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夜空に瞬く星に向かって 第二部  作者: 松由実行
第十八章 シェイクハンド・プロトコル
93/95

3. ソルハリサリュージ突入


 

 

■ 18.3.1

 

 

 海賊に襲われている貨物船に手を差し伸べることが出来るのがレジーナだけだと知った俺達は、急ぎ自室に戻って装備を身に付けた。

 具体的には、AEXSSを着用してナイフなどの愛用の武器を身に付け、その後武器庫から銃やグレネード類を取り出して所定の場所に取り付け格納する。

 着替えている間にアデールやニュクスを含めて話し合い、ソルハリサリュージⅧへの接舷方法を変更した。

 20分後、俺達はエアロックに集合していた。

 

「マサシ、ジャンプ可能域に到達しました。いつでもどうぞ。」

 

 と、レジーナ。

 

「オーケイ。行動の最終確認だ。ジャンプ前にホールショットで小規模EMPを海賊船二隻に叩き込んで無力化する。効果を確認後通常ジャンプしてソルハリサリュージから約100kmの位置にジャンプアウト。ソルハリサリュージに接近して接舷。重力アンカーで固定。海賊船から攻撃を受けた場合は、レーザーと分解フィールドで対処。俺達はエアロックから船外に出てソルハリサリュージに取り付く。ソルハリサリュージのエアロックを緊急開放して、レジーナとの間にエアシールドを確保。俺達は突入する。突入後ブラソン、アデール、ニュクスのチームはブリッジを目指して移動。ブリッジを占領後システムの復帰作業。ルナと俺のチームはカーゴエリアを目指す。目標はジュシブンレドールの重役の確保。途中、海賊どもとの交戦が予想されるが、全て実力で排除。捕虜を取る必要は無い。ジュシブンレドールの社員は殺すなよ。非常事態だ。常識的には全員船外服を着てIFF信号を出しているはずだ。

「ソルハリサリュージのシステムがダウンしていて、船内の様子が全くわからん。どんな情報でも共有すること。通信は常に量子通信。銃を派手にぶっ放して船殻を穴だらけにするんじゃねえぞ。他に何かあるか?」

 

 そう言って俺はエアロックに居並ぶ全員を見回す。

 最初に思いついた行動にかなりの枝葉を追加したが、基本的には皆と話し合いながら決めたので、行動内容はすでに全員が把握している筈だった。

 

 今回は貨物船の管制システムを生き返らせて支配下におくため、ブラソンも同行する。

 EMPでズタズタにされているであろうソルハリサリュージのシステムにノバグ達は直接侵入できない。

 ブラソンがある程度システムを修復して、彼女達の突入口を造る必要がある。

 

 ルナは俺と離れたがらないので、俺と同じチーム。

 戦闘能力が皆無であるブラソンを守るために、大概のことに対応できるアデールとニュクスを付けた。

 物理的破壊があってシステムを動かせない場合でも、ニュクスが居ればソフトハード両面でブラソンの大きな助けになるだろう。

 

 海賊どもが何人居るか分からないが、そうは言っても十人を割ることはないだろう。

 それに対して此方はたったの五人、しかもうち一人はただのオタクなので戦力としてはまるで当てにならない。

 人手はあればあるだけ有難いので、ニュクスの自室で眠っている、彼女の成人した生義体達も参加できないか聞いてみたが、普段は待機状態にしてあるので立ち上げるのに数時間はかかるとのことだったので諦めた。

 ので、結局この五人で突入することとなった。

 

 とは言え、アデールについては言うに及ばず、ニュクスもルナも相当に高い戦闘能力を有している。

 俺も一応地球人の端くれではあるので、それなりには戦える。

 ブラソンだって、AEXSSを着させるので丸腰はだかの状態ではない。

 海賊どもが貨物船の船内であるにも関わらず集団でアサルトライフルをフルパワーでぶっ放してくるような無茶な真似をしない限りはなんとかなるだろう、との判断だ。

 

「オーケイ、レジーナ。準備完了だ。まずは小規模EMPを海賊船二隻に叩き込んで無力化してから、通常ジャンプだ。」

 

 エアロックに集まった全員が俺を見返してくる視線に、疑いや迷いのようなものが混ざっていないことを確認して、レジーナに言った。

 

「諒解。両舷GRG、ホールショット。弾種EMP、レベル2。ホールアウト速度1km/s。装填、発射。着弾。」

 

 EMP弾には直径数十mの範囲にのみ効果を及ぼす歩兵の手投げ弾から、半径数万kmの大規模電磁擾乱を起こすものまで様々な種類と威力のものが存在する。

 この度レジーナが使おうとしているのは、目標の船の外殻に突き刺さり、目標の船内のネットワークのみをズタズタにする、船に対して使用するには最弱のタイプのものだ。

 すでに海賊どもが貨物船ソルハリサリュージに対して過剰な威力のEMPを使っている。

 強力なEMP弾をこれ以上ばら撒くと、こっちの突入行動に支障が出始める。

 

「さて、俺達も出かける用意をしようか。」

 

 そう言って俺はAEXSSのヘルメットのシールドを降ろした。

 同時にAARで表示されるアサルトライフルのステータス表示に眼を走らせて異常が無いことを確認する。

 俺の装備はアサルトライフルを持ち、両脇に高振動ダガーといういつものお気に入りスタイルだ。

 

 隣のルナは、もう見慣れてしまい違和感も感じなくなってしまった黑メイド服。

 メイド服にしては短すぎる膝丈スカートから伸びる脚は真っ黒なタイツに包まれているが、当然これはタイツではなくAEXSSだ。

 そしてこちらも真っ黒に塗られたヘルメットが頭を覆い、そしてヘルメットの上には三角形の黒い耳。

 

 ・・・ちょっと待て。

 黒い耳?

