表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜空に瞬く星に向かって 第二部  作者: 松由実行
第十八章 シェイクハンド・プロトコル
96/96

6. ヒキコモリ警備スタッフ


 

 

■ 18.6.1

 

 

 俺がHASを始末するのとほぼ時を同じくして、ルナもHASとの追いかけっこを止め、追いかけてきていたHASを僅か一瞬で始末していた。

 ルナを追っていたHASは、本人は当然必死でルナを追いかけていたのだろうが、実際のところはルナに適当にあしらわれていただけだったということだ。

 HASの中身の奴が知ったら悔しがるだろうな。

 もうすでに知ることも出来ない状態になって床に転がっているが。

 ルナは更に、コンテナの山の頂上辺りに陣取って自分を銃撃してたLASも片付けていた。

 ずっと床近くに居た俺からでは見えない位置だった。

 

 つい先ほどまでの激しい機動がまるで嘘のように、ルナが俺の目の前に静かに着地した。

 ふわりと広がるスカートと、軽い着地音しかせず体重さえも感じさせない様なその着地は文字通り俺の目の前に舞い降りた、という感じの着地だった。

 

「貨物室内に待ち伏せしていた敵は全て排除できました。他に潜んでいるかも知れませんが。」

 

「いや、大丈夫だろう。コンテナの中身を調べに移ろう。居住用のコンテナがあるはずだ。」

 

 俺達は海賊どもに気取られないように量子通信までも封鎖していた。

 だが、先にこの船に居て俺達を待ち伏せていた海賊どもは、そんな遠慮など無く通信を行っていたはずだ。

 カーゴルーム周辺にまだ潜伏している奴が居たならば、ここで発生した戦闘に応援に来ていたはずだ。

 近くに他の海賊がまだ隠れている可能性はそれほど気にしなくとも良いだろう。

 

 ルナと手分けしてコンテナの山を確認しようと移動していると、金属をぶん殴るような鈍い音が辺りに響く。

 これは、船殻にデブリのような物が無数にぶつかっている音だ。

 海賊達によるEMP攻撃で動力を失い、主星の引力に引かれ星系内に向かって落下していくこの船がデブリ群の中に突っ込んだのか、或いは部分的にでも息を吹き返した海賊船とレジーナが交戦しているのか。

 後者だとすれば、通信封鎖で連絡を取ることも出来ないレジーナが元気に暴れている証拠でもある。

 

 ジュシブンレドール社員が居るであろう居住用のコンテナを探すのは簡単だった。

 通常の貨物用のコンテナが、コンテナの端が全面開放されるような大きな観音開きの扉を持っているのに対して、居住用のコンテナはその扉にさらに人が一人通れるだけの小さなドアが設えてある。

 さらには、二段重ね、三段重ねにコンテナを積み上げたときに、上の段のコンテナに簡単に入れるように、コンテナ脇に機械式のリフトと通路か、或いは階段が取り付けてあった。

 要は、それらの設備が取り付けてあって簡単に中に入れるようになっているのが居住用で、それ以外が普通の貨物用のコンテナなのだった。

 

 よく見ると居住用のコンテナはそれぞれが小型のリアクタとジェネレータ、さらにはエアコンディショナも装備しているようだった。

 当たり前と言えば、当たり前か。

 安い一般貨物用のコンテナは、気密がしっかりした観音開きの扉を持った只のデカい箱だが、中には小型のリアクタとジェネレータを備えており、管制システムの指示に従って自動で移動して所定の場所に収まる事の出来るタイプのものもある。

 そのようなコンテナを移動させるにはコンテナ専用の牽引車(トラクター)やガントリーアームなど必要なく、モノによってはチップからの指示を直接受け取って、港湾作業者が手ぶらでコンテナ積み作業を行えるようなものもある。

 さらには、そのリアクタからのパワー供給を受けるエアコンディショナも装備しており、コンテナ内に積み込まれたヒトや動物などが生存できる環境を維持できるような機能を持つものもある。

 

