第24話 魔導院解放(2)
敵の地上部隊はまともな抵抗もせずに撤退していく。味方部隊は順調に行軍しすでに主要施設の出入り口は抑えたようだった。このまま何事もなければ魔導院全域を制圧するのも時間の問題だろう。ほとんど地上での戦闘がなかったのは少々拍子抜けだが味方に損害が出るよりはずっといい。
「我が分隊も正面の門から突入します。少佐もあとに続いてください!」
隊長の呼びかけとともに扉が爆破され中央塔へ突入する。さっき見た巨大な結晶が見えたのはもっと上階だ。早く登って上の状況を掴まないと。
内部の様子を見ると巨大なホールのようで外見から想像するよりはるかに巨大な空間が存在している。天井までの高さは30m以上あり壁には無数の書物が積まれ研究所というより巨大な図書館のような体裁だ。上階に登る手段がないかと内部を捜索していると、通信兵の元に無線が入る。
「こちら、第2中隊。現在敵軍と交戦中。21名死亡、負傷者多数。被害甚大、応援を求む! 敵の数は一人。繰り返す、こちら……」緊迫した声で応援を求めていた無線は途切れた。
一個中隊がたった一人に対しそれだけの被害をだすとは……思い当たる可能性は一つだけだ。無線では次々と被害の報告と救援を求める叫びが聞こえてくる。すでに歩兵部隊は半数以上倒れ壊滅状態、こちらの戦闘車両も数両を残し破壊されてしまった。
もはや一刻の猶予もなさそうだ。ファーマット中尉の制止を振り切り元来た道を駆ける。
後方では大型のドロイドの腕をへし折る大男の姿が見えた。味方とともに進軍していたブレットが交戦しているがかなり苦戦しているようだ。人間離れした脚力で飛び上がり派手な蹴り技を繰り出すと周囲の兵士たちは一撃で吹き飛び、ドロイドの装甲を砕けちった。
「公国を裏切るなんてほんと馬鹿なやつだな」
「ここまでか……」歩兵部隊とともに男と交戦していたブレットはもうすでに息も絶え絶えだ。
オレは遠くからライフルを構え頭部に照準を合わせる。引き金をひくと弾丸は男の後頭部に直撃した。だが弾が当たったはずの赤い髪を軽く払うと何事もなかったかのように巨大な男はツカツカとこちらに向かってくる。物陰に隠れながら射撃を続けるも一向にダメージを与えられない。巨大な男はこちらに来ると俺の装備をまじまじと見た。鮮やかな赤髪に紫の派手な衣装、明らかに軍人の出で立ちではない。
「お前が噂に聞く戦闘機男だな。俺はクロノス、オンライン格闘ゲーム『ゼロ・サーガ5』出身だ。公国の突撃隊長をやってる。ここで死んでもらおうか」
「よく俺の正体を瞬時に見破ったな」見た目に反して頭の切れる男なのか?
ご丁寧にペラペラと自己紹介してくれたおかげで正体がはっきりした。やはり予想通り敵軍側の来訪者か。その身長は2mを超え体の幅は常人の倍ほどある。近くに落ちていたライフルを拾い上げると飴細工のように軽く折り曲げてみせた。やはりその肉体は人間離れしているようだ。確かに近接戦闘では並の対人兵器じゃ太刀打ちできないだろう。
「この世界の戦争なんてオレにとってはお遊戯みたいなもんだ。1発殴るだけで10人は吹き飛ぶ。ゲームでの対戦よりもイージーだぜ」
「友軍をよくここまで痛ぶってくれたな。俺はそうは簡単にはいかないぞ」
「じゃあ試してみるか?行くぜ!」
速い。目では終えるがまるで体が追いつかない。気がつくと俺の体は宙に舞い激しく壁に叩きつけられた。ライフポイントはあまり減っていないが、流石の衝撃に全身が痛みで悲鳴をあげた。瓦礫を手で除けてふらふらと立ち上がる。
「おいおい、ずいぶん頑丈なんだな。これは壊しがいがありそうだ」
ニヤニヤ笑いながらこちらに再び加速しながら突撃してくる。
「オラァ!!」
今度はもろに脇腹に回し蹴りを食らった。内臓が押しつぶされ脊柱が大きくゆがんだ。常人なら即死の威力だ。
「グハッ……流石に効くな……」
もう何回蹴られただろうか、だが奴はまだ本気を出していないようだ。ある程度手の内を見ないうちは迂闊に反撃できない。ライフル弾で牽制しながらできるだけ攻撃を受け流す。だが奴の熊のような筋肉は小銃の弾などもろともせず、その巨体は容赦無く襲いかかってくる。
