第09話 模擬戦
基地を歩いているとどこかで見た顔が歩いてくる。こちらを見るや、表情を変えてどこかに逃げ去った。この前倒した2人のゴロツキはこの基地の航空部隊のパイロットだった。
しばらくすると2人は誰かを連れてきた。そいつはなんと市場で撃ってきた長身のちょび髭の男だった。
「やあこの前は世話になったね」いやらしい笑顔を見せてきた男の名はクレイシー中佐。レインフォース基地の航空隊の指揮官。こんな男が指揮官とは部隊の質はあまり高くなさそうだ。
「新設航空部隊の一隊員の身分で私を殴るとは、なかなかいい度胸をしているようだね」
「何の用でしょうか?」こういう輩にはかかわらないのが一番だが、そうはいかないみたいだ。
「君は2機の飛行艇と演習してもらおう。君の醜くてでかい飛行艇の能力評価をおこなう。君が所属する新設の試験飛行隊の実力がどの程度のものなのかみせてもらうだけだよ。拒否権はないと思ってくれたまえ。」拳銃が効かなかった相手に対してよくここまでふてぶてしくなれるな、と逆に感心してしまった。
試験内容は2機の飛行艇と速力上昇能力、旋回半径といった機動性能の比較試験を行うとのことだ。どちらも武装は使用しない。
「命令とあらば了解です。」この世界の小型機の能力を見る絶好のチャンスだ。
「せいぜい楽しんでくれ。」そのあと小声で魔道砲充填の指示をしていた。どうやら演習を名目にこちらを撃墜するつもりらしい。
この世界の戦闘機「飛行艇」は鋭くとがった機体で小型の翼、後部に反転式のプロペラがついている。さしずめF104スターファイターの前翼型プロペラ機といったところだった。魔力を基にした蒸気エンジンを搭載し、見た目はなかなか洗練され強そうだ。王国軍最新鋭の飛行艇「ミスリルⅢ」2機と模擬戦をおこなうこととなった。
演習開始____
相手のパイロットはもちろんこの前の二人、後ろに攻撃要因の魔導士も連れている。「絶対落としてやる」吐き捨てるように言われた。「できるならな」サーブ37ビゲンが飛び立つ。
短距離で離陸できるのがビゲンの特徴の一つである。わずかな距離を滑走し基地の上空に舞い上がる。遅れて数分後2機のミスリルⅢが追い付いてきた。速度およそ250㎞/h程度、推進機関が蒸気機関だと考えれば上々だ。こちらが失速しないように速度を下げ接近したら、後ろからいきなり攻撃してきた。この前殴られたのがよっぽど腹に据えかねたらしい。演習とは思えぬ殺意だ。
相手は後部座席に乗った魔導士が据え付けられた魔道砲をこちらに向け打ってきた。複数の青い火の玉がこちらへと飛んでくる。だがやはり前の戦いのときと同じ。弾速が遅すぎて、放たれたころにははるか彼方へと飛び去っているのだった。
「この程度の攻撃しかできないのか」正直落胆した。どうやらこの世界での攻撃は魔道砲を利用した方式が主流らしい。威力はせいぜい2世紀ほど昔の臼砲程度といったところか。前回戦った戦艦が放っていたのもこの魔道砲の大きいサイズのようだ。おそらくこの前の戦闘で巨大な航空巡洋艦を対空ミサイル一発で落とせたのは、この世界の兵器は攻撃力が貧弱なのでそれに伴って防御力も貧弱だったからに違いない。
相手が弱すぎるのでこちらの兵装はうかつに使えないが相手の攻撃も届かないのでらちが明かない。
仕方ない。加速して相手を引き離し機体を180度ピッチアップさせながら180度ロールさせた。俗に言うインメルマンターンだ。ミスリル二機の上方につくと、機体を貫かないよう慎重に照準を向ける。魔道砲に向け一発ずつ弾丸を打ち込んだ。回避する猶予も与えず弾丸は正確に魔道砲を貫いた。
砲は粉々に砕け散り、その衝撃で敵機はどちらもふらついて落ちていった。
___演習終了
地上に戻ってみるとクレイシー中佐は手足を縛られ地面に転がっていた。何やらもごもご言っている。さるぐつわをされ何を言っているか聞こえない。どうやら一連の事件が演習中にマリーの耳に入ったらしい。
大丈夫だったと心配そうに駆け寄ってくるマリーに対して笑顔で不時着したボロボロのミスリルを指さした。直接攻撃したわけではないので搭乗員はしっかり生きている。彼らには今後たっぷりと罰を受けてもらうことにしよう。
「演習は非常に参考になったよ。君らが1000人束になってもおれには勝てないってことが分かれば十分だ。お前らは牢の中で強くなれるように神様にお祈りでもしてな。」模擬戦の感想を述べ滑走路を後にした。
ミスリルⅢの残骸を調べていると、いきなり背中に何かが抱き着いてきた。
「レイ大尉、本当にありがとうございます!」
「な、なんだ」なにやらやわらかいものの感触が背中に伝わる。
「この基地の諸悪の根源をこんなに早く一網打尽にしてくれるなんて」
シャーロが腕を回してぎゅっと抱きしめてくる。これ以上は刺激が強すぎる…
「クレイシー大尉をとらえたのはマリーだがな」俺は楽しく空を飛んでいただけだ。
「私、もうどうしようもなくて。大尉なら何とかしてくれるかもしれないって思ったんですがここまでしてくれるとは思いませんでした」
全然人の話を聞いていない。一種の愛情表現なのだろう、頭をすりすりとこすりつけてくる。可愛いんだが、まわりの目線が痛い。
「こいつらとその部下がとらえられれば一安心だな。基地に残れるぞ」
護送車に乗せられ連行されるクレイシー達を指さして言った。
「そのことなんですが…」彼女は何やらもじもじしている。
「なんだ、まだ倒してほしいやつがいるのか?」
「いえ、実はお願いが……大尉の部隊にいれさせていただけないでしょうか。無理は承知です。雑用でも何でもするんでなんとか…」上目遣いで瞳をキラキラさせながら頼んできた。この純粋さを武器にされては勝てない。
地上で専用の支援要員は欲しかった。しかし艦長のマリーは多忙で頼むのはさすがに無理だ。だとするとずっと航空部隊にいたシャーロは適格といえる。
この純粋さならこちらの素性を隠すのにも都合がいい。そう脳内で何度も自分に言い聞かせた。別に彼女の魅力に負けたわけではない、断じて。
「ということでシャーロット伍長を試験飛行部隊に入れたいんだがどうだろう……」
マリー艦長にこの旨をつたえたところ
「いいんじゃない、好きにすれば」マリーは明らかに拗ねていた。髪の先をくるくる弄びながら頬を膨らませた。
それに気づく様子もなく許可が出たと無邪気に喜ぶシャーロット。これからこの二人の機嫌のバランスをとっていくのはなかなか難儀しそうだ。