 この船に積み込まれ、ジュシブンレドール社員の個室として利用されている居住用コンテナは、その手のコンテナの中にベッドやテーブルなどの生活用の家具を入れたものだろう。

 もしかすると、お偉いさんが快適に過ごすためにもっと色々な物も運び込まれているのかもしれない。

 いずれにしても、そのようなコンテナをカーゴスペースに幾つも積み込むことで、無骨で実用性のみを追求した大型の貨物船が、快適な居住空間を持った旅客船に早変わりする。

 鉱山用の資材を輸送する為の無骨で薄汚れた輸送船の使い回しの筈が、中身だけは中クラスの旅客船にいきなりクラスチェンジだ。

 もとより辺境の鉱山に資材を届けるために、その手の輸送船はジャンプ機能を備えている。

 見た目にさえ目を瞑れば、銀河のどこにでも快適な旅が出来る社用船として使い勝手が良いのだろう。

 

 ちなみに、惑星上や大型ステーションなどのちょっとした空きスペースにその手のコンテナを積み上げて、街中にある立派な造りの建物を持つホテルよりも安価な宿泊施設として営業している場合もあるようだ。

 実際にその手のコンテナホテルの中に入ったことは無いが、話の種に聞いた事はある。

 噂では、部屋の狭さに目を瞑ればなかなか快適な居住空間なのだそうだ。

 

 というような事を考えながら、まさに居住用コンテナの入口ドアの前に立つ。

 大柄のヒトでも楽に通れるほどのサイズのドアの脇に、コミュニケーション用のユニットがある。

 指を伸ばしてそのパネルに触ると、パネルに光りが灯ってアクティブ化してボタンが表示された。

 「押す」と書かれたそのボタンは多分呼び鈴だろう。躊躇いなく押す。

 ・・・が、しばらく経っても何の反応も無い。

 再びボタンを押す。

 やはり反応が無い。

 

 そこでふと気付く。

 海賊に乗り込まれて占領され、つい先ほどまでこのカーゴルームで盛大にドンパチやっていたのだ。

 呼び鈴が鳴ったところで、「はーい、どなた?」と返答するバカは居ないだろう。

 まさか中で死んでいたりはしないよな?

 アサルトライフルの徹甲弾は、HASの装甲をぶち抜くことを目指して設計されている。

 コンテナの外壁など薄紙と同じだ。

 

 多分カメラ機能も持っているであろうパネルの正面に立ち、ヘルメットのシールドバイザーを開ける。

 

「俺は貨物船レジーナ・メンシスII船長のマサシだ。ジュシブンレドール社のデリト5d鉱山の警備部からの要請を受けて救助に来た。生きているなら返事をしてくれ。」

 

 海賊に襲われ疑心暗鬼になっていたら返事もしてくれないかもしれないが、かと言ってさすがにコンテナを切り裂いて無理矢理引きずり出すのも憚られる。

 そんな事をすればより頑なな態度になるだけだろう。

 それは最後の手段だ。

 

「居ないのか? 無人のコンテナならこの後安全確保の対象から外す。居るなら返事をしてくれ。」

 

 しばらく待つが返事がない。

 実はAEXSSの高性能なセンサが、俺が二回目に話しかけた直後にコンテナの中で何らかの動きがあった振動を捉えている。

 多分、インターホンを通じて突然話しかけてきた奴が、名乗ったとおりに本当に救助にやってきたのか、或いは海賊が適当な事を言って自分を騙そうとしているのか、疑心暗鬼になってしまって判断が付かないのだろう。

 時間の無駄だ。

 他のコンテナを当たって、もう少し度胸のある奴を探そう。

 

 俺はコンテナの入口ドアを離れ、数歩下がった。

 ジェネレータを使わず、AEXSSの補助脚力だけで跳び上がって、上に積まれた別のコンテナの入り口前に設えられた通路に降り立つ。

 入口の扉に近付き、顔が見えるようにパネルに接近して呼び出しボタンを押す。

 

