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4. 疑問だらけ

 ――あれから脱出できないまま、数日が経ってしまった。


 いくら帰りたいアピールをしても……。


「危険がないか、きちんと調べているからね。もう少し一緒に居てほしいんだ、リディ」

 と甘い雰囲気を(かも)し出すアルチュールに止められる。当然、適当にスルーするのだが。

 逃げ出そうにもタイミングが悪く捕まるし、これ以上不審な動きも出来なかった。

 どうして私の動きがバレるのかサッパリわからない。


(そりゃ、宮殿での生活は快適よ)


 帰省期間という名の長い夏休み。

 魔法石より高価でパワーのある魔石を使い、快適な温度に保たれた宮殿はまるで避暑地のようだった。


 寮に例のお菓子が残っていたら、もう食べれる状態ではないだろう。そもそも、それがあるのかも定かではない。

 なぜかアルチュールの魅了は解けないし、寮に戻るのは諦めつつあった。


 他の方法を考えるしかないが、一向に名案は浮かばない。


 そんな中する事といったら、アルチュールとお茶をしたり、宮殿の図書室へ行ったり。素晴らしい庭園を散歩したりと。

 なんだか、ぬるま湯に浸かるような生活に慣れて、このまま流されてしまいそうだ。

 

 だから、何かする事がないかとアルチュールに尋ねてみた。ボロを出しそうな勉強以外で。


 欲を言えば、お金も稼ぎたい。

 いっそ、メイドや下働きに雇ってほしいくらいだ。前世を考えたら、働くことは苦ではない。これから先、逃走資金も必要になるだろうから。


 そんな時――


「ちょうどリディにお願いがあったんだ」


 パッと表情を明るくしたアルチュールはそう言って、人を呼んだ。

 すると、眼鏡が印象的なローブを羽織ったイケメンが、布に包まれたドス黒いゴツゴツした石を持って来た。


(あの眼鏡……)

 

 ここには、イケメンしか存在していないのか。学生時代の自分の好みが反映されすぎて恥ずかしい。


「えっと。これは何ですか?」

「隣国から輸入している魔石だよ。ただ、土地柄か汚染されているんだ」

「汚染ですか?」


 アルチュールは、素手でそれに触れないよう台の上に置いた。


「そう。だから、水属性の魔術師たちが浄化しているのだけれど、何せ量が多くてね。リディは光属性だから、同じように浄化が出来るはずなんだけれど。以前、授業で他の石で見せてくれたみたいに」

「………そ、そうでしたね」


 そんな授業があったとは。知らないことが度々でるたび焦ってしまう。

 でも、以前のリディに出来たなら、問題なく私も出来るはず。


「やってもらえるなら、彼らと同じように――それに見合った給金も出るそうだ」


 アルチュールが視線を送れば、眼鏡イケメンは頷く。


「え……それでは申し訳ないです」


 と言いつつ内心ではガッツポーズ。


「そういう訳にはいかないよ」

「では、お気持ち程度いただければ……」

 

 宮廷魔術師と同等の金額とは、相当だろう。口元が緩んでしまう。

 アルチュールはクスッと笑い


「やってくれるかい?」

「もちろんです!」


 眼鏡イケメンに軽く扱い方の説明を受ける。

 それから言われた通りに魔石らしき物に向けて祈れば、簡単に浄化できた。

 ドス黒かったのが嘘みたいに、透明度の高い魔石に戻っていく。


「うん、やはりリディの浄化は素晴らしいね」

「そうですか?」

「負担にならないくらいでお願いしたいが、大丈夫かな?」


 魔力の減りも、身体への負担も全く問題なさそうだ。


「はい! じゃんじゃん持ってきて下さい!」

「頼もしいね。でも、無理をしてはだめだよ」


 アルチュールの、ふとした時に見せる優しい表情にドキリとする。魅了のせいだと分かっているのに。

 そして、そんな気持ちを誤魔化すかのように、魔石の浄化に集中した。

 

(さっさと他の方法見つけて、ジョセフィーヌと幸せになってもらわなきゃ!)

  




 数日かけて、かなりの数の浄化が終わり、ひと息ついた。


 窓を開ければ夏の風も気持ちよく、外を飛び交う小鳥のさえずりに、また癒される。


(そういえば、転生直前は冬で寒かったな……)


 日差しに向かって手を伸ばす。

 仕事や家事で年齢のわりに荒れた手も、リディになった今は、まるで白魚のような指先だ。指の間を通った光に目を細め、夏らしさを感じた――


(ん? 今は夏だよね?)


 婚約破棄イベントは、卒業間近の3月にしたと記憶していた。

 でも――。

 他にもいくつか候補はあったし、ただの思い違いをしているのだろうと、あまり深く考えなかった。

 きっと……この宮殿での日々が、あり得ないほど穏やかだったせいかもしれない。




 ◇◇◇◇◇



 流石にちょっと変な感じがしてきた。


 何日もここに滞在しているのに、会う人々が少な過ぎる気がするのだ。

 とはいえ、婚約者でもないただの男爵令嬢を(かくま)っているのだから、公にはしない筈。だから、ここがあまり使われていない場所と考えれば……


(当たり前か)


 刺客が紛れ込まないよう、最低限の人数にしているのかもしれない。安全面から見たらその方がいいのだろう、そう思ってはいた。


(けどねぇ……)


 もう全員の顔は覚えたのに名前がわからない。


 侍女をはじめ、以前から皆んなリディと面識があったのか紹介もされないし、親しげだったから却って聞けなかった。そのうち、誰かしら互いに呼ぶだろうと。

 なのに私の前では誰も呼び合わない。たまたま、そんな場面に出くわしてないだけか。


 チラリと扉を眺めた。

 その向こうには、今日もいつもの騎士が立っている。


(彼は、見事に燃えるような赤髪よね……)


 どこかで聞いたようなフレーズ。似たような特徴を持ったキャラがいたことを思い出した。


 いきなり転生した、婚約破棄イベントでは周囲を見る余裕は無かったが――。


 学園の同級生で、脳筋でリディの取り巻きの一人。辺境伯令息のオラースが、大人になったら彼の様になるような気がした。


(もしかして、兄弟だったりして)


 


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