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第20話 奪還作戦


王都郊外のミュラーソン航空基地



 深夜基地に数台の車列が静かに入ってきた。中には航空軍少佐と敵国の捕虜、そしてわずかな関係者だけだ。これは非公開の極秘作戦である。


「すごいな、あれでいくのか」ブレットは基地に駐機するずんぐりとした4発のレシプロ輸送機を見上げて呟く。今回のミッションで俺が使用する機体だ。


C-130 ハーキュリーズ ロッキード社が開発した輸送機、ロールアウトから50年以上たつもいまだに生産され続ける輸送機の傑作だ。増槽を搭載した派生型では行動距離は6000kmを超える。これなら要塞まで飛行可能だ。未整地での運用を前提として開発され短距離離着陸も可能、万が一の時も不整地に不時着できるので安心である。


「ただしお前が乗るのはあそこだ」俺は機体の脇においてある小型のポッドを指さす。


 本来なら偵察用ドローンを格納し投下するための兵装だが2〜3人くらいなら入れそうなサイズはある。与圧されないが男の装備なら大丈夫だろう。流石にこんな信頼できない男をそのまま機内に入れる気はおきない。さらにそいつのメニュー画面を見て対空攻撃に使えそうな装備はすべて外させた。万が一のことを考えてだ。


貨物室に男の入ったポッドを乗せハーキュリーズは飛び立った。


「作戦時間は15時間、救出に使えるのは正味8時間ってところだな」


しばらく夜の空を飛び続ける。今回はそんなに硬度が高くないため敵の感知魔法にかかる可能性がある。申し訳ないが監獄のある島から10kmほど離れた海上で男のポッドは投下する手はずだ。


「規定のビーコン発信がなければ死亡したとみなし、即座に帰投する。いいな」


「ああ、過酷な潜入はゲーム内で何度もしている。任せてくれ。」


 男の入ったポッドを監獄のすぐ横の海上に投下する。どうやら監獄の排水管をたどって侵入するつもりらしい。海を渡ることさえ除けば、BGゲームの装備があればこの世界の監獄などさぞイージーなステージだろう。

 だが、最初は楽観的な考えだったがも時間が経つにつれ不安が増していく。腕時計の秒針が刻む一秒一秒がやけに長く感じる。


「やはりあんな戯言を信じたのは軽率だったか……」思わず独り言をつぶやいた。


 近くの無人島に着陸し待機している数時間はまるで時が止まったようだ。もしかしたら俺はとんでもない過ちをしたのかもしれない、あんな胡散臭い話を信じてしまうとは。何度も後悔したが、こうなっては男の知らせを待つしかない。自分の判断が間違いでなかったとただ信じ続けた。



 どれくらい経っただろうか、数時間が経ちついにビーコンが光った。どうやら救出は成功したみたいだ。俺を裏切って逃げるのかとも思ったが彼は律儀に合流ポイントの座標に向かっているようだった。俺は胸をなでおろす。近くの無人島から離陸しランデブーポイントの海上へと向かう。


 監獄から数キロ離れた沖に投下したポッドに乗った2人の人影がかすかに見える。俺はハーキュリーの後部ハッチからケーブルを垂らして低空を飛行する。普通の人なら飛んでいる飛行機のケーブルをつかむなんて無理な話だが、BGゲーム出身の彼ならなんとかするだろう。

 数回繰り返すとなんとか掴めたようだ。彼らが後部ハッチを閉じるのを確認すると高度をあげた。

 

 基地に戻り着陸すると武装した兵士と共に機体の荷室へと乗り込んだ。すると、長身の屈強な男の隣にはその半分程度の身長の幼い少女が並んでいた。男の言っていた話は真実だったのだ。


 女性、と言うより幼い女の子は青い長髪に尖った耳、人間離れした白い肌をしている。これが噂できいたエルフってやつか。シャーロからこの世界にはごく少数だが人でない種族がいることは聞いてたが、王国内にはいないため今回初めて出会った。しかし男の見初めた相手がまさかこんなに小さなエルフだとは思わなかった。


 軍の特殊工作員とロリエルフというすべてにおいて色々とアウトなカップルは二人揃って丁寧に頭を下げた。


「妾は彼の妻、ミラと申す。そなたには感謝してもしきれぬ」

その小さな体躯からはとても妻という感じがしない。娘と言われた方がまだしっくりくる……


「お前……いくらこの世界でもそれはさすがにアウトだろう」俺はブレットに思わず口走る。エルフはどう考えても10歳前後にしか見えない。


「失礼じゃ、妾は319歳じゃぞ」エルフは大抵のファンタジーで長寿だが、まさかこの見た目で300歳を超えているとは……


「これからお前らはどうするんだ。こうなったらもう公国に戻ることもできないだろう」ここまでしたのだ。もう公国の勢力下で平穏に暮らすことはできないだろう。


「…恥を承知で頼む。もう一つだけ願いを聞いてくれ。彼女を王国に亡命させてくれないか」


 やはりそれしかないだろうな。だがそんなリスクの高いことを無条件で許すほどお人好しではない。しばらく俺は考える。彼が提供できる敵国の情報以上のものが手に入るなら……


「彼女の安全は保証しよう、ただし条件がある。お前のBGのアカウント内容をすべて開示し、アクセス可能にしろ。」


 事実上の武装解除、いやそれ以上の命令をした。アクセスを許可すれば彼の武装やスキルは筒抜けになり、身につけた装備と携行した武器もこちらで解除できるようになる。さらにその気になれば、俺が勝手にBGの武器を使うことも可能になるのだ。


 WSとBGはどちらも同じゲーム会社が作り、同一のゲームエンジンで動いている。アバターが共通のためこのようなとんでもない裏技が可能だ。


「王国で彼女の平穏な暮らしを保証してくれるなら、喜んで応じよう」

彼は縦に頷く。これからは王国のために馬車馬のごとく働いてもらうとしよう。


王都に戻りマリーの元へと帰ってきた。表向きには今回の事件の協力者を調査しているということになっている。まさか主犯の男と輸送機で大陸を横断していたとは彼女も夢にも思っていないだろう。


「お帰りなさい。少し犯人の背景について手がかりはつかめたかしら?」


「実は……」男を仲間にしたい旨を伝える。当然マリーの顔は疑念で曇る。


「はあ?あの来訪者を仲間にしたいですって」


「そうだ、奴は強力な戦力になる」


「……もうあんたって人は本当に何をしでかすのかわかったもんじゃないわ」

彼女は仕方ないわという風にため息をついた。


「たしかに来訪者をさらに仲間にできると強力だわ、ただ私を誘拐した人物が本当に信用できるの?」

不信感を抱く彼女にこれまでの経緯を説明した。


「その男が使う異世界の力を完全に抑えたってわけね、まだ完全に信頼したわけじゃないけどレイが大丈夫って言うのなら私は信じるわ」


「ありがとう、それじゃあクラウソラスに帰ろうか」


こうして奇妙なFPS男を仲間に加えて俺たちは王都アルスメリアをあとにした。



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