11. ブリッジ突入
■ 18.11.1
「行くぞ。3、2、1、走れ。援護する。」
そう言って俺はフィールスの肩を叩く。
フィールスが弾かれたように曲がり角を飛び出す。
俺もその後を追う。
援護する、と言っても、銃を乱射して援護射撃をするわけには行かない。
せいぜいがフィールスと一緒に飛び出し、ブリッジ前に陣取っている海賊どもの前に一緒に飛び出して相手の注意を引くくらいだ。
その僅かな瞬間の時間稼ぎが、フィールスに複数の目標を撃つだけの時間を与えることが出来れば良いのだが。
俺達が角を飛び出したのを見ていたのか、特に打ち合わせをしたわけでもないのだが、反対側の角からAEXSSが一人飛び出してくる。
アデールだ。
フィールスは滑り込むようにしてブリッジ前ホールの正面に止まり、身体を沈み込ませる動作でそのままライフルを構えた。
俺はその後ろを僅かに行き過ぎ、フィールスの邪魔にならない場所で止まって同じ様にライフルを構える。
身を投げ出したアデールがライフルを構えたまま床の上を滑ってきてフィールスの前で止まる。
貫通力の高くないレーザーくらいなら撃っても問題無いだろう。
ということで俺は少し威力を弱めたレーザーで、海賊が隠れていると思しき辺りを狙ってトリガーを引く。
海賊どもが積み上げたガラクタにレーザーが当たり小規模な爆発を起こす。
俺が撃ったところとは違う場所で同じ様な爆発が起こっているのは、アデールが撃ったのだろう。
その爆発で俺達が突撃してきたのに気付いたか、遮蔽物の陰に動きがあった。
海賊のHASがガラクタの山の陰から顔を覗かせる。
その動きを見逃すフィールスでは無い。
遮蔽物の向こう側に僅かに覗いたHASのヘルメット部分に正確に照準を合わせ、レーザー併用モードで引き金を引く。
レーザーがHASの装甲の表面を灼き、装甲から金属蒸気が上がり、急激に温度上昇した装甲が煌めく。
そこに、レーザーから僅かに遅れて放たれた徹甲弾が着弾する。
指切りで正確に放たれた三発の弾丸は、レーザーによって高温になり表面が軟化したHASの装甲に着弾する。
タングステンとバナジウムを中心に形成された重金属徹甲弾は、25km/sという超高速でHAS装甲に叩き付けられ、運動エネルギーと熱エネルギーで自身も崩壊しながら回りのHAS装甲を巻き込みつつ装甲内部に侵徹する。
HAS装甲を貫通してなお運動エネルギーを失わなかった弾体はHAS内部で撥ね回り、同時に生成したメタルジェットと共にHASヘルメット内部を徹底的に破壊し焼き尽くす。
そこに存在した柔らかなヒトの頭部が無事に形を保っていられるわけも無かった。
装甲を貫通してなおある程度の形状と運動エネルギーを保っていた弾体にズタズタに粉砕された頭部は、さらに同時に噴出してきた数万度に達するメタルジェットによって完全に焼き尽くされ、文字通り一瞬でHASを着用していた海賊の命を奪った。
突撃してきたのがLASに似た黒いスーツを着用した二人と、あろうことか生身の人間であることを認識した残り二人の海賊が、HASを着用しているという自身の装甲に対する絶対の自信を持ってガラクタの山の陰から姿を現す。
海賊のHAS二機が手に持った銃をおもむろに持ち上げ、もっとも撃たれ弱そうなフィールスに狙いを付けようとする。
ニーリング姿勢を取っているフィールスが、右側のHASに狙いを付け、間髪を入れずに指切りで二発の徹甲弾を放つ。
銃口から飛び出した弾丸の一発は、右側のHASの右手の関節を撃ち抜く。
そしてもう一発は、撃ち抜かれたばかりの関節のすぐ上、上腕部に着弾する。
重装甲を誇るHASとて、当然装甲が薄い部分は存在する。
