憂鬱
私は台所で夕食の準備をしながらもう何度目になるか分からないため息をついた。
今日、町で二人を見かけてから、ずっとこんな調子だった。
彼は見ず知らずの私に仕事や住む場所を与えてくれる位に優しかった。
それだけで無く、あんなに顔立ちも整っているのなら彼女がいてもおかしいことでは無い。
私はただの家政婦であり、彼の恋人でも何でも無い私がそのようなことをいちいち気にすることでは無いはずである。
頭では分かっている、それなのになぜか、彼が他の女の人と一緒にいるのを見ていると心が苦しくなりどうしようも無くなってしまった。
私は仕に集中することで必死にそのことを忘れようとしていたが、うまくいかず不意に思い出しては、胸が苦しくなり、その度にため息をついていた。
それでも何とか仕事をこなして行き、気がつけば外はすっかり日も傾き、夕食を作る時間になっていたのだった。
包丁がまな板をたたく音だけが大きく響くその部屋で、私は何度目になるのか分からないため息をつきながら、夕食の準備を進めていた。
「ただいま。」
「えっ。」
ぼんやりしながら料理をしていたためか、彼が帰ってきたのに気がついていなかった私は、心の整理がまだできていなかったことと、急に聞こえた彼の声に驚いてしまい振り向くだけで声をうまく出せないでいた。
「ごめんね、なんだか驚かせてしまったみたいだね。」
彼はそう言っていつもの様に笑っていた。
そんな彼に、私は今の暗い気持ちを彼に悟られないよう、必死に笑顔を作りながら答えた。
「あの・・・すみません。少しぼんやりしていたから気がつかなくて、驚いてしまいました。先にお風呂に入りますか、それともお食事にしますか。」
私がそう聞くと彼は少し考えたそぶりをして
「うーんそうだな、お腹がすいたし、先に食事にしようかな。」と答えた。
そして彼は荷物を置きに行くためにいったん自分の部屋に向かっていた。
私はその間に素早く盛りつけを済ませると、料理をテーブルに並べ始めた。
そして料理を並べ終えた私は、着ていたエプロンを脱いで椅子に座って首元のペンダントをいじりながら彼が戻ってくるのを待っていた。
それから少しして彼がやってきて席に着いた。
「待たせてごめんね、それじゃ食べようか。」
「はい。」
こうしていつもの様に食事が始まった、それから少し、食事が進んだ頃、彼が急に「あれ?」と小さな声で呟いた。
どうしたのだろうとそちらを見ると、私は彼と目が合った。
私はどうして良いか分からずとりあえず食事の手を止めると彼を見つめていた。
すると、少し心配そうな顔で「今日、体調悪くないかい?」と突然聞いてきた。
私の気持ちが沈んでいるのが顔に出てしまっていたのか突然彼にそのようなことを聞かれ、少し動揺しながらも、それを表情に出さないように気をつけ必死に微笑みながら返事をした。
「体調はとてもいいですよ。心配ありがとうございます。」
「ふーんそっか。でも、もしつらくなったらすぐに教えてね。」
彼はそう言うと再び食事を始め、それを見た私も止めていた手を再び動かし始めた。
そして私達は黙々と食事を続けた。




