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6. アルチュール視点 真相

  ――あれは、まさかの出来事だった。


 ただの男爵令嬢であるリディに、そんな真実が隠されていたとは。



 ◇◇◇◇◇



 幼少期に決まった婚約者、公爵家のジョセフィーヌ・デュポンドル嬢。

 聡明で美しい彼女は、家柄も政略結婚の相手としても申し分なかった。



 だが。ただ、それだけだ。

 正直、真面目で何をやるにも完璧な彼女に、あまり興味がわかなかった。

 それは、多分……ジョセフィーヌ自身も同じ。僕を政略結婚の相手としか見ていないのは、数回会えばすぐにわかった。お互いの気質が、あまりにも似ていたからだ。

 

 そんな時。

 学園に入り、変な男爵令嬢に絡まれるようになった。珍しい光属性を持ったリディ•ショワールズに。


 光属性の者は後に神殿に入り、そこで認められて初めて聖女という名の地位につくのだ。

 認められるには、昔からのしきたりで数々の試練があると聞いている。

 とはいえ、現代ではそんな大きな力をもった者は生まれない。聖女は安穏の象徴であり、今はお飾りでしかないのだ。


 だから、リディが聖女候補だからという訳ではなく、全てが稚拙(ちせつ)過ぎて、却って興味が湧いた。

 僕に取り入ろうとしているのに、他の男子生徒――高位の家系で僕に仕えるだろう人物達にも良い顔をし、ジョセフィーヌを目の敵にしていた。


 当然、僕に隠れてだが。

 

 そして、決め手は。魅了魔法のかけられた、手作りお菓子を頻繁に届けてきたことだ。


 王家の人間は、魔法も毒も物心がつく前から慣らされいる。触れた瞬間に、お菓子から魔力を感じた。

 だから、普段なら信用のない者からの食べ物を口にする事はないが、どうせ効かないからと敢えて食べてみたのだ。

 気付かれないように何個か残し、魔術師の家系のノエルに成分解析をさせた。


 それからは、リディの魂胆を探るため魅了魔法にかかったフリをした。協力者はノエルの他に、やはりリディに接触されていた騎士家系のオラース、ジョセフィーヌと、その父デュポンドル公爵を選んだ。


 学園内での出来事は、外の者は関与できない。

 なのに公爵まで巻き込んだのは……。ジョセフィーヌを溺愛する公爵に知られたら、確実に厄介な事になるに決まっているからだ。

 それで、先手を打っておいた。


 リディの企みは、僕とジョセフィーヌの婚約破棄が目的だったようだ。

 

 ジョセフィーヌを(おとしい)れる為にさまざまな罠や、自分が彼女に虐められたと吹聴してきた。

 どうせならと、リディの望むまま婚約破棄のイベントを用意することにした。

 つくづく思った、公爵を味方にしておいて良かったと。

 

 問題はリディの企みではなく――送られてきた刺客。

 リディを養子にし、学園に入学させ裏で糸を引いていた者の存在。

 そこから繋がった、この国を揺るがす程の力を持った人物。

 直系ではない父が国王となった、根深いしがらみと裏の顔だった。


 あまり感情を持たない僕ですら、多少なりとも迷いが無かったと言えば嘘になる。

 だが、王家が守るべきものは民なのだ。


 だから、面倒な正義感の塊……王太子である兄をも巻き込むことにした。

 

 結果、兄は地位と最愛の人を手に入れた。父の息のかかった他国の姫の嫁入りもご破算になり、僕に頭が上がらないだろう。


 そんな矢先――。



 ◇◇◇◇◇



 婚約破棄を信じさせ、ある程度の時期までリディを泳がせていた。

 だが、いつまでも魅了ごっこを続けるわけにはいかないので、大方の始末が済んだ後に、彼女には少し反省の機会を……そう皆で決めた。リディ自身の安全も考慮して。


 実際、僕は魅了魔法にかけられなかった。

 その上で。リディの話の中から、さまざまな者の存在を明るみに出せたのだからと、ジョセフィーヌの意見を尊重した。


 離宮の隣の塔にある、罪を犯した王族専用の部屋。入り口には鉄格子があるが、中はそれなりの身分の者の屋敷より立派な内装だ。待遇も悪くない。

 そこに、ある程度の期間投獄し、完全に決着が着いた時に解放しようとなった。




 ――その日。

 偽の罪状を言い渡し、塔へ向かう途中に事件は起こったのだ。


 当然、こんな茶番に本物の近衛を使うわけにはいかないので、護衛は身近な者だけだった。


 塔の入り口付近までやってくると、侍女に扮した手練れの刺客が潜んでいたのだ。奴らの最後の足掻きだったのだろう。

 この場所は、限られた者しか入れない。完全に……油断していたのだ。


 恨みの矛先はもちろん僕だった。


 死なば諸共といった気迫で剣を向け飛び出して来た。一瞬の出来事で、刺されるのを覚悟したが――。


 その剣は、僕に届かなかった。

 

 咄嗟にリディが、身を挺して庇ったのだ。明らかに、致命傷となる位置に剣が刺さっていた。


 なぜ。自分を罰した相手を庇うのか、理解できない。そもそも、リディが僕に向けていた恋愛感情には下心があった筈だ。


 混乱しながらも、傷を押さえて必死で呼びかけた。

 たぶん、怒鳴り声のようになっていただろう。


「早く、治癒をかけるんだ!」

「……無理なんです……自分には……効かな、くて」

「ならば、どうして助けたっ!」

「だって……殿下は……幸せに、なる……の」


 へへッと笑った彼女が、未だに脳裏に焼き付いて離れない。あんな、心臓を鷲掴みにされたような痛みは初めてだった。


 だが――彼女は死ななかったのだ。


 突如として現れ出た青白い光に全身を包まれ、生きているのに時が止まっているかの様な状況。

 ノエルの提案で、すぐにリディを神殿に運んだ。



 ◇◇◇◇◇



 そして、神殿で――

 僕らは女神に会ったのだ。


 そこで、リディは異世界からの転生者だと聞かされた。

 



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