12. 再起動
■ 18.12.1
海賊HASの脅威が無くなったことで、俺達は船橋の状況を確認する。
「あーあー。無茶苦茶やりやがって。ものの価値が分かってないクソどもが。」
と、俺達に続いて一番最後に船橋に入ってきたブラソンが、船橋の中を一通り見回してボヤいた。
ブラソンのぼやきももっともで、船橋の中には本来ここの正当な担当者であったろう乗組員達五人分の死体と、その死体を作り出すときに出来たのであろう無数の弾痕があちこちに空いているのが目立っていた。
まあ、そこにさらにHASを着用した海賊の死体を追加したのが俺達ではあるのだが、少なくとも弾痕は増やしていない。
ちなみにだが、ニュクスによって壁に叩き付けられたHASは、その後右腕と右脚をねじ切られた上で背中のバックパックに格納されているリアクタを破壊されて行動不能となっている。
勿論ニュクスはそれを全て素手で行った。
コイツにだけは喧嘩を売るのはやめようと思った。
あちこち見て回って様子を見ていたブラソンが、しばらくしてダメージが少なく侵入に都合の良い場所を見つけたらしい。
航海士のものらしい死体が乗ったままのHMDキャノピ付きバケットシートの裏側のパネルを取り外した上で、奴のAEXSSの左腕に追加されているI/Fボックスからケーブルを引き出してそこに繋ぎ込み、床に腰を下ろしてシート脇のパネルに背中を預けた。
俺やアデールが着ているAEXSSは標準型であり特殊な改造はされていないのだが、ルナのAEXSSが隠密格闘用黒メイド服という意味不明な魔改造を行われているのと同様に、ブラソンのAEXSSは運動性や武器拡張性を犠牲にして防御力を高め、こういった作業が可能なように通信関係の能力を高める改造が行われている。
勿論、悪ノリしたニュクスの手による地球軍非公認の魔改造だ。
地球軍の最新制式装備である上に、ほぼ特殊部隊専用の秘匿装備でもある筈のAEXSSにそんな事をしても良いのかと思わないでも無いのだが、やらかしたのが機械達の代表個体であるニュクスである上に、まさにそのAEXSSを主に使うアデールが何も言わないところをみると、多分黙認されているのだろう。
どころか地球軍の強かさを考えれば、そういう無茶な魔改造の中から瓢箪から駒的に有用な技術が出てきたら上手く取り込んでやろう位の事を考えているのかも知れなかった。
「ダメだ。最低レベルのパワーがブリッジ回りに供給されているだけだ。ニュクス、バックアップパワーを頼む。」
ブリッジとシステムルームを確保したら、あとはブラソンの独壇場となる。
だが幾ら凄腕のブラソンとは言え、ネットワークが死んでいては手も足も出ない。
どうやら、生命維持に必要な最低限のパワーが供給されているだけで、船全体のシステムを動かすだけのパワーが来ていないらしい。
カーゴルーム手前の船体下部に設置されているリアクタ(パワーコア)の脇にある、バックアップサプライをアクティブにしなければならない。
船の設備の事ならニュクスに頼るのが一番だ。
「うむ。お任せじゃ。アデール、また付いてきてくれるかの。」
「諒解。」
力業が目立ちはするが、実はこちらも暗殺者的な攻撃が得意なニュクスと、正統派で正面から力押しする攻撃法が得意なアデールとの組み合わせは、理想的な組み合わせだ。
まだ海賊どもの残党が残っているかもしれない船内を移動してリアクタ室に辿り着き、バックアップのバッテリをアクティブ化するのにこれ以上のコンビは無い。
通常リアクタ室回りは大型の設備や配管がゴチャゴチャとしていて、ニュクスが闇に潜むには最適な場所だ。
場違いなスキップをしながら船橋を出て行くニュクスの後ろをライフルを持ったアデールが追いかける。
それを眼で追うフィールス。
ま、慣れない者には余りに場違いで奇妙な二人に見えるだろうな。
「マサシ、あの娘は・・・」
と、ブラソンの仕事が終わるまで手持ち無沙汰な俺に訊いてくる。
「地球が機械達と同盟を組んだ話は聞いているか?」
銀河種族にとっては、機械達と手を組む種族がいるなど気が狂ったとしか思えないような有り得ない信じられないニュースであったので、地球人類によるその奇行は天の川銀河の人類居住域津々浦々まで知れ渡っているだろう。
「ええ。知っています。もしかして・・・」
案の定、フィールスもそのニュースは知っていた様だった。
「そうだ。彼女は機械知性体の生義体だ。気に入らないか?」
俺達地球人類の感覚でいうと、ヒトが悪魔と手を取り合って自国の防衛に関して協力関係にあるという様な話であるので、三十万年もの間機械達は人類にとって不倶戴天の敵であるとすり込まれ続けてきた銀河人類達の中には、一切の聞く耳を持たず絶対の拒否反応を示すものも少なくない。
お陰で小国が集合離散を繰り返している銀河系内の同盟関係は、この大事件をきっかけに大きく勢力図が書き換わってしまったのだが、まあそれについて話し始めると長くなりすぎるのでここでは割愛する。
「いえ。私自身機械知性体から何かされたわけでは無いので、特に強く思うところは無いのですが。しかしそれにしても自然だな、と思って。言われるまで、テランの子供なのだと思っていました。普通の子供と全く区別が付きません。機械というからには、もっと違和感のある存在を想像していました。」
いや、幾ら戦闘民族として有名な地球人とは言っても、幼女がHASの手足をねじ切るような真似はできんぞ。
そんな事が出来るなら、地球人の大人は素手で戦艦を破壊できてしまいそうだ。
そんな奴は地球でも普通映画の中にしかいない。
コイツの頭の中で、地球人のイメージはどんなことになってるんだ?