肩や腕、脚の関節のそれぞれ裏側の部分だ。
肩や脚の関節は、前面に取り付けられた装甲で守られている。
だが、腕の関節は別だ。
勿論装甲が無いわけでは無い。
しかし腕の動きを確保するために、HASの他の部分に比べると遙かに薄くなっている。
フィールスの驚異的な射撃の腕は、右手に持った大口径のレーザーガンを持ち上げようと動いているその右腕の関節を正確に捉えた。
右側のHASの右手が、肘の関節で千切れる。
上腕部に着弾した弾丸からの衝撃が、未だ一部繋がっていた腕の関節を完全に引き千切る。
重いレーザーガンを持った右手が、銃を持ったまま空中を飛ぶ。
自分が撃った弾丸が右の海賊の右腕を吹き飛ばすことを確信していたフィールスは、すでに狙いを左のHASに向けている。
そしてトリガーを絞る。
生身の人間が、ましてやフィールスのような華奢な身体の女が持つには余りに重くて無骨なアサルトライフルの銃口から、眼には見えないレーザー光が迸る。
一瞬の後、三発の実体弾が正確にレーザーの軌跡を追う。
弾丸は、ほぼ全身を露わにしたHASの、レーザーに熱された腹部装甲に襲いかかる。
HASの腹部もやはり、関節がある分だけ胸部などに較べれば装甲が薄い場所だ。
弾丸はその腹部関節を正確に捉え、そして撃ち抜いた。
メタルジェットと共にHAS内部に飛び込んだ弾丸三発が、中の海賊の身体をズタズタに引き裂き灼いた。
身体に伝わる衝撃で、海賊は自分が撃たれたことを知った。
下を見下ろす。
そこには、HASの腹部装甲に空いたそれほど大きくない穴が三つ見えるだけだった。
外から見れば小さな穴が三つ空いているだけだが、中は生身の身体も、HASの内部構造も、全てがグチャグチャに破壊され掻き混ぜられていた。
未だ痛みを感じてさえ居ない海賊は、自分の下半身が急に力を失った事に気付く。
気付いたところで何が出来るわけでもない。
海賊のHASは腹から身を二つに折り、力なく崩れ落ちて、そして二度と動かなくなった。
フィールスは軽く息を吐きながら、ニーリング姿勢を解いて立ち上がる。
「HASが三機。でしたね?」
そう言って彼女はこちらを振り返る。
「ああ。そうだな、アデール。」
と、フィールスの前で床に寝た体勢のアデールに訊いた。
「ああ、そうだが。しかし貴女、凄いな。一発も外してないんじゃないか? ついでに、一発も貫通してない。」
フィールスが二機目のHASの右肘を撃った弾丸は、肘の内側の装甲の薄い場所を貫通したが、そのまま上腕部に飛び込みHASの装甲の中で撥ね回って外に飛び出してはいなかった。
同じく上腕部を売った方の弾丸は、HASの装甲にめり込んだ状態で止まっていた。
つまり、一瞬の判断で最適な角度で右肘を撃ち抜く事が出来、しかしHASの装甲に正面から当たれば止まる発射速度を選択した上で、跳弾しない角度で撃ち込まれたのだ。
「言っただろう。倉庫スペースにいたジュシブンレドール社員の中から良い人材を拾ってきた、と。」
「良い人材にも程がある。どこの軍の特殊部隊に居た?」
興味津々と言った風で、フィールスに話しかけながらアデールが立ち上がる。
「軍歴はありません。銃を持ったのも警備部に配属されてからですので、四年ほど前からでしょうか。」
「聞いた感じじゃ、特殊部隊並みの訓練を受けているようだがな。」
「素晴らしいな。貴女、うちに来ないか?」
アデールの言う「うち」とは、地球軍のST部隊のことか、或いはレジーナのことか。
「いえ、私など。技術があるだけで、他のことはまるで駄目なので。」
と、銃を持った後は人が変わってしっかりとした態度だったフィールスの眼が珍しく泳ぐ。
だが、アデールが言うのも分かる。
