベルスォットを除いた十二人が緩く集まって集合している端の方で、一人の男が女をかなりの激しさで執拗に叱責している。

 血管が切れそうなほどに頭に血を上らせて真っ赤な顔をして、唾を飛ばしながら激しく叱責の言葉を吐き続けているのは、他の十一人に比べて年かさの小太りの男で、その男の向かいで声もなく俯いている女は、ベルスォットが最初に声を掛けたフィールスという女だった。

 

「何やってんだ、あれは?」

 

 その叱責の言葉の余りの激しさと、周りの状況も見ずに執拗に女を責め続ける中年デブの姿に嫌悪感を抱き、眉を顰めつつベルスォットに尋ねた。

 

「ああ。ギャンギャン言っているのがこの中で一番位の高い、金属調達事業部長のセビンラディアだ。怒られてるのは、例の警備部主任のフィールスだな。」

 

「あのオッサンは、何をそんなに怒りまくってるんだ?」

 

「海賊の襲撃があったときに、フィールスが海賊に対抗する行動を取らずに自室に引き籠もったのが気に入らんらしい。要は、今回のこの視察団に同行する警備班の班長であるフィールスは、警備班に指示を出して自ら先頭に立って船を防衛して、海賊による占拠を阻止するべきだった、と言いたいらしいな。気にするな。幾ら警備部でも、HASやライフルで武装した海賊に、殆ど丸腰で対応しろと言う方がおかしい。あのクソ部長の鬱憤晴らしのはけ口にされてるだけだ。部長も疲れたら黙るだろう。」

 

 なんだかな。

 そもそも自分がVIPのつもりなら、それを守る警備部員にはそれなりに武装させておけよ。

 軍の海兵隊員並とまでは行かずとも、予想される脅威に対抗できるだけの道具を持たせるのが当然というもんじゃないか?

 丸腰なら、そりゃ部屋に閉じ籠もりたくもなるだろう。

 俺でもそうする。

 

 オッサンが喚いているせいで、回りの皆も聞こえない振りをしながら注意は全て二人に向いている。

 こんな状態で、皆を相手に状況の説明など出来はしない。

 

「まったく、折角同行を許してやったというのに、なんたるざまだ。今回の視察を無事に終えて戻れたならば、君に昇進の芽もあったのだろうが、これでは上に良い様に報告することなど出来ないぞ。そもそも部下を二人も与えられておいて、彼等に指示さえ出していないじゃないか。何のための警備主任だね。我々視察団を護って、率先して海賊の侵入を阻止するのが君の仕事では無いのかね。それを自室に閉じ篭もるなど,完全な職務放棄だ。戻ったら人事委員会に報告させて貰う。それと、働かん者に警備主任など任せてはおれん。今この時をもって君をこの視察団の警備主任から解任する。ベーリドック、今から君が警備主任だ。フィールス、君はもう出て来なくて良い。自室にずっと閉じ篭もっていろ。君みたいなのが居ては,ベーリドックもやりにくいだろうし、足を引っ張られて護衛任務にも失敗しかねん。使えない奴は要らん。」

 

 とまあ、少しそちらに注意を向けると、叱責というべきなのか、パワハラと言うべきなのか、オッサンがネチネチとフィールスを責め立てているのが聞き取れた。

 こういうのは、ところ違えどどこも似た様なものなのだろうな。

 勤め人はつらいね。俺は自由な船乗りで良かったと心から思うよ。

 まあたしかに、警備や護衛を任されていて、海賊が怖くて自室に閉じ篭もりました、じゃ、怒られても文句は言えんだろうがな。

 それにしても、小デブなオヤジに若い女がネチネチと攻められている図というのは気に入らんな。

 フィールスがなかなかの美人なので余計にその思いが強くなる。

 

「オッサン、そろそろ黙ってくれねえか。この船はまだ海賊に占拠されたままで、そいつを早急に何とかせにゃならん。若い女捕まえてネチネチやってる場合じゃねえんだよ。時と場合を考えろ。」

 

 と、思っていたことをそのまま口に出してしまった。

 

「なんだ、君は。私が誰だか分かっているのか。船乗り風情が偉そうに。」

 

 男がこちらを睨み付けてくる。

 船乗り風情、ね。

 まあ、やくざな商売だってのは自覚してるさ。

 

「知らねえよ。俺は救援要請があったから助けに来ただけだ。あんたはその船に乗っていた乗客だ。死にたくなければ状況を弁えろ。で、俺の指示に従え。」

 

「私に命令するな。助けに来たならば早く海賊を片付けてこい。そもそも我々を部屋から出して何の意味がある。我々を無意味に危険に曝しているだけだというのが分からんのか。」

 