「嫌か?」
まあ、嫌だと言われてもどうすることも出来ないが。
一時的に共に行動するだけだ。我慢して貰うしか無い。
「不思議とそんな感情はありませんね。子供の頃から色々聞かされてきた筈なのですが。先に現実を見たからでしょうか。むしろ、興味というか、好奇心の方が強いです。」
おや。ここにも先入観よりも好奇心が強い奴が。
ちなみに、機械達と手を組んだ地球人の事を、まるで悪魔と手を組んだ者は魔女と断定して処刑したがる某宗教の暗黒時代の様な反応をして、地球人と聞いただけで嫌悪の表情を浮かべる者もいる。
もし似た様な宗教が銀河種族達の間にはびこっていたなら、悪魔と手を組んだ地球人など全銀河の種族達から集中攻撃を受けて一瞬で滅されてしまっただろう。
銀河種族達の殆どは宗教というものを持たず、神や神話と言ったファンタジーなフィクションを信じたりはしていない。
通常、種族がそれなりに進化して科学技術が向上し、思考の論理性が高まると、神話だの宗教だのと云うものの存在の矛盾と荒唐無稽さに気付き、大概の種族はその手のファンタジーな非論理性から卒業して、地に足の着いた論理性を地盤としてさらに発展していく。
科学技術が進歩しても相変わらずその様なものを信じ続けるのは、地球人のように、文明の黎明期や種族の誕生直後に外来の高度文明に触れる機会が実際にあり、魔法にしか見えない超越的な技術に触れる機会があった種族だけだ。
三つ児の魂ではないが、生まれたばかりの種族の無垢な精神の奥底に、神のように強大な存在と魔法のような驚愕的な技術が強烈に刻み込まれてしまうからだろうと言われている。
「そうか。それは良かった。なら安心して明かすことが出来るな。ここまで一緒に戦ってきたルナ。彼女は地球産の機械知性体という意味で、地球人だ。」
「え? 彼女も? 機械知性体ですか?」
そう言って、驚いた顔のフィールスはルナの方を振り返る。
ルナはヘルメットのシールドバイザーを開けて顔を見せ、軽く頷く。
もっとも、不自然さという意味においては、ルナの完全無欠の無表情は確かに機械知性を連想させるものかもしれないが。
・・・ただ、船の外で知らない人たちと話すときのルナは表情豊かなんだよな。
愛想笑いのようなものだと本人は言っているが。
「幾ら地球人とは云っても、生身でHASの腕をねじ切ったり、グレネードの信管だけを正確に切り落としたりなんて芸当は無理だ。機械知性に操られた生義体という、精確に動く強靱な肉体があってこそだ。」
・・・信管を切り落とす奴は、生身のヒトでも時々居そうな気もしなくもないが。
「そうなんですね。実は、私も反射神経には多少の自信があったのですが、彼女達の動きは全くついていけなくて。地球人というのはこんな小さな頃からこんなことが出来るのかと、ちょっと自信を失いかけていたところです。機械知性体の生義体でしたか。良かったです。安心しました。」
と言ってフィールスは強張り気味だった表情を緩めて少し笑った。
いやそっちか?