 俺はルナのヘルメットを二度見した。

 黒いヘルメットの頭頂部には三角形のピンと尖った小振りな一対の耳が付いており、細身の身体を全身黑メイド服で覆われたルナはまるで黒猫のようだ。

 なんか前もこんなことあったな。

 ・・・・・・・いや、もういい。見なかったことにする。

 

 ルナの向こうに居るニュクスに視線を移すと、ニヤニヤと笑ってこちらを見返す彼女はこれもまたいつものゴスロリ姿でノーヘル。

 ルナの耳はまたコイツの仕業か。

 ニヤニヤ笑いに微妙にイラつくが、無視だ、無視。

 船外に飛び出そうというのにノーヘルというのは違和感しかないが、コイツはこういう生義体(イキモノ)だ。

 船外の真空中でも数十分以上活動できる奴はこれで充分だろう。

 

 その向こうのアデールとブラソンが、全身黒スーツに黒ヘルメットという俺とほぼ同じ標準的なAEXSSであることにほっとする。

 二人とも俺と同じ様にアサルトライフルを手に持っているが、まあ、ブラソンのはほぼ飾りだ。

 戦闘力など期待していない。

 AEXSSに身を包まれていることで、運悪く弾が当たっても即死しない様になっていればそれで良い。

 今度ブラソン用に、AEXSSをベースにLASの様なプロテクタを張り付けて防御力に特化した改造をしても良いかもしれない。

 ニュクスに頼めば嬉々としてやってくれるだろう。

 

「EMP効果確認。通常ジャンプ、目標貨物船ソルハリサリュージⅧ北方100km、5秒前、3、2、1、ジャンプイン。」

 

 僅か1光年にも満たない短距離のジャンプは一瞬で終わる。

 

「ジャンプアウト。ソルハリサリュージ確認。目標は星系内に向かって等速直線運動を継続。接近します。」

 

 AARで視野に投映された概略マップの中で、緑色のマーカで示されたレジーナが、二つの赤い海賊船マーカに挟まれた黄色いマーカに向かって急速に接近する。

 

「海賊船二隻からの攻撃無し。接舷10秒前。移乗用意。5秒前、3、2、1、ゼロ。エアロック外扉開放します。エアシールド展開。」

 

 レジーナの声と共に、エアロックの外扉が開いた。

 エアロックの脱気はしていない。

 エアロック外にソルハリサリュージとの間にエアシールドを展開してある。

 パワーをバカ食いするエアシールドだが、何かあったときのためにいつでもどんな状態でもすぐにレジーナに逃げ込めるように、突入中はずっと展開しておく。

 

 開かれたエアロック外扉から船外に飛び出す。

 正面50mほど離れたところにデリト主星の弱い光を受けてうすぼんやりと暗く貨物船ソルハリサリュージⅧの船体が見える。

 ほの暗い船体の中でほぼ正面一箇所をレジーナの投光器の強烈な光が照らしている。

 ソルハリサリュージのエアロック外扉だ。

 

 エアロック外扉から船外に飛び出した俺は、右手に持ったワイヤリールをレジーナの投光器が照らしている辺りに向けてトリガーを引いた。

 ワイヤリールからワイヤが撃ち出され、ワイヤ先端の吸盤がソルハリサリュージの船体に接触して張り付く。

 親指で巻き取りのボタンを押すと、身体が引かれて貨物船の船体が急速に接近してくる。

 宇宙空間での船と船の間の移動は、近距離ならジェネレータを使うよりもこの方が早くて確実だ。

 重力波を発生しないから探知されにくいしな。

 

 真っ先にソルハリサリュージの船体に取り付いたアデールが、船殻に埋め込まれるように設置してあるエアロックの緊急開放機構を探し当て、カバーを開けた。

 中に手を突っ込んでハンドルを掴み、90度回転させてから引っ張ると、エアロック外扉が強制開放された。

 船内の空気が一瞬吹き出すが、レジーナが自分の船体からエアシールドを伸ばして接続したことで、空気の流出は止まる。

 俺達はエアロック内に雪崩れ込み、先頭のアデールがまた似たような構造の内扉強制解放機構を探し当てて操作すると、内扉のロックが外れて動いた。

 アデールが手を伸ばして扉の取っ手を掴み、AEXSSのパワーで強引にスライドさせて内扉を開いた。

 

