ミランダのファンクラブ
キャサリンさんと副会長さんはお互い涙を拭きながらも頷きあうと、私達に挨拶をした。
「あ、あと、その辞めた者達の中の一人が発足した、『勇者ミランダ様のファンクラブ』がございます。その者は近々ご挨拶に伺うと言っていました」
「…」
「ノア様推しから、推し変…、ミランダ様推しになった者達ですね。私はそれも喜ぶことだと思っております」
キャサリンさんとエリーさんは私とノアに綺麗に礼をすると立ち去っていった。
「…ノア…私のファンクラブだって…推し変ってなに?本当かな?」
「好きな者が変わった事を言うんだって。僕の愛は変わらないけどね。ミラのファンクラブ、『アメジストグロウズ』という名前らしいよ」
立ち去った二人を見ていると、ノアが私に答えたが、ノアはなんでも知ってるな。
「僕の方に、もう挨拶があったんだ。僕のファンだったけど、ミラの方を推したくなったと。こんな気持ちで僕のファンクラブにいるのは、僕にも他のファンの皆に失礼だ、って謝られてね。何より、自分の気持ちが苦しくなったって。僕は何も気にしないんだけどね。そして、ミラのファンクラブを作る許可が欲しいんだって。ミラのファンクラブを作るって聞いた時はどうしようかなって思ったけれど、僕のファンだったからこそ、僕が好きなミラを好きになったんだって。何度も説明されて、ミラへの愛は僕とは違ったけれどね、熱意は伝わったから許可したよ」
「…許可…ほぅ。既にノアに…。そして、私の許可は必要ないのかな?これは、また知らないのは私だけなヤツだね?」
「僕をミラのファンクラブの名誉会長にしてくれるって。そもそも、ミラはファンクラブに興味がないでしょう?ミラに迷惑をかけるようなファンクラブなら僕が潰すし、許可もしないよ?でも、勝手に作られるのも迷惑だからね。僕が管理出来る範囲なら問題ないと思うんだ」
「確かに、興味は無いけれど。ノアが名誉会長?」
「うん、一緒にミラの絵を選んだりしていこうと思う。ミラの素晴らしさを伝えたい気持ちは僕もあるからね。ただ、誰にも知られたくないって気持ちもあるけど。ミラがどんなに素敵かを教えたい気持ちもある。矛盾しているよね」
「矛盾…。いや、そこはもう、誰にも伝えなくていいんじゃないかな?」
「ミラは内緒にして欲しいの?好きって感情は誰にも止められないよね。だから、彼女達が、僕からミラの事を好きになって、自分達でどうやって僕達を応援しようかって気持ちを整理したって聞いて、凄いなって僕は思ったんだ」
「ノアよ。私の話を聞いている?ん?気持ちの整理とは?」
「僕もミラの事は愛おしいし、可愛い。大切にしたい。でも同じ位、ミラに嫌われたら死にたくなると思う。悲しくて、多分、本当に僕の心臓は止まると思う。ファンの気持ちって、前まで僕はよく分からなかったんだ。でも今なら、彼女達の気持ちが分かるよ。ミラの言葉、一つで僕は喜んだり悲しんだりできるんだ」
「そうか。悲しませたくはないな。でも、ノアよ。私の話を聞いているかい?」
「ミラのファンクラブのモットーは『武力上等!好きな人の好きな人の為に忠誠を尽くせ!』だそうだよ。格好いいね。ミラらしい。うん、素晴らしいね」
私はノアからサンドイッチを受け取ると、ノアの話しを聴きながらサンドイッチを頬張った。私のファンのモットーってなんだ?武力上等!って弟子にでもなりたいのかな。
私が、ノアの話を聞いてるようで聞いてなく、食事に集中していると、ノアはまた話を続けていたが、私が聞いて無い事がバレていたようで、私の頬をツンっとつきながら優しい顔をしていた。
「私の何が面白いのか、そんなに好きなのかよく分からないよ。でも、ノアに好かれて私は嬉しいと思う」
