影のボス。アイリーン
ソレイユ殿下が学園に来てからというもの、良い意味でも悪い意味でも少なからず変化は起こっていた。そして、その変化を喜ぶ者、困る者がいるわけで、ミランダの友人、アイリーンは多くの女生徒達の相談役になっていた。
「ソレイユ殿下が好きな物を知りたい」「ソレイユ国では、恋人に愛を伝えるのが一般的だと言うが、自分の恋人は私へ恋文も出してくれない」「外国に興味が出てきた」等々。
お茶会のついでの様な話から、自分の将来の不安などが寄せられていた。知らない文化を目の当たりにすると人は不安や興味、好奇心に侵されるようだった。
そして、その影響はシルバーシャドウズにも起こっていた。
「あらあら。そんな事になっているの?」
シルバーシャドウズの定例会議後、すぐにキャサリンとエリーはアイリーンに会いに行った。
幸い、ミランダが忙しい事もあり、キャサリンとエリーがアイリーンを探した時には、アイリーンは一人で優雅にカフェテリアでお茶をしていた。
「お二人もお茶をいかが?」
キャサリンとエリーのお茶をすぐに注文し、アイリーンはシルバーシャドウズの事についてはすぐに聞いておくことにしたのだ。
「どうしたのかしら?パーラメント様の事で何か?ミランダの事かしら?」
「突然押しかけてしまい、申し訳ありません。パーラメント様の事もですが、勇者ミランダ様の事でもありますので、親友のポレット様に意見を伺いたくて参りました」
「ミランダにも?今回の護衛の事かしら?ミランダの事であれば、いつでも来てくれていいのよ」
「はい。まずは幾つかお聞きしたいのですが、ソレイユ殿下が勇者ミランダ様を護衛にと希望されたとの事ですが、間違いないのですか?」
「ああ、そうね、ちょっと違うわね。ソレイユ殿下は『勇者の子孫が活躍していると聞く。勇者の子孫が学園に入るのならば、その者に学園の間、護衛を頼みたい』という希望であったの。ミランダが女性である事とかは何もその時点では知らなかったわ。だから、ミランダだから希望したのではなくって、勇者の子孫に会いたいって感じだったわね。その為にわざわざ隣国から来られたのだもの」
「なるほど」
「そして、サブロウ様や、ミランダのお爺様にお会いしたいと言われてらっしゃったから、『勇者の子孫のミランダはサブロウ先生の所の弟子』で言ったのよ。そこで一気に興味が出て来てしまって。私はミランダが殿下の護衛をする事は良い事だと思ったの。卒業後、女伯爵にミランダはなるでしょう?ミランダは社交界でも注目されているから、殿下とのつながりは良い事だと思ったの。何か問題があって?」
「騎士科の生徒達が悪口を言いだしました」
「ああ、騎士科のね。そのことも、ミランダには悪いけれど、ある意味、品行方正ではない、おかしな方が分かるじゃない?殿下にも護衛がいらっしゃるし、ミランダが傷つく事もないと思ったのだけれど、嫌がらせは酷いのかしら?我が家が動いても宜しくてよ?消した方が良い方かしら?」
優しい口ぶりなのに、圧を出しながらアイリーンはニコリと笑った。
「只今、調べております。もし、必要ならば判断はお任せ致します。それと、もう一つ、気になる点が。ミランダ様が交換留学生、もしくは殿下の婚約者候補にあがるかも、という噂はお聞きに?」
「え?交換留学生にですって?それは知らないわ。婚約者の噂話は聞いた事はあるけれど、現実的に無理でしょう?だから、ただの噂だと思ったのだけれど…。ソレイユ国にミランダを連れていくというの?」
膝元に置いていた扇子を開くと、アイリーンは落ち着くようにゆっくりと口元を隠した。
「殿下がミランダを気に入ってると言うのは分かるわ。ミランダは可愛く強く、魅力的だもの。ソレイユ国は開放的な国。ミランダの明るさも、殿下には好ましく映るでしょうね。だけれど…。まさか…」
「パーラメント様がこの噂をお聞きになれば、闇落ち間違いなしでございます」
エリーがそう言うと、アイリーンは扇子を閉じて頷いた。
「成程、確かに。これは緊急事態ね。我が家の影も使いましょう。オンブラン、ノクス」
アイリーンが静かに呼ぶと、音も立てずに、女性と男性がアイリーンの前に現れ礼をした。
「聞いていたわね。オンブランはお父様とお兄様に連絡を。レオナルド様にもお願いしましょう。セントバンク公爵家にも使いを」
そう言うと、女性の方が「は」と頷き、すぐに消えた。
「ノクス。貴方はパーラメント様に至急連絡を。ミランダの事、と言って頂戴。緊急事態だと。これですぐに来られるわ。私達からすぐに情報をパーラメント様に流して置けば闇落ちは塞げるでしょう」
「は」
そういうと男性の方も消えた。
「何か起こる前に先手を打っておかなければね。まったく、ミランダの側にいると、退屈しないわね。だけれど、もし、少しでもミランダを傷つける事があれば、私は許さないわ」
アイリーンはそういうと、優雅にお茶を飲んで、キャサリンとエリーにもお茶を勧めた。
「最近、ミランダのファンクラブも出来たって聞いたのだけれど?」
「はい、『アメジスト・グロウズ』ですね」
「どんなファンクラブなのか知りたいわ」
「かしこまりました。アイリーン様のお時間が宜しい時に、ご挨拶の機会を頂いても?」
「そうね、最近はミランダとの時間が無いでしょう?私もせっかくだからお誘い頂いたランチやお茶などには参加させて頂いて、色々な方との交流を深めているのですけれど…。ミランダのファンクラブは自由にと、思っていたのだけれど…やはり挨拶は必要ね」
「はい。しかし、ミランダ様のファンクラブは少数精鋭。皆、優秀な者ばかり。彼女達は問題を起こす事は無いでしょうが…」
「何?気になる点が?」
「会長は伯爵家の第三女。セリーナ・グランチェスターです。そして、メンバーにはシンリン子爵家の双子でございます」
「成程。あの、グランチェスター伯爵家。国一番とも噂される裕福な伯爵家の玉姫と呼ばれる…。あらあら、彼女がミランダの為にと言えば城が建つのではなくって?そして外交に強いシンリン子爵家。彼女達に力になって貰いましょう。まったく、ミランダを中心にこの国は回りそうね」
「致し方ないかと。アイリーン様もご存じの通り、ミランダ様もパーラメント様も大変魅力的な方ですので、皆の心を掴んで離しません」
「そうね。この国からミランダがいなくなるなんて、私も絶対嫌よ。お父様、お兄様、そして、レオナルド様に頼んで公爵家の力を借りてとにかく、ミランダをこの国に引き留めてもらうわ。まあ、ついでにパーラメント様の闇落ちを阻止と言うことね」
「パーラメント様は普段は優しく、美しく、とても優雅でいらっしゃいますが、もし、もしですが、ミランダ様が隣国に行かれるとなると…。暴走されるのは間違いありません」
「魔王となられない事を祈るしかないわね。あら、早い。もう来られたようよ」
アイリーンがドアの方をみると、髪を乱したノアが部屋に入ってくるところだった。
「さあ、パーラメント様、勇者様に付いて、作戦会議と行きましょう」
アイリーンはにっこりと笑ってノアに椅子をすすめたのだ。