まあ、人それぞれだし、悪魔とその協力者みたいに忌み嫌われないなら別に良いのだが。
そうだった。
コイツも銃を持ったら性格が変わる、ある意味戦闘狂に近い種類の奴だった。
などとフィールスと話をしていると、ニュクスから通信が入る。
「終わったぞえ。今バックアップバッテリをアウトプットに切り替えた。そろそろそっちにもパワーが流れる頃じゃ。ブラソンに教えてやりや。」
と、まるで水が流れてくるような表現で、ニュクスが言う。
「ブラソン・・・」
「おう。分かってる。パワー来た。管制システムの掌握に入る。ちょっと待て。すぐだ。」
俺の音声での問いかけに、航海士席脇に座り込んでいるブラソンが応えた。
「ニュクス、パワー供給確認した。リアクタの再稼働準備に移ってくれ。」
「諒解じゃ。」
バックアップパワーは本来リアクタが止まってしまった緊急時に、リアクタ再点火をするためのものだ。
それほど余裕があるわけでは無い。
管制システムの掌握は極力早めにやって貰わなければならないので優先的に回しているが、リアクタ室を確保できたならとっととリアクタを点火してやらねばならない。
システムを掌握する前、或いはEMPを食らった為にシステム経由で正常なリアクタ点火が出来ない場合、ニュクスがリアクタ室で手動点火する事になっている。
船に関して一番知識を持って要るのはニュクスなので、未知の型式のリアクタであっても手動点火に対応できるだろうという考えが一つ。
そしてニュクスなら、万が一リアクタ起動時に放射線被曝してしまっても身体を調整漕で修復可能である事、或いは最悪新しい身体を合成して乗り換えれば良いという本人からの自己申告と立候補による。
微妙に気に入らない対応ではあるのだが、現実を見れば確かにそれが一番の正解だった。
「ところで途中残党はいなかったか?」
一応主通路を掃除しながら船橋に向かったとは言え、全てをしらみつぶしにしたわけではない。
当然見落としはあるものと思っている。
「居ったぞ。船橋出てすぐ襲うて来たわ。LAS二機なんぞものの数でもないわい。」
ふむ。
あとどれくらいの海賊が残っているのだろう。
万が一船橋に向かって攻め込んできても対応できるだけの戦力として、ルナとフィールスを残している。
一応、俺も船橋の確保とブラソンの安全を確保するチームの数には入っているが、彼女達と比べればかなり見劣りする戦力だ。
ブラソンがシステムを確保したら、上手くすれば残りの海賊の数と位置を特定できるかもしれなかった。
「無事なら良い。お疲れさん。済まんがもう一仕事頼む。そのままリアクタをどれでも一基、手動点火だ。」
船橋の確保に時間を食ってしまった。
考えを少し変えて、ブラソンの作業とリアクタの再点火を並行して進めた方が良いだろう。
「任せや。廉価型量産品のパワーコアじゃ。大した手間じゃないわい。」
「済まん。頼む。」
ニュクスからの通信が切れる。
それとほぼ同時にブラソンが声を上げる。
「管制システムを掌握した。思ったよりもシステムの物理的被害は少ないが、EMPを食らってる右舷が比較的酷いな。何カ所か過負荷で切れている。大丈夫だ。別ルートで回避可能だ。」
「俺達も使えるか?」
「使えるが、その辺のコンソール越しになるぞ。レジーナの様な便利なシステムは無い。コンソールのU/Iを通して手動操作だ。」
「構わん。ルナ、レジーナと連絡を取れ。未だに繋がらん。どういうことだ。」
「諒解しました。こちらのコンソールを使用します。」
と言って、多分船長席であろう場所をルナが占領する。
船長らしき男の下半身のみの死体はすでにシートから蹴り落とした後だ。
「明かりを点けるぞ。」
というブラソンの言葉と共に、天井と床が光り始める。
やがて撃ち抜かれて動作しないものを除いて、全ての明かりが点灯して安定した。
船橋にあるモニタやホロ表示などが全て復帰する。
「マサシ。やはりレジーナと繋がりません。本船の量子通信回線を利用した呼び出しです。つまり・・・」
完全無欠の無表情、応答する声にも感情が乗らないルナの声が珍しく困惑したような色を帯びている。
「つまり?」
「レジーナがこの世界に存在しないということを示しています。」
「通信機が何らかの理由で調子悪くなっている可能性があるだろう。」
「それなんですが、マサシ。本船は三隻の海賊船に囲まれています。そし本船の周囲にレジーナの姿は見当たらず、レジーナは量子通信に応答しません。」
え?
海賊船? なぜだ?
この船に乗り移ってくる前に、周囲の海賊船は、接舷中の二隻を除いて全て排除した。
また新たな海賊船が増えたという事か?
そしてその海賊船が未だに無事存在できているということは、この船の近くにレジーナが居ないという意味でもある。
いや。
例え数千光年の彼方に居たとしても、俺達が乗っているこのソルハリサリュージの近くに元気な海賊船が存在することをレジーナが許しはしないだろう。
レジーナにはそれに対処できる能力がある。
即ちそれは、レジーナが海賊船に対応が出来ないほどに正常では無い状態にある、という事を示していた。
いつも拙作お読み戴きありがとうございます。
時間が取れたので書けました。
ので、久々の週中での更新を入れます。
ホントはもとの週2回の更新にペースを戻して、どんどん話を進めていきたいのですけどねえ。
楽しみにしていただいている方、申し訳ない。




