第28話 異世界転移
エリスに魔法の勉強を教えてもらい始めてすでに2週間が経過していた。まだとても自分で使いこなせるまでには至らないが、徐々にこの世界の魔法の法則がわかってきた。様々な魔法の仕組みや魔法陣の構造を教わりいよいよ今日は召喚魔法についてのレクチャーだ。俺はこの種の魔法に実は一番興味がある。召喚の法則を理解すればどうしてこの世界に来訪者と呼ばれる現実世界から転移してくる人々が一定数いるのか解明する手掛かりになるかもしれないからだ。
「召喚魔法は端的に言えば別の空間のものを術者の指定する場所へと空間的な繋がりを無視して直接召喚するものです。基本的に魔力消費量が大きいので魔法石などを魔力源に行います。ですが今回は私の魔力で実演しましょう。少佐、そこにあるグラスをとってくださいな」
「これか?」俺は近くの棚にしまってあったグラスを机の上に置いた。
すると彼女はコップの中にどこからか取り出したガラス玉を入れた。カラカラとガラスが転がる音がしてグラスの中で揺れる。その後、前見せてくれたように白い紙に複数の多角形が複雑に交差した図形を描き始める。前回の誘惑魔法の時に比べてだいぶ複雑で緻密な魔法陣のようだ。
「私は魔力量が少々多いので自前の魔力で発動できるんですよ」少し自慢げに笑みを浮かべた後、描いた魔法陣に手をかざす。
「こりゃ凄い! まるで手品を見ているようだな」
彼女がかざす手に力をこめるとガラス玉の周囲がまばゆく輝いた。光が収まるとグラスの中には何も残っていない。その時胸ポケットに違和感を感じ探ると先ほどまでグラスの中にあった玉が出てきた。まるで現実世界でもよくみる手品のようだったが、どうやらトリックがあるわけではなく先ほどまで説明していた転移魔法の簡易的なもののようだ。
「なかなか革命的な魔法じゃないか。この魔法で兵士や兵器を輸送できれば空中戦艦の比じゃないくらい戦術に幅を持たせられる」
「残念ながら、そう簡単にはいかないんですよ。この魔法は転送させるポイントをどちらも
術者が正確に把握しておく必要があります。また転送できるのは最大でもせいぜい馬一頭が限界、なので高度な魔法使いが長距離を隠密に移動したいときや、希少なものを安全に移動させることに使われるくらいです。ただ基本的に準備さえすれば距離的な制約はありません」
「そうか……汎用性はあってもなかなか大規模には使えなさそうだ」
ふと、その時ある疑問が浮かんだ。この魔法に物理的な制限がないといっても、どれくらいの距離や空間まで移動が可能なんだ?もしかしてこの世界と地球を繋ぐこともできるんじゃないか。
「もしかしてその転送魔法ってのはこの世界の外に対しても干渉することも可能なのか?例えば俺の元いた世界とか」
「少なくともこの世界では転送、召喚魔法に関して距離による物理的な制約はありません。確信はありませんが、もしかすると……レイさんのおっしゃってる仮説は成り立つかもしれません。どこの誰がなぜそんなことをするのかは想像もつきませんが」
「そもそも来訪者ってのはそんなに何人もこの世界に転移してくるもんなのか?」
「口頭での伝承が元なので確証はありませんが本来はこの世界の数世紀に一度この世界の変革期に一人出現するかどうかという半ば伝説上の言い伝えです。レイ少佐も含めすでに3人の来訪者がいる今の時代はかなり歴史上かなり異質であるといえます」
「そうか……」しばらく頭をかかえる。ここにきて一年もたたぬうちにブレットやクロノスといった他の来訪者と出会っていたから何人もいるものだと思い込んでいた。しかし彼女の話では、今の状態はこの世界にとっても異常な状態ってことだ。ならば何らかの人為的な力が働いているに違いない。とするともっとも妥当な可能性としては……
「あくまで俺の推測にすぎないのだが……最初に転移した来訪者がなんらかの転移魔法を使い地球から人間を転送して来訪者を増やしてるんじゃないか、それなら俺のいた世界とこの世界をどちらも術者は知っているので理論的に魔法の発動は可能だ」
「たしかにそうですね。だとするとだれが何のために?」
「それは間違いなく来訪者の持つ圧倒的な戦闘能力か特異な力を利用するためだろう。単体でも強力無比な力を持つ来訪者を複数支配下に従えれば、この世界でだれも歯向かうことができない、そんなことを考えたのだろうな。俺はそんな奴の軍門に下るつもりは毛頭ないが」
「それならいったいどんな来訪者が最初に現れてそんなことをしたのか調べる必要性がありそうです」
エリスが来訪者にかかわる歴史書に手を伸ばしかけたその時、伝令の兵士が部屋に飛び込んできた。兵士は肩で息をしながら額の汗をぬぐう。よっぽど急いできたようだ、何か緊急事態に違いない。
「どうしたんだ?」
「少佐、特務大尉、大変です!マリーアークライト大佐が内乱罪の疑いで身柄を拘束されたそうです。第5艦隊の所属隊員には皆出頭命令が出ています」
まさに青天の霹靂、王国の救世主たるマリーがまさか国家転覆の疑いを変えられるとは……あまりの衝撃に頭の中が真っ白になる。手にしていた本を投げ出し俺とエリスは第5艦隊旗艦クラウソラスの元へ急いだ。




