第29話 囚われの姫
空軍基地につくとすでに艦隊の隊員の大半が駆けつけていた。数千の軍人でごったがえす中、黒い大型の輸送艇の陰が映る。基地の滑走路に着陸したその船は黒字に金色のラインがはいった王国貴族専用の特務艦だ。なかから憲兵隊に囲まれて派手な身なりの男が下りてくる。その男は第5艦隊の各艦の艦長を招集すると司令部の建物へと消えていった。その様子をみて兵士たちはざわつく。
「今のって第一王子じゃないか?なんでこんな地方の基地なんかにくるんだ?」
「艦長が拘束されたのってやっぱり王族関係の何かが絡んでるんじゃないか」
「マリー艦長が内乱なんてぜったいにありえないだろ。ここまで艦隊を引っ張ってくれたのに」
一時間は待たされただろうか、険しい顔の艦長たちとともに王子の側近が兵士たちの前に現れた。
「マリーアークライト第五艦隊司令官は国家機密の漏洩および反乱企図の罪で拘束された。司令官不在及び王国艦隊適正配置のため第五艦隊は解散とする。所属員及び各艦は今後第一艦隊から第四艦隊および国境警備隊のいずれかに編入となる。マリーアークライトについては今後調査が済み次第おって処罰を決定する。これより戦闘艦ごとに編入する艦隊を連絡する」
兵士たちは一斉に不満の声を上げた。もともと第五艦隊は王国外縁部防衛のために常に最前線に立っていた。そんな過酷な隊員を引っ張てきたのは他ならぬ彼女だった。ほかの貴族や王族は司令部か王都に籠り顔も見せないなか、マリーだけは常に戦艦にのり最前線で共に戦ってきたのだ。そのため艦隊の仲間たちの不平不満は当然のものだ。
その時ざわめきを断ち切るように王子が声を張り上げた。
「艦隊の諸君。君たちの指揮官はエリシオン王国に反旗を翻す重大な国家違反を犯した。そんな彼女を支持するなら君らも反乱分子として拘束し、しかるべき処罰を受けてもらうことになる。王国に忠誠を誓った軍人ならおとなしく指示に従え!」
一斉にざわつきは収まり空気が張り詰める。全軍最高司令官の王子殿下直々の言葉は絶対命令だ。その後は粛々と部隊解散の手続きが始まった。所属艦ごとに王国各地へと転属する指令が下る。
第五艦隊元旗艦クラウソラスは艦載機を半減されられたうえに砲塔を4門もおろし辺境の国境警備隊所属の警備艦となった。マリー直属の艦だったことが災いしてほかの船と比べても特に厳しい仕打ちだ。救国の戦艦の末路としてはあまりに悲しいものだった。
「これからいったいわたしたちはどうなってしまうんですか。もしかしてこれで全員バラバラになってしまうとか……」
「かろうじて俺の部隊は解散にはならなかったが旗艦とともに転属命令がでた。明日にもこのレインフォースを去ることになる」
「どうしてこんなことになったんだ?」
「上層部でどんなやり取りがあったかわからないが、俺にも皆目見当がつかない。ただ何らかの政治的な力が働いたことは確かだろうな」
我々が転属を命じられたのは、共和国との国境ストレイア要塞。この世界にきて初陣を飾った防衛線に位置する要塞だ。現在共和国には王国軍の主力部隊が駐留しているためこの要塞に戦略的な意味合いはほとんどない。実質王国の辺境に島流しされたようなものだった。
これからどうしたものか……。前の戦火で傷ついた大地に立ちすくみ、俺は開けた蒼い空を呆然と見上げた。




