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第25話 魔導院解放(3)



クロノスがどうなったのかはわからない。だが今はそんなのに構っている暇はなかった。


「間に合ってくれよ!」


 高度を下げて壊れたゲートからヘリで直接魔導院のホールへと突入した。中でホバリングしながら、上にある崩れかけたをロケット弾で破壊して通過できる空間を作り深部へと向かった。メインローターが接触するギリギリのところを慎重に飛行していく。すると先ほど見たクリスタルの輝きが目に飛び込んできた。ついとらわれていた少女の元にたどり着いたのだ。


 だがもうあまり時間の猶予はない。建物自体が傾きいつ崩れてもおかしくない状態だ。可及的速やかに救出を行わなければならないだろう。緊張のあまり汗が頬を伝う感触がやけに冷たく感じる。今身につけているタクティカルジャケットは度重なる戦いで破け、擦り切れている。


「崩れそうだが……いけるか」


 周囲に接触しないよう慎重に崩れかけた中央の結晶の近くに降り立つ。少女に接続されているケーブルをライフルで撃ち抜き切断して行く。弾丸によって巨大なケーブル群はバラバラにちぎれた。残りの細い管をタクティクルナイフで切断していくと彼女は支えを失い倒れかかってきた。意識が朦朧としている彼女を肩で支えて声をかけると、水色の長い髪をした少女は首をわずかに動かし俺を見つめた。その瞳の奥にはそこしれぬ恐怖の色が映っている。


「大丈夫か?しっかりしろ。もう安心だ、俺は王国軍所属のパイロットだ」


「あ……ありがと…う」


彼女は少し安心したような表情になり目を瞑った。白い肌には様々な管の刺された痛々しい跡が残っている。俺はその小さな体を抱き上げてヘリの元に戻る。


「クラウソラス、こちらレイヴン。これより帰投する」


「了解。本艦に帰還後状況を報告せよ」


「さき…ほ、ありがと…ござい、す」


囚われていた少女がお礼を言ってきた。まだ呂律は少し怪しいがやや意識は戻ってきたようだ。


「ちょっと狭くてすまん。やっぱり複座のヘリを選ぶべきだったな」


 俺は彼女を膝に乗せて操縦桿を動かす。漆黒のヘリコプターは街の外れに集結している味方艦隊の元へ帰っていた。



 艦隊の元に帰ると少女はすぐさま救護班によって集中治療室へと運ばれていった。どうやら魔力をかなり消耗し、精神的ダメージも受けているようだが命に別状はないみたいだ。やっと体の緊張がとれる。だが周囲を見渡すとまだ気をぬくには早い状況のようだった。重症を負ったものたちが続々と運び込まれ野戦病院はさながら第二の戦場のようになっている。


「地上部隊の被害報告を急げ!瓦礫に埋まった第2中隊の生存者救助を優先せよ」


「負傷者は重症のものから運ぶんだ。手の空いているものは簡易ベッドの設営を手伝え!」


 着陸した艦の周囲には多くの負傷者で溢れかえる。作戦はなんとか完遂できたがこちらも想定以上の損害を折ってしまった。片腕を失った兵士の腕を押さえつけ止血しながら後悔の念に駆られた。あの来訪者クロノスをもっと早く潰すことができていれば……


 艦隊では負傷した兵士の収容のほか捕まっていた魔導院の研究者や学生の保護も行なっている。保護した人々の証言によるとシュティルゲン公国は魔導院の施設を利用し様々な非人道的な研究に手を染めていたらしい。俺が助けた少女もその犠牲者の一人だ。


 魔導院の関係者に尋ねると彼女の名はエリス・ウィン・フレイスト、フロレアル共和国最高の魔導一族の末裔だ。類い稀な魔力を持つハイエルフの家系の末裔にあたる彼女は約二週間で戦艦一隻が大陸を横断できるほどの魔力が生成できる。それに目をつけた公国軍は彼女をヒトではなくエネルギーを発生させる実験機材モノとして扱った。救護活動を手伝いながら結晶塔から救出した少女の身を案じる。


