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第10話 戦闘前夜


 クラウソラス出航まであと3日となっていた。今後の計画は第5艦隊の残存艦と合流し国境の要塞で孤立している守備隊の支援を行うそうだ。少数艦艇で劣勢の部隊の支援をしたらどちらもまとめて敵に包囲殲滅されそうなものだが、本国からの増援は望めない。マリーは必死に軍司令部と交渉したが本国の部隊を辺境の防衛のために動かしたくないと断られたらしい。


「中央はシュティルゲン公国を見くびっているのよ。東の端から王国中央など遠すぎて攻めることなどできない、と。でもそんなことわないわ。公国は電撃的に侵攻しその地域の中心地をおさえる。その後そこを橋頭保としてまた進軍する。無駄のない合理的な部隊編成でね。いたずらに部隊を派遣して消耗していく王国軍は今のままだと確実に負けるわ。」マリーが口早に言った。


「敵の戦略は手ごわいな。本来なら倍数の兵力で攻めるのがベストなんだが……でも増援は望めないとすると既存の兵力で行くしかないな。こちらの戦力はどうなっているんだ?」


「今回は航空戦艦2隻に巡洋艦3隻、補給艦1隻よ。艦載機は合計60機ほどかしら。敵の戦力の推定は……」


「敵の兵力は偵察によるとこんな感じだ」何枚もの航空写真を机に広げる。

「本当あなたの飛行艇には驚かされるわね、こんなに鮮明な写真が撮れるなんて」


 この作戦の前、俺はひそかに敵軍上空を索敵していた。成層圏を飛ぶ黒い影、その正体はロッキード U-2 ドラゴンレディ。高度25000mを飛行できる高高度偵察機だ。国境を越え敵の駐留している隣国のフロレアル共和国上空に到達する。レーダーには敵機を示す輝点が多数現れた。


 この世界の技術でレーダーはない。感知魔法で索敵は行っているがその範囲はせいぜい10㎞そこらだ。光学センサーで敵艦の形状や状況を確認しつつ、撮影していく。地上部隊も一通り様子を確認した後、黒いジェット機は闇に紛れ静かに去っていった。


「敵は戦艦2、高速巡洋艦2隻、通常型巡洋艦4隻その他支援艦多数。さらに地上部隊はこちらの要国境要塞の守備隊8000に対し相手の機甲師団は推定5万となっている、なかなか厳しい戦力差だな」


「敵の地上部隊の対空兵器も考慮するとかなり不利だわ」彼女が表情を険しくした。

「王国軍にとって厄介なのは足の速い高速巡洋艦と敵地上部隊の対空兵器だな。この二つを無力化できればどうだ?」

「十分勝機があるわ、あなたの力でなんとかしてくれる?」青い瞳でじっとこちらを見つめる。

「命令とあらばやり遂げよう。艦長」立ち上がると俺は彼女に軽く敬礼する。


 クラウソラスの格納庫に向かい機体の準備を始める。今回のミッションではフランスの艦上戦闘攻撃機ラファールMを選択した。現在フランス軍の運用するマルチロール機で、Mは艦載機仕様の海軍所属機だ。

 兵装は対艦ミサイルAM39エグゾセを4発、そして地上攻撃用の無誘導弾3トンを選択。この機の搭載量ギリギリだ。 ミサイルが貴重といっても初めての正規戦闘である。最善の装備で臨むべきだろう。  



公国軍の最前線基地

エルシオンと国境を接する帝国属領地、旧フロレアル共和国


公国の航空艦隊を指揮するリードリッヒ中将は苛立っていた。艦隊に所属する高速巡洋艦のうち特別任務を行っていた三隻が一か月ほど前に消息を絶っていたからだ。残骸とわずかな生存者を収容した以外は何が起こったのかまったくわかっていない。


 複数の高速艦が手負いの敵艦一隻に撃墜されるとは考えづらい。現状の戦力でも十分に要塞攻略と王国西部への侵攻は容易だったが、何が起きたか解明しておく必要性がある。ちなみに高速艦が行っていた特別任務とは、旗艦クラウソラスの撃墜。王家の者が指揮をしている艦を潰し王国の士気を削ぐ計画だったのだが……



「だからいったい何が起きたのかと私は聞いているのだ!」中将はペン先で机をカツカツとたたく。

「誠意調査中ですが、何分敵の領土内なので捜索が困難を極めており……」

「もういい、その生存者を連れてこい」報告に来た士官を手で追い払う。


 撃墜された一隻、高速巡洋艦アルムガルドの唯一の生き残りである航空士が連れてこられた。目は落ちくぼんで、体が小刻みに震えている。救出された直後から、錯乱して光の矢だの、鉄の雨だのとわけがわからないことを言っており、神経衰弱状態の妄想状態と医師に診断されていた。現代世界でいうとPTSD(心的外傷後ストレス障害)のような状態だった。


「何を見た?」中将は生存者に対し単刀直入に問い詰める。


「将軍、アルムガルドは王国の戦艦クラウソラスを僚艦とともに追撃していました。その時私は見ました、突然仲間の一隻が飛行艇から爆炎があがったのです」航空士からは予想より明瞭な回答が返ってきた。


「魔道砲の砲撃か?」


「いや違うと思います。二隻目は金属の筒が飛んできて、巨大な矢のように艦に刺さりその後爆発していました。私の艦はその矢が近くで暴発したらしく、ギリギリのところで回避しました。そしたら、艦橋に金属の破片が降り注いだのです」


「どういうことだ、続けろ」爆発する金属の筒か、確かに奇妙な話だ。


「はい、鉄の雨が艦橋を貫き、指令機能を喪失。私が把握できたのはそこまでです。そのあと操舵不能になり地上にぶつかる衝撃で意識を失いました」

これまで聞いたことのない不可解な攻撃だ。敵の航空戦艦の新兵器化か。だとするとこれまでの戦闘でそんな強力な兵器をなぜ使わなかったのか。いよいよ謎は深まるばかりである。


「ほかに何かないのか!」思わず身を乗り出し怒鳴った。


「艦橋がやられる直前、司令部では高速で航行する飛行艇の影をみたといっていました」


 巡洋艦を3隻瞬時に落とす飛行艇。幻覚だと信じたいがもし真実だとすると悪夢のような存在だ。中将はため息をついて航空士をさがらせた。王国軍は何やらとんでもない新兵器を隠し持っている。それだけは確実だ。これ以上何か起こる前に作戦を完遂しなくては。


「全軍に通達。これよりエルシオン国境要塞残存兵力の殲滅を開始する」


 公国軍の航空艦隊と機甲師団は要塞攻略のため進撃を開始した。



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