私はじっとノアの目を見てそう言うと、ノアは、耳を赤くしてにっこりと笑ってくれた。
「ミラ…」
「ノアは、変な所でポンコツだよね。そこも可愛いと思うよ」
「そうだね。ポンコツだと思うよ。ミラの事になると自分でもどうしたらいいか分からなくなる時がある」
「サブロウ先生が言っていたね。『己を知れば知るほど、自分がどれだけ無知なのか知る事が出来る』ってね」
ごくんとサンドイッチを飲み込み、次の一口を食べる前に私はノアの方をじっと見た。
ノアの綺麗な目に、サラサラの美しい髪。本当にノアは美人さんだな。
「ちゅ」
私はノアの頬に優しく降れるだけのキスをしてまたサンドイッチを食べだした。
「「「「「!!!!!」」」」」
周囲から小さな声が聞こえた。
「はぅっ」
「これは!…」
「勇者様から?え?破壊力がありすぎる…」
「パーラメント様ご無事かしら…意識はあって?」
私がもぐもぐしている間、ノアは静止したまま、動く事は無かった。
「…あれは致し方ないわ」
「そうだな。俺でも、ああなると思う」
「不意打ちが一番効くんだよな」
「私、冷たくしたり、悪口言ったりするのに、急に甘えたりする方いらっしゃるじゃない?ツンデレって言うの?あの方達は苦手なの。その点、ミランダ様はツンデレとは違うじゃない?何かしら、こう、急に胸をくっと掴むような方よね」
「ああ。分かる。普段とのギャップで心が持っていかれる。ドキッとくる、こういうのはなんて言うんだ?」
「ツンデレではない…。デレとも違う…。萌え…。勇者萌え、だな」
「成程、勇者萌え。流行らせましょう」
勇者燃え?なんだろう?燃える?爆発?間合いの話かな。確かに、相手との距離感は大切だ。力が弱い私に必要なのは、素早さと相手の力を自分の力に変えるカウンターの攻撃。
それには瞬発力、引く力と相手に合わせながら自分の体重を掛けるスピードがいる。勇者の燃えるような瞬発。成程。
「不意打ち攻撃…」
「ああ、それだ」
「そうね、それだわ」
皆が私の攻撃の特性を話しているのを私も頷いた。ノアは相変わらず固まっていたけれど、私は構わずもぐもぐとサンドイッチを食べ終えた。
「美味しかった。ノア、昼休み終わるよ」
私が呼びかけるとノアは「はっ」と言って頬を押さえると「んんんっ」と真っ赤な顔をして立ち上がった。
私のクラスの前までノアは私を送ると私の耳元までノアはかがんだ。
「ん?何かついてる?」
私がノアを見上げようとすると、すぐに私の耳元で、
「…ミラ、大好き」と小声で聞こえた。
ノアの吐息が耳にかかって、ぞわぞわとこそばゆく感じていると、頭にキスが落ちて、ノアは自分のクラスへと向かった。
耳をちょっと触って、ノアの声を思い出していると授業が始まった。
授業が終わり、さ、帰るか、と準備をしていると学園長から呼び出しがあった。
「ミランダ・リンツ君、突然すまない。ちょっと学園長室までいいかな?」
「はい」
なんだろな?
クラスメイトにノアへの伝言を頼み、私は学園長に連れられて学園長室へと入った。
「お待たせ致しました。ソレイユ王子殿下。こちらが、勇者の子孫になります、ミランダ・リンツ子爵令嬢です」
学園長室に入ると、一人の男性の前で学園長は私を紹介し、私にも挨拶を促した。
いや、学園長よ。私、何も説明を受けてないんだ。一体どこの誰かくらい教えてくれてもいいだろう。
そう思ったが、王子殿下と言われている相手の前で、色々言うのも面倒だ。ああ、でも、面倒な事なんだろうな、と思いながらも私は皆が褒めてくれる美しい礼を誰だかよくわからない褐色の肌のおそらく異国の王子殿下に披露した。




