第07話 異世界の恒例行事
異世界の食に舌鼓をしているうちに気が付けば日が落ちかけていた。そろそろ帰ろうかと話していたその時、薄暗くなった路地の端でなにやらもめごとが起きているのが視界の隅に入った。
黒い髪にサイドテールを垂らした小柄な少女が周りに図体の大きな男が3人囲まれていた。何を話しているかはわからなかったがあまり穏便な様子ではない。少女の腕を引っ張り強引に酒場に連れ込もうとしているようだった。
現実世界でもたまに見かける光景。警官や衛兵はいないものかと周囲を見渡していると、マリーが俺の袖を引っ張りながら言った。
「上官命令よ、あの少女を助けなさい!」
さも当たり前のように命令してきた。弱者を救うのは、軍人そして王家の者としての当然の役割らしい。自分でやろうとしないところを除けば素晴らしい心がけだ。
「これ渡すわ。あんな野蛮な連中ぶちのめしちゃいなさい」
そう言って腰に付けたホルダーから伸縮式警棒を取り出し俺に渡してきた。なんでこんなもん持ってるんだ。
「警官とかよんだほうがいいんじゃないか?」
「あの子の身に何かあってからじゃ遅いわ」
「おれたぶん生身だとそんなに強くないぞ」
現実世界に比べれば、動体視力と反射神経は格段に向上している。しかし引き締まっているものの筋骨隆々とはいいがたい細身の体。三人相手に格闘戦は少々つらい。
「そんなはずない、あんたは私直属の部下なのよ。負けるわけないじゃない」
「とんでもない理論だな、まあしゃーない、いってくる」
姫の命令ならば仕方ない。しかしこちらの武器は警棒一本である。大丈夫なのだろうか?一瞬不安がよぎったが、チンピラ相手なら異世界補正でおそらく勝てるだろう。
「乱暴な行いは紳士のすることじゃないな」
これまで口にしたことのない痛いセリフを3人にはなち、少女と男たちの間に割って入った。
「どこのバカだか知らんが、我々には手を出さないほうが身のためだよ」真ん中のヒョロガリな男が高圧的に言った。よこのデブがこちらにつばを吐きかける。どこの世界でもこういう輩は似たようなものだ。
「やれ」ヒョロガリの命令で手前にいた男が突っ込んできた。
「さて、と」一番先に突っ込んできたやつを抑えにかかる。こちらの世界に来て向上した動体視力のおかげで突進を軽く回避しながら頸椎に向け警棒を振り下ろす。グエッと情けない声を出し、そいつはレンガの道に沈んだ。
まず一人目、意外と余裕だな、そう思った瞬間、長身の男が何かを取り出した。おそらく拳銃だろう、黒光りする銃口がこちらに向けられる。これはまずい、普通の人間なら拳銃で撃たれたら間違いなく死ぬ。
そう思った瞬間『パンッ!』と乾いた発砲音とともに銃弾が俺の胸に撃ち込まれた。普通ここまで躊躇いなく撃つか?
視界が反転し体が崩れ落ちる。
「ずいぶんあっけない最期だったな……」そう思って静かに目を閉じた。
しかし一向に天からのお迎えは来なく、耳には大衆のざわめきと叫び声が聞こえた。かすかに人影が見える。マリーか、意外と心配してくれるんだな。しばらくして目を開けると驚くべきことに服は破れてるものの出血はなく無傷だ。不死身属性でもついたのかな?まあともかく生きている。気を取り直して警棒で反撃開始といこう。
相手は拳銃で死なない得体のしれない相手にうろたえている。すかさず拳銃を持った男の懐に飛び込みみぞおちを突くと体をくの字にしてあっけなく倒れこんだ。
「こいつ、どうなってんだ?」最後に残ったデブがつぶやいた。
「さあな」そいつの脳天におもいきり警棒を振り下ろす。巨体がぐらりと揺れヒョロガリな男の上に倒れ込んだ。地べたに突っ伏した三人はピクリとも動かない。途中予想外の事態があったがこれで一件落着だ。
おびえて縮こまっている少女に近づいて声をかける。
「やつらは黙らせたからもう大丈夫、けがはしていないかい?」
手を差し出すと少女は「ゆ……許してくださいぃ……」とひきつった悲鳴とともに泣き出してしまった。
確かに不審な不死身男に介抱されても却って怖いよな。あとからやってきた警官隊にその場は任せ静かに去ることにしよう。