 負傷者の看護がひと段落すると艦内にいるエリスという少女の元に向かう。部屋の中で彼女は静かに眠っていた。全身に無数の細い管が挿入され、脊髄に巨大なケーブルが接続されていた痛々しい姿を思い出すと胸糞が悪くなる。せめて今はゆっくり休んで欲しい。ベッドで横になっている彼女の姿を遠目に見ながら、俺は公国に対してこれまでに感じたことのないような怒りを覚えた。




 レインフォースに戻り数日が経過した。まだ首都では激しい攻防戦が繰り広げられているようだが俺たち第5艦隊の仕事は無事終了だ。今日もエリスの病室へとお見舞いに行く。意識が戻った彼女は心配そうに窓の外を見つめていた。やっぱり祖国がどうなってるのか心配なのか。


「具合はいかがですか?」


「レイ少佐、感謝の言葉を申し上げます。貴官が助け出してくれなければ、私はあのまま死ぬまで魔力を吸い続けられていたでしょう。重ね重ね御礼を申し上げます」


「そんなにかしこまらなくてもいいですよ。だいぶ元気になってきたみたいで安心しました。助けたときは意識もほとんどなかったからどうなるかと心配しましたよ。」


 意識が完全に回復し、体の傷もだいぶ癒えたようだ。魔力が強いと自己治癒魔法によって傷の再生も早いらしい。ベッドの上で正座しこちらに深々と頭を下げた。水色の髪に長い耳、彼女もエルフの一族なのか。あどけなさが残る見た目は15、6歳ってところだが本当は何歳なのだろう?


「エリスさんが元気になってよかったです。フロレアル共和国は現在王国軍が侵攻して公国の占領部隊と戦闘しています。しばらくして戦いが終わったら国に戻ることもできますが、いかがしましょう?」


「その…お邪魔でなければ、もう少し私を貴殿のお側に置いてはもらえないでしょうか。魔法学、特に魔導航行機関についてずっと学んできたのでなにかしらのお役に立てると思います」


「いいですよ、戦いばかりで勉学の方はさっぱりだったので。色々教えていただけるとありがたいです。こちらこそよろしくお願いします」


「感謝のしてもしきれません。本当にありがとうございます……」


 そういうなり彼女は涙を流しながら俺の胸に飛び込む。あれだけ辛い思いをしていたんだもんな、できるだけ彼女が望むようにしてやりたい。そのまま艶やかな水色の髪を撫でていると安心したのか、目をつぶって安らかな表情をしている。


「わたし……すごく怖かったの」


「安心してください。約束したからには責任を持って王国で過ごせるようにします。地位や権力は持っていませんがそれなりの修羅場を超えて来たつもりです。今後貴女に降りかかる脅威は全て私が打ち破りましょう」


 ちょっと大げさなことを言ったが彼女を安心させるためにはこれくらい言ってもバチは当たらないだろう。


「よかった。貴方のそばにいられるだけで安心できる気がします。これからよろしくお願いします」


 二人でこれから王国のどこに移住するか、どうやって軍人である俺の元に来るか戦略を練る。彼女は王国側の魔導院とのパイプを利用して交換将校として第5艦隊に配属されるように工作するということになりそうだ。

 続いて住居の話をしているとマリーが俺を呼びに病室に入ってきた。彼女に寄り添いながらどこに住むかを話している非常に微妙な姿をバッチリ目撃される。


「そろそろ作戦会議よっ……な、なにしてんの!」


「エリスさんとこれからの話をしててな。全然やましいことなんてしてないぞ」


「は?何を言っているの……」




 マリーはプイっとそっぽを向いて出て行ってしまった。だが気になってしまってどうしても帰れない。廊下をウロウロしているとシャーロが通りかかった。


「私も気になります。二人で中の様子を見ましょう!」

並んで病室の中の様子を隠れて覗く。てっきりいかがわしいことをしているのかと思ったがレイは肩をさすりながらエルフの少女に優しく言葉をかけていた。


「レイ少佐って本当やさしいですよね」


「でも人の気持ちを理解する能力は三流だわ」


「そこには同意します。でもそれがまた魅力なんですよねー」


「そういうものかしら。ま、私も彼のそういうところ嫌いじゃないんだけどね」


「艦長も素直じゃありませんね」


マリーとシャーロの付き合いももう結構なものだ。二人で少佐の話をしているうちにあっという間に夜は更けていった。


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