フィールスが突撃していって、海賊三人を撃ち倒す間、彼女の動きに全く違和感を感じなかった。
つまり、俺達地球人からすると普通ならもたついて感じる銀河種族達の、あの反応速度の遅さを彼女からは殆ど感じなかったのだ。
射撃の異常な正確さもさることながら、反射神経と判断力が地球人並みの素早さという事だ。
・・・ふむ。確かにKSLCに欲しい人材ではあるかも知れん。
誘うか。なんか社内での扱いは悪いみたいだし。
・・・いや、いかんイカン。
こんな戦闘要員ばかり増えると、また傭兵団と団長とか言われる。
「片付いたようじゃの。船橋の中にもまだ居るやも知れぬが。」
と声がして、ニュクスが歩いて近付いてくる。
その後ろにはAEXSSを着てヘルメットを被ったブラソン。
声の主を探ってニュクスを見つけたフィールスが目を丸くする。
「え。なんでこんな小さな子供が。」
ニュクスの見た目は、地球人で言えば五歳から十歳くらいの子供に見える。
東洋人であれば十歳かそれ以下、白人であれば六~七歳くらいか。
肌の色が病的なほどに真っ白で、その割には艶やかな漆黒の長髪であるその姿だが、少々あっさりめの顔立ちなので地球人に当てはめて白人とも東洋人とも判別はつかない。
「フィールス。深く追求するのは無しだ。こう見えて子供じゃ無い。立派な戦闘要員だ。」
「そ、そうなんですか。分かりました。」
子供と言われたニュクスがフィールスを見上げ、ニイと笑う。
その笑顔にたじろいだ様にフィールスが僅かに身を引く。
まあ、コイツの笑顔はいろんな意味で迫力があるからな。
いやもしかしたら、ビビったのは余りに場違いなゴスロリ服にかも知れん。
三人がLASの様な明らかな戦闘用のスーツを着て真っ黒いヘルメット。
一人は黒メイド姿にに黒ヘルメットで、もう一人はゴスロリドレスにヘルメットさえ付けていない幼女だ。
怪しすぎるな、この集団。
「さて。いつまでもここで駄弁っている訳にもいかん。ブリッジに突入するぞ。分かっていると思うが、中に海賊が何人居るか分からん。状況は全く分かってない。
「ニュクス、ルナ、ハッチを開けたら突入して左右に分かれてくれ。フィールス、二人の後に続いて突入だ。アデールは俺と共に、ハッチのこちら側で両脇の射線を確保。
「中の様子がまるで分からんから、これ以上の指示は無しだ。その場で対応してくれ。」
レジーナがいればかなり違ったのだろうが、繋がらないものは嘆いても仕方が無い。
「おう。人使いの荒い事じゃの。」
とニュクスが嗤う。
「諒解しました。」
とルナが無表情な声で言う。
実際に無表情かどうかは、ヘルメットに隠れて分からないが。
と、脇で破裂音がして身構える。
音の方を見ると、フィールスが床に倒れているHASの右膝を撃ち抜いたところだった。
例の、右肘を吹っ飛ばされたHASだ。
「まだ生きています。膝を壊しました。これで動けないでしょう。」
おう。
綺麗な顔して容赦ないな。
「じゃ、そのまま生かしておいてくれ。あとで色々聞けるかも知れん。」
ヒトが着用する軍用兵器であるHASには、当然のことながら中の兵士が生存できるような色々な機能が備わっている。
腕や脚の一本吹き飛ばされても、出血多量で死ぬようなことは無い。
必要に応じて戦闘薬や麻酔薬の投与も出来るので、ショック死することも無いだろう。
「さて、じゃハッチを開けるぞ。」
そう言ってハッチの前に立つ。
レジーナと違って、この船のハッチやドアはいずれも自動動作を主とするタイプだ。
船全体のパワーが落ちている今、手動で開けるにはかなり苦労する。
手で開けるためのノブが取っ手が付いているわけでは無いのだ。
こういう非常事態を想定して、レジーナのドアは手動が主になっているのだ。