 さらに彼女は、指示棒のようなものを取り出して伸ばし、先端に付いたセンサ部を暗い船内通路にに突き出した。

 レジーナの投光器に照らされたエアロック内と、隣接する船内通路は明るいが、その他の部分は非常灯が点いたり点かなかったりして真っ暗に近い。

 そんな船内通路に不用意に飛び出せば、目立つことこの上ない。

 待ち伏せでもされていれば恰好の的になってしまう。

 原始的だが、AEXSSに接続された棒の先に付けたセンサーを突き出して辺りを探るのが一番効果的なのだ。

 

 そのアデールがハンドサインで船内通路に海賊が見当たらないことを伝えてきた。

 さらに、俺とルナを指して船尾方向へ、自分とブラソンとニュクスを指して船首方向に移動する指示を出す。

 全てハンドサインだ。

 

 この船の周辺空間を含めてEMPで電磁擾乱が発生しているとは言え、その影響を受けない量子通信で会話すれば良いと思うだろう。

 確かに量子通信は電磁擾乱に関係無く通信が可能であるし、通信を傍受したり割り込んだりすることも難しい。

 だが、通信の内容は読み取れずとも、量子通信に使用される双極子モーメントの状態遷移を検知し、量子通信が使用されていることを検知する技術が存在する。

 その探知領域内で量子通信を使用すると、正確な位置を特定されてしまうので、こちらの位置と人数が敵に筒抜けになってしまうのだ。

 

 大概の場合常に金欠状態にある海賊がそのようなものを持っているとは思えないが、横流しのフリゲート艦を乗り回している海賊だ。

 その手の軍装備も合わせて手に入れている可能性を否定しきれない。

 そのため量子通信は非常時以外封鎖して、ハンドサインと肉声によるコミュニケーションに限定することをアデールが決めた。

 

 アデールのハンドサインに俺とルナは頷き、エアロックを出て船内通路を右に曲がる。

 ブラソン達はその反対方向に進む。

 ブラソン達が船橋を確保し、船のシステムを復活させて支配すれば問題無く量子通信を使用することができる。

 俺とルナは、その通信がやって来るのを待ちながら船内を探索して、ジュシブンレドールのお偉いさんを捜し回らねばならないのだ。

 

 視野の最下部ギリギリのところに、レジーナが鉱山の警備隊を通じて手に入れたこの船の内部図面を表示する。

 その船内マップに自分が緑、ルナが青色の輝点で重ねて表示される。

 船の図面は10年ほど前に貨物区画の大改造を行ったときに起こされた最新のものとのことだったが、その10年の間に図面を起こすほどではない小規模の改修を行っている可能性は否定できず、完璧なものではないらしい。

 勿論それでも何も無いよりはましだ。

 俺達はその船内図を頼りに、周囲を警戒しながら船尾へと歩いて行く。

 

 レジーナの様に細身で300m程度の全長しか無い船は、一般的に船体中央部を縦に貫通する主通路を持つ。

 通路が枝分かれするとしてもそれはごく短いもので、複数の通路が並行に走っていたり、分岐合流を繰り返すような複雑な構造の通路を持つことは少ない。

 しかしこの船、貨物船ソルハリサリュージⅧは、全長800m、最大幅300mもあるかなりずんぐりとした船体を持つ。

 当然その船内は、乗組員が船体の様々なところに到達できるように主立った通路だけで四本もあり、それら四本の通路同士を繋ぐ分岐や、主通路を離れて船体の各所に到達するための枝分かれした通路が何本も存在する。

 そして、五層にも分かれた巨大な貨物室と、乗員の個室や倉庫、その他様々な機能を振り分けられた小部屋が通路に沿って船内を埋め尽くしている。

 

 貨物室を大きく取るために、リアクタ室やジェネレータ室でさえ隅に追い遣られるように分割されている。

 レジーナの様に、貨物積載量を犠牲にしてでも足回りを重視するか、或いはその逆で速度を犠牲にしてでも貨物積載量を大きく確保するかという、設計思想の違いが船体の構造にはっきりと現れている。

 つまり、海賊どもが俺達を迎え撃つために待ち伏せしようとすれば幾らでも隠れるところがあり、そしてお偉いさん達を探して船内を探索する俺達は、常に気を張って海賊どもの待ち伏せと襲撃を警戒していなければならない、ということだった。

 

「マサシ、伏せて下さい。」

 

 パワーが落ちてまばらに非常灯が灯っているだけの暗い通路を、海賊の襲撃を警戒しながら移動していると、俺達の足音以外他に音のしない静かな通路にルナの声が鋭く響いた。

 反射的に壁に張り付き、さらに身体を低く屈めると、今まで俺が立っていた空間を何かが風切り音を纏いながら高速で飛び去っていく音が聞こえた。

 それが飛んできた方に眼を向けたが何も見えない。

 そして通路からはルナの姿が消えていた。

 

 

 

 

 

 

 いつも拙作お読み戴きありがとうございます。


 目標の貨物船に突入です。

 いつもなら詳細な索敵情報を持ち、周囲の地形も把握した、戦術指揮官役を務めるレジーナの指示と情報に基づいて行動するところですが、今回は色々な制約があっていつも通りに行きません。

 ま、この方が先の読めないインドア戦となり、良い感じになると思うのですが。

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