お屋敷
彼のことをまじまじと見つめていると私の考えていることが通じたのか彼は口を開いた。
「今日は真理に話したいことがあるから、付いてきて欲しいんだ。」
彼にそう言われ私は少し困惑した。
今日、彼は自分の彼女、もしくは彼の想い人に会いに行くはずである。
それなのにどうして私を誘ってくるのか、彼の言っていることがよく分からず、黙って彼のことを見つめていた。
すると私がそうしている理由を彼は勘違いしたのか少し焦ったように言葉を続けた。
「これから行く所は少し特殊だから、テレポートっていう転移魔法を使って行くんだ。別の人を一緒に転移させるためにはその人に触れている必要があるから、俺の手を握ってほしいんだ。」
結局彼の意図していることは全く分からなかったが、彼のことが好きな私は結局、言われた通りに彼の手を握った。
ひんやりとした彼の手を握った私は嬉しさと切なさで、少し胸が苦しくなった。
「それじゃあ何も考えないようにしてゆっくり目を閉じて。」
私が彼の手を握ると彼はほっとしたような様子を見せてそう言った。
私は彼に言われた通りに目を閉じると一瞬だけ体がふわりと浮かんだような不思議な感覚を受けた。
「もういいよ」
彼にそう言われて目をあけると私は立派なお屋敷の前に立っていた。
「・・・あの、ここはどこなんですか?」
「ここは俺の実家だよ。いつも真理と暮らしてるのは、実家の離れなんだ。言ってなかったけど俺はこの町の領主だから、普段はここで仕事してるんだ。」
「・・・そうなんですか。」
この短時間訳の分からないことが続き、私はそう答えるのでやっとだった。
私が彼と一緒に初めてリリーさんのお店に行った時にそのようなことを言っていたと思うので、あの家が彼の実家ではないというのはなんとなく感じていた。
でも、実家がこんなに大きなお屋敷とは思わなかったし、どうしてここに住まないのか疑問だった。
それにまさか彼がこの町の領主だったなんて思わなかった。
彼の説明を聞いて私は混乱していた。
そのとき私は彼とまだ手を繋いでいることにふと気がついた。
ここれだけ大きなお屋敷ならきっとご両親だけでなく大勢使用人もいるはずである。
もし誰かに、彼と手を繋いでいるのを見られればもしかすると勘違いされるかもしれない。
彼と恋人同士に見られるのはとても嬉しいことだと思う。
でも勘違いされたとしても彼はいつものような優しい笑顔でそれを否定するだろう。
いくらそれが真実であったとしても彼の口からそのように言われてしまうのは絶対に嫌だった。
「あの、手を早く離さないと誰かに見られたら勘違いされますから。」
この言葉は彼のためのものではない。
卑怯な私が傷つきたくないからこう言っているだけだから・・・。
でも彼は落ち着いた様子で私にこう言った。
「大丈夫だよ。ここは魔人形達が全部管理してくれているから、今は実質俺と真理の二人だけだよ。だから誰にも見られることはないよ。」
「え・・・。」
彼の言っていることがよく分からず、私は困ったように彼を見た。
「両親は俺が小さい頃に亡くなったし、その後、俺を育ててくれたばあちゃんも俺が15のときに亡くなったよ。だからこの屋敷にいるのは俺と人形だけだよ。」
彼の言葉になんと返してよいのか分からない私はただ黙っているしかできなかった。
ただ、ここまでの話しで、どうして彼が私をここに連れて来たのか、私はなんとなく分かった気がした。