「無事か? 無事なら返事をしてくれ。俺はデリト5d鉱山の警備部から要請を受けて助けに来た、貨物船レジーナ・メンシスIIの船長、マサシだ。ここの貨物室の海賊どもは全て排除した。安全は確保した。」

 

 やはり応答は無い。

 コンテナの中に動きも無いようだった。

 さて、本当に人がいないのか、ただ単に息をひそめているだけなのか。

 

「誰も居ないのか? ・・・・面倒だな。コンテナ全部切り刻むか。」

 

 と、最後に聞こえるように呟く。

 途端にコンテナの中で動きがある。

 

「待てっ! 居る! 無茶は止めろ!」

 

 と、パネルから声がした。

 

「ああ、良かった。無事か? 海賊に何かされてないか?」

 

「無事だ。本当に救助に来てくれたのか?」

 

「ああ、そうだ。さっき言ったとおり、ジュシブンレドール社の警備部から要請があった。この輸送船ソルハリサリュージⅧには、ジュシブンレドール社の乗組員の他、旅客として社員が乗っていると聞いている。あんたがその旅客の一人か?」

 

「・・・そうだ。」

 

「俺のことを信用して良いものかどうか判断付かないだろうが、あんた達を助けに来たのは確かだ。俺達は個人の運送業者でね。デリト5dの鉱山に緊急配達の資材を届けた帰りだ。もうすぐデリト星系から離脱するというところで、この船からの救難信号を受けた。鉱山の警備部からの要請もあって、助けに来たという訳だ。この船の回りの海賊は排除が終わっている。この船の船内も、もうすぐ安全が確保できるだろう。」

 

「お前が海賊では無いと証明できるものはあるか?」

 

 まあそうだよな。

 例えコンテナハウスの中に船の運航状況などをモニタする事が出来る端末などがあっても、海賊に襲われてすぐにEMPを撃ち込まれたのだ。

 それ以降の状況は一切不明だろうから、レジーナが海賊船を始末した事も知るはずが無い。

 

「証明できるもの、か。無いな。強いて言うなら、こうやって紳士的に対応していること、くらいか?」

 

 今の世の中、どんな物でも原子レベルでまるごとコピーできてしまう。

 何か唯一無二のユニークなアイテムを持っていたところで、そっくりそのままコピーしてしまえばユニークもヘッタクレもない。

 そのてのコピーを製造するコピー機や物質転換機には、政府などの発行する公的な証明を検知したらコピーを停止する機能が付与されているが、そんなものブラソンクラスのハッカーにかかれば易々と無効化されてしまうだろうし、そもそも違法に造られたコピー機ならばそんな機能など最初から搭載しているはずも無い。

 物質的な証明書に限った話ではなく、電子的な証明書にしても話は同じだ。

 

 ユニークなデータを格納して、ハッキングしようとすれば自壊してしまうような物理的電子キーを作ればかなりの信頼性も担保できるIDやキーが作れるらしいのだが、そんな高尚なものはそれこそ政府高官が保持していたり、国家の機密文書に付与されたりするようなものであって、こんなしがない運び屋が持ち歩いているようなものではない。

 

 という訳で、コンテナハウスの中のジュシブンレドール社員に海賊で無い事の証明を求められても、俺にはそれを証明するだけの手段など無かった。

 

「・・・そうだな。分かった。とりあえず信用する。俺はこのままここに籠もっていた方が良いか? それともどこかに避難した方が良いか?」

 

 おっと。

 このコンテナの中の男は、なかなかに勇気と冷静さのある奴らしかった。

 

「仕事を頼んで良いか? このカーゴルームに積んであるコンテナの中には、他にもジュシブンレドールの社員が居るんだろう? その連中に俺達は救出に来た貨物船の船員で、海賊じゃ無い事を説明して欲しい。何かあったときに、こっちの誘導に従って貰えないんじゃ面倒な事になりかねん。」

 

「説明するもなにも、俺がまだあんたのことを疑っているんだが?」

 

「そこは信じて貰うしか無いな。」

 

「分かった。ちょっと待ってろ。」

 

