話し合い
私が台所に着くと彼はお茶の準備をしていた。
その様子を見て私は慌てて「私がする」と言ったが、彼は私の方を見て「気にしなくてもいいから真理はそこに座ってて」と思わず見とれてしまいそうな笑顔で言われ、私は椅子の上で固まってしまい動けなくなってしまった。
彼は二人分のお茶を入れると「どうぞ」と言って片方のカップを私の前に置いた。
目の前に置かれたカップに入っているお茶はとても優しい香りがして不思議と気持ちが落ち着いた。
「カモミールティーだけどどうかな。気分が落ち着くような香りがするし俺は好きなんだ。」
「はい、とてもおいしいです。ありがとうございます。」
私がそう答えると彼は「真理にも気に入ってもらえたみたいで良かったよ」と嬉しそうに微笑んでいた。
「仕事で煮詰まったときとか、なんか眠れないなって時にこれを飲むとすごく心が落ち着くんだ。俺の気にしすぎならいいけど、真理もなんか悩んでそうだったからぜひ飲んでみて欲しかったんだ。」
「そうですか、お気遣いありがとうございます。」
「いいえ、どういたしまして。だけど、何かあたっら遠慮無く言ってね。」
「はい。」
私がうなずくと彼は優しく微笑みかけてくれた。
それから私達はお茶を飲みながら少しの間たわいも無い話をしていた。
今回彼は私のことについてたくさん聞いてくるのかなと思ったが、そうでは無かったので少し拍子抜けしつつ、安心もしていた。
別に私のことを彼が好きでいてくれ無くても良い、ただ嫌いだと思われたくは無い。
もし彼にこのまま優しい言葉で心配され続ければ、彼に甘え、そして自分の黒い心をぶつけてしまうかもしれなかった。
私のこの黒い気持ちに気がつけば、いくら優しい彼でも私のことを嫌ってしまうかもしれない。
そうならなくて本当に良かった。
しばらくそうしていて、お互いお茶を飲み終わりこれで終わりかなと私が思っていると彼が私に向かってゆっくりと口を開いた。
「それで真理、明日・・・いや、時間的にもう今日かな、いつも作ってくれているお弁当を二人分作って欲しいんだけど大丈夫かな?」
「・・・分かりました。」
急な話に驚きつつも私は、彼にそう答えた。
「ありがとう。」
彼は一言そう答えると、いつもの様に優しく微笑んでいた。
なんだか机一つ分の彼との距離がとても遠く感じられた。
「もう、遅いですしそろそろ休みませんか。なんだか、とても眠くなってきてしまって・・・。」
私は力なく微笑みながら彼にそう言った。
「うん、そうだね。長いこと付き合わせちゃってごめんね。」
彼の顔を見ているのがなんだか苦しくなった私は、「お休みなさい」と言うと自分の部屋に逃げ帰るように戻り、ベッドの上で理由を考えていた。
恐らくだけど、あの女の人と一緒に食事でもする予定がありそのための二人分の食事なんだと思う。
ただ、それが当たっているのならなぜ私の作ったお弁当を持って行くのか疑問である。
どうせなら、どこかレストランのようなところに誘った方が相手の人も喜ぶはずで、もし家政婦が作った安ぽっいお弁当では相手も嫌なのでは無いのかと思う。
それに、なぜあのタイミングだったのかも分からなかった。
自分の好きな相手との食事なのだから、もっと前から日程は決まっていたはずである。
それなのに、なぜあんな風に突然思い出した様に言ったのだろうか。
考えれば考えるほどよく分からなくなっていった。
でも私にはあまり関係の無い話であることは間違いなく、これに関しては気にしていても仕方が無い。
朝、彼に言われた通りにお弁当を二つ作り、彼が仕事に出かけたらその時にはもう彼の元を離れよう。
彼に煩わしいと思われるその前に・・・。
きっとそれが良いに決まっているのだから・・・。
ベッドに横になり私はそんなことを考えながらそのまま眠りついた。