「30km/sで徹甲弾が飛んでくるんだ。部屋の中に居ようが外に居ようがたいした差じゃねえよ。コンテナの外壁なんざ薄紙と変わらん。それよりは、全員が現在の状況を知っておいた方が良いと思うが? 何も知らずに有無を言わさず指示に従わされて逃げるよりは安心できるだろう?」

 

「状況なら当社のクルーに訊く。お前達は早く海賊と戦ってこい。」

 

「EMPブチ込まれて船が早々にシステムダウンしたから、アンタんとこのクルーも何も知りやしないさ。いいから黙ってろ。これ以上騒ぐようなら、物理的に黙らせるぞ。」

 

「なんだと。我が社からの依頼で救出に来たのなら、依頼元の我が社の指示に従え。従わんというなら、依頼遂行内容不十分で報酬を減額するぞ。今この場では私が最上位者だ。君は私の指示に従わねばならん。君が今するべきことは、速やかに海賊を排除殲滅することだ。」

 

 黙れと言ったのにいまだグダグダと抜かしているオッサンに向かって歩く。

 どうやら人の言葉が理解出来ない馬鹿は早めに黙らせる必要がある。

 放っておけば他の連中もてんでに騒ぎはじめて勝手な行動を取るようになるし、何よりそもそも鬱陶しい。

 イライラして来て精神衛生にも宜しくない。主に、俺の。

 

「何だね、私の指示に従えないというのk、ゲブ!」

 

 黙って近付き、そのまま歩みを止めずにフロントキックを食らわす。

 いわゆるヤクザキックというやつだ。

 充分に力を弱めて撫でるように蹴ったのだが、AEXSSのパワーで蹴られたオッサンは身体を二つに折り曲げて数m吹っ飛んで地面に転がり、そのまま動かなくなった。

 ・・・死んでないはずだがな。多分。

 ちょっと自信が無い。

 

 向きを変えて元いた場所まで歩いて戻り、振り返って皆の方を向く。

 さすがに全員黙っている。

 

「ああ、すまん。ちょっと雑音が入った。改めて、この船から発せられた救難信号を受信して助けに来た船、レジーナ・メンシスIIの俺が船長のマサシだ。そっちはうちの船のクルーでルナ。二人とも地球人だ。」

 

 そこで言葉を句切って全員を見回す。

 皆しっかり黙ってこっちを見ている。よしよし。

 微妙に眉を顰めた奴が居るが、多分俺の最後の台詞で、俺達が地球人だと聞いたからだろう。

 まあ、良い意味でも悪い意味でも、こういう状況で皆を黙らせるには地球人という肩書きはとても便利だ。

 何をしでかすか解らない野蛮なヤバイ奴ら。

 実際、騒いだ奴を問答無用で一人蹴り殺している。

 いや多分死んでないが。

 

 俺の近くに立っているベルスォットも、微妙な顔でこちらを見ている。

 それには気付かないふりをしてそのまま続ける。

 

「この船『ソルハリサリュージVIII』は、デリト星系外縁にジャンプアウトした後に、八隻からなる海賊船団に襲われて、EMP攻撃を食らい強制停船させられた。ここまでは皆知っているとおりだと思う。」

 

 皆を見回すと、驚いた顔の者と、話を聞いてこちらを見ながら頷く者が大体半々で混ざっている。

 この辺りの状況が乗客が知っている限界と入ったところか。

 当たり前と云えば、当たり前だが。

 その後この船はすぐにEMP攻撃を食らって、外の状況は全く判らなくなったはずだ。

 

「EMP攻撃を食らう直前、この船は救難信号を発して、それを受信したデリト5dの鉱山から中継を受けて一番近いところに居た俺達が助けにやってきた、というわけだ。

「俺達の船がこの船に接舷する前に、海賊船八隻の内六隻は撃沈した。残りの二隻は既にこの船に接舷していた。下手に攻撃するとこの船に被害が出るのでそのままにしてある。

「その状態で俺達も接舷し、乗り込んできた。カーゴルームに来たのは俺達二人だが、もうひとチームブリッジを制圧するために動いている。ブリッジを制圧し次第この船のシステム復旧に取り掛かる予定になっているが、まだ復旧していないところを見ると向こうは案外海賊どもの数が多かったのかも知れん。

「海賊船二隻ぶんだからな。最大で数十人の海賊どもが、ブリッジを渡すまいと頑張っているのかも知れない。だからこの後俺達もそっちに応援に行くつもりだ。」

 

「向こうの様子は分からないのか? あんた達同士で通信は?」

 

 乗客の中の男が尋ねてきた。

 ま、当然の質問だよな。

 

「EMPを食らってるから電磁波の通信が使えない。量子通信も通信機の作動を検知される恐れがあるから、使用を控えている。通信量からこちらの戦力と位置を特定される可能性がある。海賊に比べて俺達は数が少ない。不意打ちの優位を手放したくない。場所を知られると多勢に無勢で囲まれる恐れがある。

