戻ってきた日常
色々あった王宮での舞踏会も終わり、平和な学園生活が戻ってきた。
うむうむ、平和が一番だよ。
そう思っているのだが、少しいつもと違う。私がトテトテと歩くと、皆の視線を感じるのだ。
忍びの技を使いながら皆の視線、小さな息遣い、言葉を拾うと、まあ、皆は色んなことを既に知っていた。
「あ!勇者ミランダ様よ!あんなに小柄で可愛らしいのに、勇者様の血を引いてるんですって!」
「勇者様ってあの伝説のでしょう?勇者様の妹様は戦乙女と言われた方よね?」
「そうよ。ほら、あの珍しいアメジストの瞳。あれが勇者様の直系の証なんですって。教会に飾られている絵の勇者様も戦乙女様も瞳の色は紫色ですものね!」
「ミランダ様は卒業後、リッチモンド女伯爵になられるわしいわよ!素晴らしいわ!女伯爵の誕生なんて、我が国では四十年ぶりらしいわよ」
「先日の舞踏会では美しいダンスを披露されていたわ…。ドレス捌きが素晴らしかったの。歩き方を見て!やはり歩き方が違うわ。気品が違うのね…」
「あら、気品だけではなくってよ。我が家は平民街にも店舗を出しているでしょう?勇者ミランダ様は平民の方からの人気も絶大ですわよ。この間は孤児をお救いしたって話をご存じ?街の方々から天使や女神様って呼ばれていらしたわ」
「本当に素晴らしいわ」
「ええ、流石、ノア・パーラメント様のお相手ね」
「そうねえ。やはり女神様のお相手はパーラメント様では無くては務まらないわね。」
「確かに。勇者と聖女。美しい姫君と勇敢な戦士。素晴らしい恋人の話は古今東西あるわ。勇者には美しい恋人。納得よね」
「そうよ。女伯爵になられる方、しかも勇者の末裔。そんな方のお相手よ?それにご友人は筆頭侯爵家のポレット侯爵令嬢よ」
「成績も優秀。血筋は勇者の末裔。四十年ぶりの女伯爵様。今迄も、一部の方に人気があったのでしょう?謙虚な方で気品もある…。もう、パーラメント様以外に釣り合う方はいらっしゃらないわね…。まあ、もしくは王族の方とか?」
「まあ、そんな事を。不謹慎よ。でも勇者の血筋ですもの、王族の方と婚姻を結ばれても不思議ではないわね。伯爵家であれば王族の方と婚姻を結ばれても無理ではないわよね?」
「ええ、でも、それはありえないわね」
「ふふふ、王子様は今2歳だったかしら?」
「そうね、ふふ」
いや、大分違うな。
私はそんな皆が言うような気品等ない。
「ノア。なんだか、私の周りが騒がしいね。前はノアが歩くと、こう、『きゃー』『きゃー』と女の子達が騒いでいたのに、今は女の子の視線が『きゃー』って私に注がれているよ」
「ミラ。それはミラが可愛いから仕方がないよね?ああ、僕だけが見ていたのに」
ノアはそう言うと、私の頬を触って、頭にちゅっとキスを落とした。
「ノア、頭にキスしすぎだよ。わ。おでこにすれば良いって事じゃない。それにね、なんだか皆、私の事知りすぎじゃないかな?」
「ちゅっ。ん?それは、ミラが人気がある証拠だよ。君の友達と僕のファンクラブが色々皆に教えてあげたみたいだよ?」
ノアは私の頬をスリスリと触りながらもちゅっちゅとキスをするのを止めない。ノアが口紅をしていなくてよかった。私の身体はノアの口紅まみれになってしまう。
「おお。情報源は近くにあったのか」
私が、アイリーンとシルバーシャドウズを頭に思い浮かべ、勝ち目はない事を認めて諦めて肩を竦めると、ノアは嬉しそうにぎゅっと私の手を握り、おもむろに膝間づいて「ちゅ」と私の指先にキスをすると。
「好きだよ、ミラ。誰よりも、何よりも」と言ってもう一度ゆっくりと私の指にキスをした。
「「「「!!!!!!!!」」」」
ノアが呟いた瞬間、ぶわっと辺りに気が満ちた。
「ミラ。僕の勇者」
ノアが呟いた瞬間。
「はぁ」
「ふわぁ」
「くぅ…」
「ありがとう、ありがとう」
パタンパタンと人が倒れる音が聞こえ、何人かは、祈りを捧げ出していた。
「まったく、騒がしいね。ノア、お昼を食べに行こう」
ノアが立ち上がって、「勿論」と返事をして、私の頭に再びキスをすると、また、「はぅ」とか「おっふ」とか「ああ、推しカプ、ありがとう」とかが聞こえたが、ノアは気にせずお昼を食べる為に私を連れて中庭に移動した。
