アメジストグロウズ誕生!
護衛任務についてから、ノアと会う時間はほぼゼロになった。
ノア、元気かな。そんな事を考えていると、キャサリンさんが一人の女性を連れて教室に入ってきた。私に用事があるようだが、どうやって声を掛けようかと困っているようだった。
「キャサリンさん」
キャサリンさんは殿下が近くにいるので、殿下にまず礼をして、そして護衛の方達にも礼をしてから最後に私に礼をした。
「殿下、こちらは私の友人です。少しお時間頂いても?」
「ああ、構わないよ。君の全ての交友関係迄奪うつもりはないからね」
「有難うございます」
私は殿下に礼をするとキャサリンさんの前に移動をした。
「キャサリンさん、どうしました?」
「勇者ミランダ様、お仕事中に突然申し訳ございません。最近は中庭でもお会い出来ず、どうしたら勇者ミランダ様に連絡が取れるのか、と考えておりましたが、よい案が浮かばず、こうして直接押しかけてしまいました」
「うん、そうだよね。で、どうしたの?」
「はい、こちらの グランチェスター伯爵令嬢をご紹介したく」
「グランチェスター伯爵令嬢?」
私が首をかしげて、アイリーンのような、気品のある綺麗な女の子を見ると、その子は品のある所作で私に礼をした。
「我が太陽にて唯一無二の勇者様であられるミランダ・リンツ様にご挨拶を申し上げます。グランチェスター伯爵家の第三女。セリーナ・グランチェスターでございます」
私に丁寧な礼をすると私から声が掛かるまで、グランチェスターさんは綺麗に腰を落としたままにした。その礼は素晴らしく、名前は聞いた事があると思えば、美しさで有名な令嬢だった。
「丁寧な挨拶を有難う、グランチェスターさん。私の事は知っているようだけど、子爵家のミランダ・リンツだよ、宜しく。グランチェスターさんの方が爵位も上なんだから、そんな丁寧な礼を私にする必要はないよ」
私がそう言うと「我が勇者様、セリーナとどうぞお呼び下さい」と言って、礼を解いた。うむ、その言い方も目が潤み、口元はぷるんぷるんとしていて、美しいと評判なのも頷けると思った。私が頷いてキャサリンさんを見るとキャサリンさんが説明を始めた。
「先日、話をしていた、勇者ミランダ様のファンクラブ、『アメジストグロウズ』が発足致しまして。このグランチェスターさんがアメジストグロウズの会長となりました」
「セリーナさんが会長?」
「はい。勇者ミランダ様、この度、私が『アメジストグロウズ』の会長となりました。今後ともどうぞ宜しくお願い致します」
「うん、ノアからも聞いてるよ。まあ、私はファンクラブの事はなんだか分からないけど、宜しくね」
私がそう言うと、セリーナさんは胸の前で手をぎゅっと握ると、思い出したように、バックから手紙を一枚取り出した。
「勇者ミランダ様、光栄でございます。こちらは、我らが名誉会長のパーラメント様からのお手紙でございます。最近はお二人共お忙しいとのことで、なかなかお会い出来る事も無い様子。私共、『アメジストグロウズ』のメンバーか『シルバーシャドウズ』のメンバーがノア様からのお手紙を毎日お預かりし、勇者ミランダ様に届ける事となりました」
「ノア。何をお願いしているんだ。職権乱用ってやつだな」
「いえ、私共にとっては毎日勇者ミランダ様にお会い出来るのですもの。ご褒美でしかありません。それにこれはシルバーシャドウズのファンクラブで決定した事です」
「そう?あ、やっぱり私のファンクラブも勇者ミランダって呼ぶの?」
「え、お嫌でございますか?」
さーっと顔色が変わったセリーナさんに私は首を横に振った。
「いや。ファンクラブって何か特別な呼び方があるのかと思っただけだよ。ノアも、私の事ミラって呼ぶからね。ファンクラブって、私と仲良くしたいってことだよね?じゃあ、特別な呼び名でいいんじゃないかな?親しく、ミランダちゃんとかかなって」
「み、ミランダ、ちゃ、ちゃん…、そのようにお呼びして宜しいのですか…。ぐ、ぐうう!」
片手で鼻を押さえ、もう片方の方の手でぐっと拳を握ると、セリーナさんは再び礼をした。
「で、では、み、みらん、みらんだちゃんと」
「うん、じゃあ、私のファンクラブの子にはセリーナちゃんって呼ぼうかな。なんだかそう言う特別な感じもあっていいよね、ファンクラブって友人の様な感じだよね?」
「はぅうう!セリーナちゃん…」
おでこに手をあてて倒れそうになったセリーナちゃんをキャサリンさんは受け止めた。
「お気を確かに!気持ちは分かります!しかし!ここで倒れては勇者ミランダ様にご迷惑が!ソレイユ殿下も見られていますよ!ミランダ様の評判が!」
キャサリンさんがセリーナちゃんにそういうと、セリーナちゃんの目がカッと開いた。
「勇者様に迷惑など!ふんが!!」
そう言って、似合わない声を出すと、「ふー!!!」と息を吐いて、気持ちを整えていた。
「お見苦しい所をお見せして、申し訳ありませんでしたわ」
「おお、素晴らしいね。確かにファンクラブ精神が『武力上等!』と言うだけある。ふむふむ。そうだ、今度サブロウ先生の稽古場にも来ていいよ。武力に興味あるのならね」
「稽古場に!は、はい、場所は知っています。で、では、ミランダちゃん、皆にも情報を共有しておきます。失礼致しますわ」
「うん、キャサリンさんも有難う。またね、セリーナちゃん」
私が手を振ると、今度は白目をむきそうになった、セリーナちゃんに、キャサリンさんが「気を!気を確かに!!気持ちは分かりますが!!」と、頭をぐわんぐわんと揺さぶっていた。
そうして、嵐のようにさって言った二人を見送ると、私の手元にはノアからの手紙が残った。殿下の元に戻ると、殿下は楽しそうに私を見ていた。
「リンツ令嬢は、女性人気が高いのだな。同性から好かれると言うのはとても素晴らしい事だと思う」
「人気が高いという訳ではないのですがね」
「ファンクラブまであるのだな。私の国では女性同士でそのようなファンクラブ等聞いた事がないな。ナジム、ハリス、どうだ?」
「我が国の人気の踊り子に熱を上げるのも異性ですね。最近人気の演奏者のファンも多くは異性だと思います」
「ふむ、リンツ令嬢。君はとても興味深いな」
殿下はそう言っていたが、私は別に特別ではない。
そんなことよりも、私は『愛するミラ』って書かれてある手紙の中身を早く読みたいと思っていたのだ。ノアの字を見ただけでノアの声が聞こえた気がした。ノアの声が聞きたいな。そんな事を考えて私はなんだか胸がきゅっとなったのだ。