AEXSSのパワーであっても、瞬間的に開けるという訳にはいかないだろう。
中で銃を構えている奴が居れば、もたもたしている間に撃たれる。
ので、こうする。
俺はライフルを持ち上げると、弾速を充分に落として扉脇のコントロールパネルを撃ち抜く。
さらに、パネル近くの扉の縁を撃って、右脚で扉を思い切り蹴り飛ばす。
ドアは派手な音を立てて船橋の中に向かって吹き飛んだ。
吹っ飛んだドアは、すぐに正面にあった何かにぶつかって止まる。
俺の両脇をニュクスとルナが駆け抜け、左右に消えた。
フィールスが俺の脇に来たので、左に動いて場所を譲り、そのまま扉の左側の壁に張り付き中を覗う。
案の定というか、当然というか、中にはこちらに向かって銃を構えているHASが居た。
が、左側のHASはルナに銃を持った腕ごと切り飛ばされ、右のHASはニュクスに殴り飛ばされた上に、脚を持って壁に叩き付けられる。
正面に陣取っていたHASがぶつかってきた扉を左手で五月蠅げに払うと、ほぼ同時に右手に持ったライフルをフィールスに撃ち抜かれて吹き飛ばされた。
その、扉を打ち払った左手に何かを持っている。
かなり破壊力の大きい、HASで使用することを想定した大型のハンドグレネードだ。
あんなモノがここで爆発すれば,ブリッジは跡形も無く吹き飛ぶ。
マズい。
HASを着けている海賊は無傷だろうが、生身のフィールスは確実に死ぬ。
そもそも船橋を吹き飛ばされれば、この船の機能を復活させることが困難になる。
と俺が思っている間に、受け持ちのHASを壁に叩き付けたニュクスが床を蹴って、正面のHASに横から跳び蹴りを食らわし、ニュクスの蹴りで少し体勢を崩したHASをルナが袈裟掛けに斬り上げた。
が、左手を離れたグレネードが宙を舞う。
さらにルナが追い打ちを掛けるように刀を一閃し、グレネードの一部を切り飛ばした。
空中のグレネードがまるでスローモーションのようにゆっくり床に落ちていくように見えた。
床に落ちると同時にルナが右脚でグレネードを踏みつける。
一瞬、奇妙な静寂がこの場を支配する。
「大丈夫です。起爆機能は切り落としました。船橋内クリアです。」
誰もが床に落ちたグレネードを注視するその静けさの中にルナの声が響く。
見れば、輪切りにされたグレネードの一部がルナの脇の床の上に転がっている。
「凄い。三機のHASを一瞬で。」
と、出番が無かったフィールスが感嘆の声を上げた。
うん。まあ、こいつ等ならやるだろう。
反射が速いと言われている地球人でさえ追いつけない、機械知性体が操る生義体の反応速度と身体能力だ。
凄いことなのだろうが、なんかもう見慣れてしまって当たり前のことになってしまった。
いつも拙作にお付き合い戴きありがとうございます。
なんか、「スペースオペラっぽい話です!」とか高らかに宣言した割には、地味に船内で銃撃戦ばかりやってることに気付きました。
大丈夫です。この後ちゃんとスペースオペラっぽくなるはず・・・・です。
ちなみに今羽田空港にいたりします。
今回は私一人での移動なので、仕方なく電車移動です。
バックパックとキャリーケースくらいなら、まあ山手線も京急も、品川での乗り換えも我慢できるので。
車は家に最寄りの駅前の駐車場に置いてきました。300JPY/d。
丁度今、目の前のボーディングブリッジにB787が入ってきました。
エンジンナセルと翼端形状が特徴的なので、一目で分かりますね。
でも旅客機って、どれも同じ形してるので見てて余り面白くないのですが。
そう言えばCRISISの方で、出てくる戦闘機の絵を描いてみてみんに上げようとかおもってたのですが、やってないなあ。




