第14話 平穏なある日
最近はこれまでの戦いがまるで嘘だったかのように平穏な日々が過ぎていた。
第5艦隊が公国の侵攻軍をほぼ無傷で打ち破ったというのは、シュティルゲン公国とエリシオン連合王国双方に大きなインパクトを与えた。世界の情勢は大きく変わろうとしている。
王国はこれまでの姿勢を転換し、軍を全面に展開し積極攻勢に転じ、公国側は今までのように容易に進軍できなくなっていた。両軍は国境線で睨み合い、戦況はこう着状態、束の間の平和が訪れている。最初に俺がこの世界に飛ばされてから早4ヶ月、季節は初夏を迎えようとしていた。
一方俺の周囲はあまり平穏とは言い難かった。この前の夜以来マリーに避けられているような気がする。姿を見かけて話しかけようと近づいても、目線も合わせてくれない。
それとは対照的なのがシャーロだ。最近は朝から晩まで、ベッドとトイレとシャワー以外のあらゆるところについてくる。少々鬱陶しいが慕ってくれる妹ができたような感じで悪い気はしなかった。
2人で買い物にいったり料理をしたりと、この世界の日常生活について教えてもらう日々。そんな感じで数日が過ぎたある日……
「大尉、お暇なら息抜きにどこか旅行に行きませんか?」シャーロが食事中にも関わらず横にすり寄り腕を引っ張る。いつものようにマリーは一番離れた席に座り、無言でひたすら固そうなパンをかじっていた。こちらの会話も耳に入ってるはずだが、知らんぷりで朝食と向き合っている。
いつもならシャーロの話は適当に流すところだが、今日は彼女の話に乗ることにした。なぜならマリーがこちらをチラチラ見ているからだ。最近俺を無視している腹いせに目の前で楽しい旅行の話で盛り上がってやろう。
「いいね!どうせなら海にでも行きたいな。この辺でいい感じのビーチとかあるか?」
「レインフォースから一番近いのはカルマクロ海岸です。すごく綺麗なところなんですよ、遥か沖まで海の底が透けて見えるくらい透明でまさに別天地です!」
準備よくどこからか観光雑誌を取り出した。雑誌を開いて彼女は美しいビーチのモノクロ写真を指差す。確かになかなか綺麗そうな砂浜にみえる。
「そこまで言われるといよいよ行ってみたくなったな!コテージもあるみたいだぞ。どうせなら何泊かゆっくりするか」
「ビーチでバカンス。ぜひ2人で行きたいですね!」
「もう、いちゃつくなら他でやってちょうだい!!」
しびれを切らしたマリーはついにこちらを睨みつけた。不機嫌なときの癖で髪の毛をくるくるといじっている。分かりやすいやつだ。
「いつも通りですよー、もしかしてマリーさん羨ましいんですか?」
シャーロが無邪気に答える。だが完全に煽っているようにしか聞こえない。最近はすべて計算尽くでピュアなキャラを演じているのではないか、そんな気がしてきた。
「別に全然そんな気分じゃないわ、二人で勝手に行ってらっしゃいな。わたしがいてもお邪魔でしょ」
いよいよ泣きそうな顔になってきた。顔は紅潮して耳まで真っ赤だ。いつも強気につり上がっている目尻には涙が浮かぶ。流石にやりすぎたか、少々かわいそうになり助け舟をだす。
「僻んでいるのか?行きたいならお前も連れてくぞ」
「そんなんじゃないわよ!」
「久しぶりに口を聞いてくれたな、てっきり嫌われたのかと思ったよ」
「……本当あんたは人の気持ちなんて全然わかってないんだから」
プイッと顔をそらし、頬を膨らます。拗ねている顔もまた可愛らしい。
「そんなに一緒に行きたかったのか、じゃあ3人で行こうか」
「はあ…仕方ないわね、どうしても一緒に行って欲しいならついて行ってあげるわ」青い瞳がキラキラ輝く。あまりに純粋すぎて彼女のこの先の人生が少し不安になった。
そんなこんなで俺は2人と海へ行くこととなった。こちらの世界に来て戦いっぱなしなのだ、たまには休暇を楽しんでもバチは当たらないだろう。