中庭に移動すると、丁度シルバーシャドウズの会長さんことキャサリンさんと、副会長のエリーさんがベンチでお話しをしていた。私達に気付くと急いで立ち上がり礼をしようとしたので、私が手で制した。
なんで私が一番偉い、みたいな風になっているかは分からないけど、ノアは私の横でニコニコしているし、二人も当たり前のように私に簡単に礼をした後にノアにも礼をした。
いや、家格的には私が一番下。私に礼なんてしなくていい。
「キャサリンさんもエリーさんも昼食?一緒に食べる?」
「滅相もございません!!!」
「ええ!お二人の大切な時間にお邪魔するなんて!!」
「そう?じゃあ、隣のベンチで、私達はご飯食べてもいいかな?」
「ええ!勿論でございます」
「私達の事はどうぞおきになさらず!あ、でも、お二人に改めてお願いがございまして」
そう言って、キャサリンさんとエリーさんは改めて私達に向き直った。
「ん?なに?」
ノアはお昼のサンドイッチを綺麗にテーブルに広げ、ベンチにハンカチを敷くと私を座らせた。
「私達は以前より、ミランダ様の事を勇者ミランダ様、とお呼びしておりました。コレは私達が敬意を表したいが為に使いだした言葉。しかし、ミランダ様は真の勇者の血を引いておられました。私達が知らず知らずのうちに使っていた『勇者ミランダ様』という呼び名。ミランダ様の尊い血筋はやはり、隠せる物ではないということかと、改めて感じた次第でございます」
キャサリンさんが一気に話、息継ぎをしながらエリーさんと一緒に頷くと、また話しだした。
「しかし現在、多くの者が『勇者ミランダ様』とお呼びしておられると思いますが、私達、シルバーシャドウズ一同、改めて『勇者ミランダ様』と呼ばせて頂く許可を得たいのです」と、ファンクラブ一同の署名を持って来られ、「こちらもどうぞ、お収め下さい」と、多くのお菓子(貢物)がテーブルの上に添えられてしまった。
うむ、美味しそうだ。
そう思っていると、ノアが勝手にシルバーシャドウズに許可していた。
「ミラ、シルバーシャドウズの皆はいつも凄く頑張っているからね。彼女達が呼びたいようにしてあげようよ。こうやって、ちゃんと許可を求めてくれるのは礼儀正しいよ?しかも、ミランダの好きなお菓子ばかり。贈り物のセンスもいいね」
「ね?」と言って、ノアが会長さん達を見ると、会長さんは、「うっ」「感謝の極み」と目を潤ませて副会長さんと手を取り合っていた。
「お二人にこうやって、私達の活動を許可して下さっているだけでも幸せなのに…。今、シルバーシャドウズはノア様ファンクラブという形ではなく、ノア様×勇者ミランダ様のカップル推し、という形で定着しております。もちろん、一部ファンはノア様には孤高の存在でいて欲しい。夢を見させてほしい。夢位見させろ!という者もいました。私と致しましてはその者の気持ちも分かります」
キャサリンさんは、くっと息を詰まらせると大きく吸い込んで、また話しだした。
「しかし!私達は何度も何度も話し合いを重ね、そもそものファンクラブの目的は何なのか?ノア様の幸せを見守るのが我らの意義ではないのか!しかし、ノア様を愛するのも、想うのも自由!皆のノア様への愛を何度も聞き、色々と会議に会議を重ねました…。結果数人はファンクラブを去る事になりましたが。私達も、その者も握手を交わして送り出す事が出来ました…。これも!これも全て!勇者ミランダ様のおかげだと思っております!!」
キャサリンさんは、目元をハンカチで拭くと、エリーさんと手を取り合った。
「人の想いが色々な形なのは分かります。愛が時に暗く、醜くなる事も。しかし、私達シルバーシャドウズにはお互いの推し方を尊重しつつも、一つ、絶対に破ってはいけない鉄の掟があるのです!それは!『ノア様の幸せは我らの幸せ!人の想いの否定をしない!』これなのです!!!ノア様の事を私達は愛しております。それは、もう、ゆるぎなく!しかしそれは神様を崇めるのと同じこと。太陽が昇り沈み星が瞬く、当然の摂理のように私達の当然の愛なのです。私はノア様のお相手が勇者ミランダ様で本当に嬉しく、お二人の幸せを心より願っております」
うむ。
なんだか色々とファンクラブって大変だな。
会長さんと副会長さんの涙にちっとも共感出来ないけど、私は神妙な顔で一応コクンと頷いておいたのだった。




