告白
大きな衝撃音は聞こえたが、殴られた傷みも衝撃も感じず、さらに、私の上にのし掛かっていた重さもなくなっていることに気がついた。
ゆっくり体を起こして確認してみると、男は近くに積み上げられていたごみの山に埋もれていた。
何だかよく分からないが助かったようだった。
そういえばペンダントはどうなったのだろうか。
そう思い、自分の胸元を確認するとそこには彼の贈り物が淡く輝いていた。
私は一つ息を吐き、それを両手で包み込むようにして持った。
忘れようとしていても結局、彼がお守りにとくれたペンダントを手放すことができずに未練がましく持っている。
自分って本当にダメだと思う。
「真理」
一人でただ落ち込んでいると、突然私の名前が、優しく、心地の良い音になって耳に届き、後ろから暖かく包まれた。
驚いて、ゆっくりと振り返るとそこには一番近くに居て触れたいと思える人がいた。
「レオさん・・・。」
なぜここに彼がいるのか、婚約者との食事はどうなったのか、聞きたいことがあるはずなのに、私は、彼の名前を言うだけで何も聞けなかった。
「真理、どこか痛む所はあるかい?」
彼は心配そうに私を見つめながらそう言った。
「えーと、少し擦りむいた位で大したことはありません。」
男に突き飛ばされた時に足と手を少し擦りむいた位で大したこともなく、心配をかけないためにもそう答えた。
「・・・何処を擦りむいたの?いや、とりあえず先に病院に行こう。真理が気づいてないだけで何かあったら大変だからね。」
彼はそう言いながごみ溜めでのびている男を一瞬睨んだ後、私をまるで壊れ物を扱う様に優しく抱き上げるとゆっくりとした歩調で歩き始めた。
「あの、大したことないので気にしないで下さい。放っておけば治ります。だから、おろして下さい。」
「それは出来ない。おとなしくしてて。」
彼の優しさがとても苦しい。
せっかく諦めようとしているのに、これ以上大切にしないで・・・。
「もう、やめてよ・・・。」
「え?」
「婚約者がいるのに、優しくしないで。私は、レオさんが好きなんです。レオさんが優しい方で、心配してくれているのはわかります。これはただの私のワガママです。でも、私は、あなたが、好きです。私が欲しいのは親愛や家族愛じゃないんです。これ以上私に期待させるようなことしないで。レオさんはただの親切のつもりでも、私は、そう、感じない、から。」
言い終わり、はっとして彼を見ると、彼は目を大きく見開いて私を見つめていた。
一度出てきた言葉はもう引っ込まない、私は目を赤くさせて「もう、おろして下さい」と彼に言った。
私を支える彼の手に、少し力が入ったような気がした。
きっと、とんでもなく面倒な女だと思われただろう。
もしかすると、助けたことを後悔しているかもしれない。
私は彼から目をそらし、彼が口を開くのを待った。
「ねえ真理。」
彼に静かな声で名前を呼ばれ、彼の方に視線を向けた。
「俺、婚約者なんかいないよ。そもそも、恋人もいないしね。」
「え・・・。」
「どうして、俺に婚約者がいるとおもったの?」
「以前、町でレオさんが、女性と歩いていたのを見かけたんです。それから、この町の公園できいたんです。この町の領主様には、婚約者がいるって。今日、レオさんが、領主様だと知って確信したんです。」
「なるほどね。多分、真理がみた女の人は隣町の領主の娘さんだよ。町を見たいと言うから見せてまわっていたんだ。娘さんの方はここに来るのは初めてで、色々見たいと言っていて案内することになったんだ。」
「そうだったんですか。」
「ところで・・・。さっき、真理が言ってたことって本当?」
そういえば、さっき勢いに任せて色々彼に言ってしまった気がする。
確か、私は彼に・・・。
「俺のこと好きって言ってくれたことだよ。」
告白してしまった。
「あ、あれは・・・。」
顔がにどんどん熱が集まっていくのを感じた。
そんな私を見下ろし微笑みながら彼は言った。
「今日、真理を屋敷に呼んだのはね話したいことがあったからって言ったよね。」
彼はそう言って言葉を一旦きるとまっすぐ私を見つめていた。
私は彼の目を見つめて何もできなくなりじっとしていた。
「真理、君が好きだ。家政婦じゃなくて俺の恋人になって欲しい。」
「あ、の・・・。」
自分の心臓が忙しなく働き、喉もカラカラに渇いていた。
その為、私の喉から出てくるのは言葉にならないかすれた音だけだった。
「真理の答えはもちろん"はい"だよね。さっき俺のこと好きって言ってくれてたし。」
彼は、にこやかに私にそう言うと、再び歩き始めた。
私は、ただうつむいて彼に捕まっていた。