「だから、向こうの様子は分からないんだ。済まないな。」

 

「ブリッジには何人向かったんだ?」

 

 同じ男がまた訊いてくる。

 

「三人だ。大丈夫だ。一人はシステムエンジニアだが、残る二人はプロフェッショナルだ。あいつらが海賊如きに負けるとはとても思えん。」

 

 多分、という俺の予想だが。

 ブリッジ入口でポンコツHASでも着用した海賊が頑張っているのじゃないだろうか。

 海賊の向こう側がブリッジなので、流れ弾を出すのが怖くてHASをぶち抜けるだけの威力の弾が打てない、とか。

 いかなアデールとは言え、弾幕を張られた銃撃戦の中でまるでスナイパーの様に単発で百発百中の命中を出すのは無理だろう。

 かといって、狭いところに密集している敵に対しては、黒い悪魔(デモンノワール)(Daemon Noir)と呼ばれたニュクスでさえ、敵を一人ずつ暗闇に引きずり込むようないつもの戦い方もやりにくいに違いない。

 負けることはあり得ないが、かといって攻めるにも決め手に欠けるという状態に陥っているんじゃないだろうか。

 

「で、俺達はどうすりゃ良い?」

 

 と、俺の脇に居るベルスォットが訊いてきた。

 

「ああ。引っ張り出しておいてすまんが、また部屋の中に閉じ籠もって待機しておいてくれないか。そこで寝てるオッサンの云うとおり、部屋の中に居れば多少は安全だ。弾は防げないが、少なくとも海賊に姿を簡単に見られることは無い。居場所が分からなければ標的にもされにくいだろう。」

 

「分かった。」

 

 ベルスォットは頷いた。

 

「ルナ。」

 

「はい。」

 

 ほぼ存在を忘れるほどに静かに俺の後ろで待機していたルナの方を振り返ると、返事をする彼女が僅かに身体を動かし、両手に逆手に持った黒い刀が非常灯の薄暗い明かりを反射して僅かにキラリと光った。

 

「ブリッジに行くのか?」

 

「ああ。いい加減時間が掛かり過ぎてる。とっとと片付けんとな。」

 

 ベルスォットの問いに首肯する。

 

「待て。フィールス。彼等に付いていけ。」

 

「え?」

 

 突然ベルスォットに呼ばれたフィールスが俯いていた顔を上げ、そしてその表情が見る間に絶望に染まる。

 

「え、いや、だって。武器が。え、無理。無理よ。」

 

「武器なら途中の武器庫で調達できるだろう。お前の権限なら武器庫を開ける。」

 

 いや、システムが落ちてるのをどうにかしに行くのだから、武器庫は開かんと思うがね。

 絶望に染まった彼女の顔は恐怖に歪み始め血の気が失せて、今にも泣きそうな表情になる。

 

「お前警備主任だろう。何かしておかんと、マジで帰った時面倒なことになるぞ。お前のためを思って言ってる。」

 

 この世の中、「君の為を思って言っているんだ」と言われた時は、まあだいたい大きなお世話な事が多いとしたものだがね。

 或いは「君の為」なんてのは大嘘の建前も良いところで、上手いこと言いくるめて自分に有利になるように利用しようとしてるとしたもんだ。

 どちらにしても、連中の社内の問題で、フィールス個人の問題だ。

 俺達が口を出すことじゃない。

 

「無理・・・無理。嫌。ムリ。」

 

 そう言ってフィールスは首を振りながら覚束ない足取りで尻込みして後退るが、すぐに後ろに立っていた男にぶつかって転びそうになる。

 ぶつかられた男はフィールスの肩を支えて彼女が転ばないようにした。

 結果的に男に押さえられ逃げられなくなったフィールスに、ベルスォットが近付く。

 

 距離が接近した二人が何かボソボソと話し続けているが、よく聞こえない。

 ただ、フィールスの表情がどんどん絶望の淵に落ち込んでいき、身体から力が抜けていくのが分かる。

 

「どうするんだ? あまり長くは待てないが。」

 

「ああ、済まない。済まないが、フィールスが付いていく。警備の人間も居るのに、誰も付いて行かないというわけにもいかない。彼女を連れて行ってくれ。見ての通り武器もろくに持っていないからどれだけ役に立つか分からないが、しかしこっちの警備の人間が誰も行かないという選択肢はあり得ない。」

 

 どうやらそれで決定らしい。

 護る対象が出来るというのは余りよろしくは無いのだが。

 と、フィールスの顔を再び見たが、完全に俯いて長い金髪に隠れた彼女の表情は全く読み取ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 済みません、結局GW中に更新できませんでした。申し訳ない。

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