 そう言うと、少しして男がドアのロックを解除してドアを開け、コンテナから出てきた。

 中から出てきたのは華奢な体格の、俺よりも少し年上に見える男だった。

 落ち着いたベージュ色のシャツに黒いズボンを履いたその男は、落ち着いた雰囲気のある眼と、少し長めの赤みがかった濃い色の髪が印象に残った。

 

「大変なときに面倒を頼んで悪いな。」

 

「ベルスォットだ。海賊が乗り込んできたと言われて部屋に閉じこもったは良いが、どうしようか途方に暮れていたところだ。わざわざ助けに来てくれたというなら、有難い話だ。それくらいは協力するさ。」

 

「助かる。ジュシブンレドールの社員は何人ぐらい乗ってるんだ?」

 

「この輸送船の乗組員が八人、ここのコンテナルームに十二人だ。」

 

 見たところ、カーゴルームには三十近いコンテナが積み上げられていた。

 勿論それら全てがコンテナルームでは無く、一般の貨物用コンテナも沢山ある。

 

「じゃ済まんが、片っ端から声をかけていって貰えるか? 部屋から出てきて貰う必要は無い。まだブリッジを奪い返せていないし、船のシステムも回復していないからな。とりあえず助けが来たってことだけ納得して貰えりゃいい。」

 

 船のシステムが復帰しておらず、ブリッジに向かったブラソン達から連絡が無いという事は、ブリッジ周辺に立て籠もった海賊達と交戦中でまだ排除できていない可能性が残っている。

 乗客達は自室に居て貰う方が良いだろう。

 

「分かった。とりあえず下の部屋から始めるか。」

 

 そう言って、ベルスォットと名乗った男は積み上げられたコンテナ脇に組まれている通路を通り、階段を降りていく。

 俺もその後に続く。

 ベルスォットはしたのコンテナのドアの前に立ち、パネルのボタンを押した。

 

「フィールス。俺だ、設備保全課のベルスォットだ。無事か? 聞こえてるか?」

 

 ベルスォットが話しかけてもしばらく部屋の中からの応答は無かったが、何度目かの呼びかけで女の声が応えた。

 が、何か喋っているのだが、もそもそ小声で話していて何を言っているのか聞こえない。

 ベルスォットもパネルに耳を張り付けるようにして聞き取ろうとしている。

 

「だから、設備保全のベルスォットだ。上のコンテナを割り当てられた。顔合わせはしただろう。覚えてないのか? メシの時にも会った事があるだろうが。」

 

 ボソボソと室内に籠もっていつまでも何かをごねている女に応答して、ベルスォットも段々イライラとした話し方になっている。

 

 その時、俺の横で衣擦れの音と、軽い物が床に落ちたような音がして右を向いた。

 

「社員を一人懐柔できたのですね。情報源としても有用です。済みません、私の方は上手く行きませんでした。」

 

 と、積み上げられたコンテナのどれかから飛び降りてきたのだと思われるルナが、ベルスォットを眺めながら呟いた。

 懐柔て。

 お前それじゃ海賊の側の台詞だろうが。

 まあ、突入した俺達も色々と情報が欲しいという意味では似たような状況なのだが。

 

 コンテナの中のヒキコモリ女と何度かのやりとりがあり、ベルスォットの話し方がどんどん苛ついたものになっていった後、やっとコンテナのドアが開いた音がした。

 中からは見事なプラチナブロンドを長く伸ばし、地球人基準で相当な美人に分類されるであろう女が、開いたドアの陰に隠れる様にしてドアの隙間から顔だけを覗かせてこちらを見ていた。

 こちらを振り向いたベルスォットが少し疲れた顔をして言った。

 

「マサシ船長、コイツが今回の視察に同行している警備部主任のフィールスだ。」

 

 ・・・・警備部主任?

 このヒキコモリ女が?

 

 

 

 

 

 

 


 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 投稿随分遅れてしまいました。申し訳ない。

 言い訳ですが、リアルの仕事が。


 普段ならGW中は家族サービスで更新無しなのですが、今回は出来れば更新したいなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