第26話 独立試験大隊
解放作戦が終了してからおよそ1ヶ月。皆が様々な業務に忙殺されていたがやっと時間的な余裕ができた。ちょうどいいタイミングだとマリーとシャーロに新たな仲間を紹介する。
「新しい仲間ってどんな方たちなんですか?」
「シャーロにはまだ紹介してなかったな。マリーを誘拐しようとした公国の軍人とこの前助けた共和国の魔法研究者だ」
「それはまたかなり個性的な人達ですね……」
部屋のなかでは大柄なガタイのいい男とまるで妖精のような青い長髪の少女が緊張した面持ちで並んでいる。来訪者のブレットと共和国で救出したエリスだ。俺たちが入ってくると二人は背筋を伸ばし体を硬直させる。
「そんなにかしこまらなくていいぞ。それじゃブレットからマリーとシャーロに自己紹介をしてくれ」
「ブレット上級兵だ。公国から亡命した来訪者ってことはこの部屋のメンツはみんな知っているな。マリー艦長には大変無礼な振る舞いをしてしまった。改めて謝罪する。レイ少佐には返しきれない恩がありこの身を捧げる所存だ。よろしく頼む」
ブレットは脚をきちっと揃えて敬礼した。本当見た目は強そうな男だが、あのエルフの妻を知っているとその姿に威厳のかけらも感じなくなるから不思議なものだ。
「エリス・ウィン・フレイスト特務大尉です。技術将校としてフロレアル共和国からエリシオンに派遣されました。みなさんよろしくお願いします。私も……少佐にこの身を捧げます。レイ少佐、どうぞ末長くお願いします」
深々と頭を下げた。本当に礼儀正しい少女だ。だが色々と誤解を招きそうな台詞を無意識にいうのはちょっと勘弁していただきたい。
「どういうことなんですか? やっぱりこの娘に手を出したんですか? 私というものがいながら」シャーロは笑っているが目のハイライトが消え、側頭部の血管が浮き出て脈打っている。
「どうせ……私は最終的に捨てられる運命なんだわ。今まで助けてくれてありがとう……さようなら」マリーは顔をくしゃくしゃにして涙を浮かべる。可愛い反応だな、と思ったが腰にあるホルスターに手を伸ばしている。一体何をするつもりだ。
「おいおいお前ら、何か大きな勘違いをしていないか」
何か俺の周りにいる女性陣は純粋というか、一つの思いに本気になる子が多いようだ。この世界で俺が死ぬとしたら空の上ではなく、彼女たちのだれかに海に沈められるときかもしれない。いまの彼女たちの真剣な表情を見るとあながち冗談とも思えず背筋に寒気が走った。
気を取り直してマリーとシャーロに新たな仲間を紹介する。
「ということでだ。これから我が試験飛行隊にはブレット上等兵と共和国から派遣されるエリス特務大尉が加わる。これで俺とシャーロを含めて4人だな」
「4人か、小隊というよりもはや分隊って規模だな」
「しかも飛行隊なのにパイロットはレイ少佐だけですね」
「まあいいだろう、これからは俺の部下としてみんな邁進してくれ」
「了解!」
こうして圧倒的に個性的なメンバーを従えて向かう先は戦術会議室。今回の作戦の評価について聞きたいとのことだった。
「よく来てくれたレイ少佐。貴官から見た今回の戦闘の評価が聞きたい」
2番艦、戦艦エイジャックスの艦長マーブルグ准将が俺たちを招き入れた。第5艦隊の上官たちにはすでに俺の正体は割れている。正体を知った上で、来訪者からみたこの世界の戦術について客観的な意見が聞きたいとのことだ。見た目は厳格な人物に見えるが随分と柔軟な考え方の人物だ。
「今回の戦いでも私の飛行艇と第5艦隊の艦艇との連携はうまくいったと思います。最初の都市上空の制空権確保と対空兵器の無力化は迅速に行われました。一方で今のままの戦術には複数の問題があり、今のままではいずれ限界が生じると思います」
「複数の問題というは?」
「一つ目は、私の飛行艇一機に依存した戦術では攻撃の範囲や規模が相当限られることです。私のいた世界の飛行艇は確かに強力な攻撃力を有しますが、その携行できる爆薬や火器は無限というわけではありません。兵站が充実した敵との戦闘では確実にこちら側が先に武器弾薬を消耗しきってしまうでしょう」
「確かにその点は飛行中隊の連中も危惧しているな。これからは単機でなくより他の艦載機と協力した戦術を行えるのが理想だな。簡単にはいかないだろうが少佐のノウハウで艦載機の装備や編成についてより詳しく指導してやってくれ」
「了解です。次の問題点としては敵にも来訪者がいるということです。これは今後間違いなく艦隊に対する大きな脅威となります」
「今回の戦いでも、あの巨人のような男によって地上部隊にかなりの損害が出たからな」
「その対策として一つ提案があるのですが」
この准将は想像以上に物わかりが良さそうにみえる。兼ねてから考えていたアイデアをいうのに絶好のタイミングだ。
「いいぞ。言ってみろ」
「我が試験飛行隊を対来訪者専門の部隊として拡充したいと考えています」
この提案は艦隊を来訪者の脅威から防衛するため以外に重要な意味がある。それは俺を含めた現在試験飛行隊にいる者たちの軍隊内で明確な存在意義を与えることだ。幸い今の試験隊に関していまのところ大きな問題は出ていない。
だがもともと公国の尖兵であったブレットとそもそも軍人でないエリスが軍隊に所属するには何かしらの理由が必要だ。部隊の位置付けが来訪者専門の特殊部隊となれば、その特異性から少々イレギュラーな人材が所属していても許されるだろう。
「いいだろう。あんな化け物相手にいたずらに一般の兵士を損耗するのは得策とは思えないからな。その分、可能な範囲で兵器の技術移転や戦術指導をお願いしたい」
「ありがとうございます」
こうして試験飛行隊は独立試験大隊へと改定された。名前が変わっても相変わらず所属は4人、世界最小の大隊の誕生だ。会議に出席できなかったマリーの元へと報告へ行く。
「ふーん、あんたが対来訪者専門の部隊を設立ねえ」
「人外の相手は人外にさせるのがベストだろ」
「まあいいんだけど、でもそれでクラウソラスを降りるってわけじゃないわよね」
「もちろんだ。あくまで所属は第5艦隊なんだからな」
「ならいいわ、頑張ってちょうだい!」




