第05話 異世界での補給線
格納庫に着くと、F15cイーグルは降りた時と同じようにたたずんでいた。コックピットへよじ登りヘルメットをかぶる。これは単なるヘルメットではなくHMDが搭載され、正式名称はJHMCS(統合型ヘルメット装着式目標指定システム)という。
最近の軍用機では機体側でなくこうしたヘルメットのHMD上に様々な戦術データが表示されるようになっている。HMDを起動させると、みなれたWSのホーム画面が表示された。サーバーへは接続できないようだが機体選択、カスタム、パーツ購入は選択できるようだ。そして一番気になっていた項目を確認した。
カスタム画面を開き、機体の携行兵器一覧を開く。「やっぱり減っているか……」バルカンの弾丸は自動補給されていた。だが、ゲームの課金要素となっているミサイルは補充されていなかった。ストックにミサイルは100以上あるのですぐに枯渇することはないが、あまり無駄遣いできる状況ではないようだ。
今度はほかの機体を選択してみる。今後の戦いを考えると手持ちのあらゆる航空機を駆使する必要が出てくるだろう。イーグルから降り、HMDでサーブ37ビゲンを選択した。すると、この前着艦したときと同じ青い光に包まれ、イーグルが消えスウェーデン製のデルタ翼戦闘機が光の中から姿を現した。
しばらくいろいろなコマンドや操作をしてある仮説が浮かんだ。おそらくこの世界に来る者は来る前にいたリアル(ゲーム)の能力やスキルだけでなくそのシステムをだいたい受け継いでいる。この前の着艦ではWSの着陸支援シークエンスが機能していたのだろう。いきなり異世界の人との会話が通じたのも納得がいく。
全世界に8つのサーバーを持ち30か国以上の国にプレイヤーがいるWSでは、デフォルトでマルチトランスレーションシステム(多言語翻訳機能)が組み込まれている。言語的な問題がないことは大きな朗報だ。航空機の整備や燃料補給もWSは時間回復性だったから深刻な問題にはならないだろう。
だとすると残る問題は携行兵装に関してだ。先の戦闘ではミサイルを使えば一撃で葬り去れても、バルカンではなかなか落とせなかった。今後は戦い方をよく考え、ミサイルの使いどころを見極めなければならないだろう。
次はアイテムの購入画面を開く。果たして追加パーツやミサイルは購入できるのか?そんなことを考えていると後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「もう着くわ、あれ?あなたの飛行艇の形変わってない?」
カナード付きデルタ翼の戦闘機を見て彼女は首を傾げた。
レインフォースの街は赤いレンガづくりの建物が特徴のヨーロッパの古都のようだった。ただ航空戦艦係留用の金属製のタワーが町はずれにいくつも並んでいるのを除けばだが。大小さまざまなレンガ造りの屋根を眼下に見ながら、航空戦艦はゆっくりと高度を下げていった。
「どれくらい停泊するんだ?」
「船体がかなりダメージを受けているし、二週間はかかるかしら」
マリーは損傷した船体をなでる。航行機関は無事なようだが、艦の左側を覆う装甲は剥がれ落ちている。砲塔も数門を残し吹き飛ばされていた。艦載機と思しき格納されている機体も半数以上が飛行不能。まさに満身創痍でここまで生き残っているのが不思議なくらいだ。
「敵は攻めてこないんだろうな。」
戦力差は不明だがこの艦が修繕に入っている期間は敵にとって絶好の奇襲タイミングだろう。
「その可能性は低いわ。あなたの落とした三隻の敵艦は高速巡航艦。全部落としたおかげで公国の情報収集能力はずいぶん低下したはずよ。」
「それなら相手の部隊編成や展開情報を調べるのが先決だな」
「そうね、今のうちに敵の状況をつかめるといいのだけれど…」
艦の係留所、レインフォース航空隊駐屯地は係留用タワーといくつかの関連施設がある普通の基地だった。ただ対空兵器の代わりに基地の周囲に魔方陣が書き込まれた石板が埋め込まれていた。戦艦の内部を見た印象では、技術力や科学力は現実世界の100年ほど前と同等のようだが、どうやら科学と魔法が混在する世界らしい。
タラップから降りると近衛兵が整列して、高官と思しき制服を身に纏った数人が待っていた。たいそうなお出迎えだ。
「よくぞ、ご帰還なされましたマリー様。連戦に次ぐ連戦さぞお疲れでございましょう。一度屋敷でお休みください」
真っ白な髪に口ひげの軍人が言った。どうやらマリーの側近の一人のようだ。
「悪いけどその前に用事があるの。戻るのはそのあとよ」
護衛付きのハイヤーに乗り町の中央にある市政庁舎へと向かう。ハイヤーは見た目は少々レトロだが、現実の車と遜色なく快適だ。エンジン音もするが、乗り込む前にちらっと見たら給油口やマフラーがついていなかった。つい気になってマリーに尋ねた。
「そういえば、この世界の車や飛行艇って何で動いているんだ?」
「そんなの魔道蒸気機関に決まっているじゃない」
彼女は当然のこと聞いてどうしちゃったの、と呆れた顔をする。
「なんなんだ……その産業革命と魔法が融合したような代物は……」
そんな話をしていると市街へと入った。街には電灯が並び蒸気機関で動く車や路面電車が走っていた。発達した交通機関は少々レトロだが、現実世界と比べてもなんら違和感がなかった。しかし路上を見ると作業員が杖を振って荷物を浮かべてトラックに積み込んでいた。いったいどうなっているんだ。




