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第19話 新たな来訪者



 俺はマリーを狙った理由をその口から聞くため、迷彩服の男が収監された王都外れの監獄に向かっていた。パイロットの俺が尋問するのもおかしな話だが、その男はかなりの拷問を受けても一向に傷つかず埒があかないそうだ。戦った君になら何か話すかもしれないと近衛兵の隊長から泣きつかれてしまった。


 男の持ち物は通信機に暗視ゴーグル、スタングレネードと明らかにこの世界の物ではない産物ばかりだ。どうやら通信機で様々な兵器を呼び出して操作していたらしい。これと似たようなゲームを昔やった気が……


「こうなった時点でもうおしまいだ」


 鎖で吊るされた男が静かに呟いた。右頬に深い傷が刻まれ肩にはイタチをあしらった部隊章の刺青が彫ってある。この刺青にもなぜか見覚えがあった。



「名を聞こう」


「ブレットだ」男は短く答えた。


「お前は誰の差し金で姫を誘拐した?」

 こめかみに銃を突きつけるが一切怯えたそぶりを見せない。全てを諦めた表情でこちらを一瞥する。


「そんなこと彼女の重要性を考えればだいたい見当がつくだろう」


 やはり教える気はなさそうだ。ナイフを取り出し男の腕に思い切り突き立てた。が、顔色一つ変えない。そもそも刃は皮膚に弾かれてほとんど傷になっていなかった。

 今度は拳銃で膝を撃ち抜く。引き金を引き続けると薬莢がバラバラと床に落ちていき、部屋は硝煙の匂いで満たされる。撃ち続けるとやがて弾倉が空になったが足の皮膚にはうっすら血が滲んだだけだった。この常人離れした異常な耐久力、思い当たる理由は一つしか思いつかなかった。


「おおかた公国からの差し金か反王政の過激派ってとこか、じゃあ質問を変えよう。どの『世界ゲーム』から来たんだ?」


しばらくの間沈黙が続き、ついに男が口を開いた。

「私は……『Battle Gear online』からきた。お前も来訪者ならわかるだろう」


「わかるも何も俺もプレイしたことあるぞ」


 やはり予想通りだった。この男が言った『Battle Gear online』通称BGと略されるゲームは、近未来の荒廃した都市を舞台に戦いを繰り広げるVRFPSだ。

現実にある兵器とドロイドやレーザーガンといった架空の武器を使って対戦ができるほか、オフラインでの豊富なシナリオも人気のPCゲームだ。俺も少しプレイしていた時期がある。


 戦った多脚ドロイドに見覚えのあるのはそういうことか。そういえばBGでは、特定の兵科は戦闘中に支援兵器バトルドロイドを呼び出せる特殊能力を持っていたな。

 この男はその兵器が呼び出せる能力を持つ偵察者という兵科に属していた。偵察者は本人の戦闘能力は低いがドロイド召喚以外にも様々な潜入、隠密行動に関する能力が付加される。今回の誘拐任務にはぴったりだったってことだ。

 一方で全体的に攻撃力は低めに設定されている。今回俺が観測ヘリコプターでもなんとか勝利できたのは相手も偵察仕様だったことも大きいだろう。



「おれは『Wing of Steel』だ」


「ってことは戦闘機に乗れるのか」男は目を丸くする。


「戦闘機だけじゃなくヘリから爆撃機までなんでもこいだ」

事実、WSで選択ではあらゆる軍用機がなんらかの形で使える。無人偵察機すら選べるのだ。


「…私自身はどうなってもいい、何ならここで死んでもいい、だが一つだけ頼みがある。」


「しゃーない、聞くだけきいてやる」同じ来訪者のよしみだ。とりあえず聞くことにした。


「私は12年前にこの世界に飛ばされてきた。右も左もわからない私を導いてくれたのはある女性だった。ささやかだが彼女と幸せな日々を送っていたんだ。だが、3年前すべてが変わった。

 公国軍が私たちの住んでいた国を攻め落とした。BGの力を使い私は彼女の故郷を守るため最後まで抵抗した。だがそれが悪かった。私は公国軍に来訪者であることを見抜かれてしまった。どうやら公国中枢にも来訪者がいるようだった。私のBGの力を利用するため、人質として妻は極北の監獄に幽閉された。俺の装備じゃどうやってもたどり着けない絶海の孤島にある監獄だ。以来私は公国の下僕としてこうして裏仕事をさせられているってわけさ。今回任務に失敗してしまったから彼女も俺も、もう命の保証はないだろうがな……」


 陳腐な内容の悲劇で同情を引こうとしただけかと思ったが彼の語っている表情は真剣で気迫を感じた。そして何よりその話を信じるならば、公国側にも未知の来訪者がいるってことになる。それは王国にとってかなり危険な状況だ。


「そんなこと俺に話してどうする? まさか感動して助けてやるとでも思っているのか」


「あんたの飛行機を使えば監獄まで行ける。彼女さえ取り戻せればすべての真実を話し、どんな言うことも聞く」男は突拍子も無いことを言い出した。


「話は聞いた、少し考えてやろう」そう言い残して部屋を出る。


 少々物語じみた胡散臭い話だったが、俺はどうしてもこの男が嘘をついているようには見えなかった。なにより公国内部にさらなる来訪者がいるという話はもっと詳しく聞く必要がありそうだ。何人いて一体何を目的に広告に属しているのか、知りたい情報は無数にある。


しばらく考えた後、部屋に戻ってブレットに対し命令した。


「お前の願いは聞いてやろう。ただしこれからすべて俺の指示に従え、できないなら身ぐるみ剥いで大海の中心で叩き落すぞ」


「私の大切な人を助けてくれるなら喜んで全裸で海に飛び込もう」


「何をいっているんだ?」

このブレットという男、意思が強いのか変態なのかわからなくなってきた。


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