「いくら丈夫でもそろそろ限界なんじゃないか。甚振るのも流石に飽きて来たぞ。これでおしまいだ!!」
奴の右足が赤く光りだして高くジャンプした。空中で派手なモーションとともに周囲に火の粉が舞い散る。龍の形をした炎を纏いすごい勢いで突っ込んできた。圧倒的な飛び蹴り攻撃だ。すんでのところでかわしたが衝撃波は凄まじく周囲の瓦礫とともに数十メートル吹き飛ばされる。
「直撃はしなかったか、だが流石にもう動けまい」
これが奴の必殺技か。威力は高いが蹴りならば飛び上がってから蹴り出すモーションのため、上方を攻撃するのは苦手そうだ。ここまでの攻撃を見てもジャンプできるのは最大10mってところか。散々やられたおかげで攻撃前のモーションとパターンもだいたい把握できた。そろそろ反撃の時間だ。
「大したものだ。生身の格闘攻撃でサンダーボルトのライフを27%も削ったのだからな。ここからは本気でいかせてもらう」
俺は戦闘用ヘルメットについたスマートグラスで素早く機体を変更し出現させた。周囲の空間が歪み、大きな黒い影が現れる。
『バラララララッ』
砂煙を捲きあげながら武装を満載にした漆黒の攻撃型ヘリコプターが姿を表した。
ロシア製の攻撃ヘリコプターKa-50チョールナヤ・アクーラ、ロシアのカモフ社によって開発された世にも珍しい単座型の攻撃ヘリコプターだ。二重反転メインローターを採用し小柄な機体だが、2000kgの装備が搭載できて非常に高い攻撃力を持つ。多数の対地ミサイルとロケット弾を搭載して地上の目標を蜂の巣にするのがこの機体の役割だ。
「なんなんだこれは……こんなもんいきなりどっから出したんだ……」
クロノスは驚きのあまり呆然と立ち尽くした。
BGの携行武装変更と同じ要領でWSの機体も選択できる事を発見してから考えていた戦術だ。戦場で瞬時に航空機を展開し火力投射できる。
もうすでにアイドリングしメインローターが回転しているKa-50はいつでも離陸可能だ。俺が飛び乗って操縦桿を引くと機体は浮かび上がる。
「手加減はなしだ。全力で行かせてもらおう」
Ka-50の左右に懸架されたガトリング砲が轟音をあげながら回転し始めた。
クロノスは持ち前の身体能力で器用に射線から逃げる。この攻撃が当たるなんて考えちゃいない。ここからは彼に攻撃ヘリコプターとの持久戦をたっぷりと楽しんでもらおうか。
ここまでの戦闘で奴の跳躍力はどの程度かだいたい察しがついていた。機体に取り付かれないよう高度を保ちながら断続的に攻撃していく。確かに常人に比べ動きははるかに俊敏だ。こちらの機関銃やロケット弾の攻撃はなかなか当たらない。だが、数十分間にわたる機銃掃射やロケット弾の砲撃によってだいぶ消耗してきたようだ。動きにキレがなくなり肩で息をしているのがわかる。
「卑怯者、己の肉体で戦え!」地上で何やら騒いでいる。
「すまんな、俺にとってはKa-50が肉体そのものなんだ」
ミサイルの発射シークエンスに入る。確実にとどめを刺さないとな。
ヴィーフリ対戦車ミサイルの発射準備が完了する。スロットルを倒し一気に高度を下げて奴を正面に捉えた。反撃されないうちに彼に引導を渡すとしよう。
「何だ……まるで黒い悪魔のよう……」
言い終える前にクロノスは対戦車ミサイルの業火に焼き尽くされた。あたり一面が火の海になる。再び高度を上げホバリングしながらあたりを見渡す。
爆煙が晴れるとそこに奴の姿はなかった。死んだかどうかは定かでないが流石にもう戦闘不能だろう。俺は機首をあげ魔導院へと機体を向けた。
「クソ!どうしてオレがこんな目に……」
こんなのは絶対におかしいとクロノスはボロボロになった体を引きずりながら怒りに震える。彼が今回は久々の戦いだと意気込み選んだ紫のジャケットはもはや消し炭になっていた。
さっきのヘリコプター野郎はどこかへ飛び去ったみたいだ。ブレットの野郎は任務に失敗して裏切るし戦闘機乗りはミサイルで攻撃ときたもんだ。
「これだからミリタリーオタクは嫌いなんだよ!」
地上はすでにエリシオン王国軍の占領下だ。彼は傷だらけの体で下水道の中を這うように進んでいく。この世界に来てから全ての戦いで無敗を誇ったクロノスにとって下水管での敗走は最も屈辱的な瞬間だった。




