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「冒険という世界②」

初めまして、ご覧いただきありがとうございます!

お楽しみいただければ幸いです。

王都(ムラド)に来さえすれば、すべてが順調に進むと思っていたが、それは自分の思い違いだったようだ。

現実はそう甘くなかった。


『どうすれば、普通の冒険者らしく能力を隠して、周りに溶け込めるだろうか?』


オルマがそんな悩みを抱えている間も、測定担当者の説明は続いていた。


「身体操作能力の測定方法は、王国の騎士見習い選抜試験の方式を採用していますので、かなり信頼性の高い結果が期待できます」


王国の騎士見習い選抜試験を採用しているという担当者の説明に、周囲の人々はそれぞれ驚きや期待をあらわにし、ざわめき始めた。


「さすが王都(ムラド)の冒険者ギルドは格が違うな」

「来年は騎士試験を受けるつもりだから、いい経験になりそうだ」

「俺は今回で三回目だ。等級を上げられなかったら、友人たちに笑いものにされちまう……」


人々のざわめきに我に返ったオルマは、居眠りから目を覚ました学生のように、何事もなかったかのようにきょろきょろと周囲を見回した。


そんな中、ほかの者たちとは違い、淡々と担当者の話に耳を傾けている同い年くらいの女の子が目に留まった。


オルマは彼女の隣へ移動し、遠慮がちに声をかけた。


「あの……ちょっといいですか?」


「?!」


見知らぬ人から突然声をかけられたせいか、彼女は戸惑った様子だった。


「驚かせてごめん。僕はオルマっていうんだ」

「あ……大丈夫です。何かご用でしょうか?」


そう答えたものの、彼女は警戒した目でオルマを見ながら、少しだけ身を引いた。


「いや、別に大したことじゃないんだけど、僕は知らないことが多くて……いろいろ分からないことだらけなんだ。それで、君が目に入ってさ。なんだか何でも知ってそうだし、ずいぶん余裕がありそうに見えたから、それで、なんというか、その……」


しどろもどろになるオルマを見て、彼女は悪意がないことを察した。少しくらい警戒を解いても大丈夫だろうと思った。


街というものに一度も行ったことがなく、生涯を田舎で過ごす人がいるという話は聞いたことがあったが、実際に会うことになるとは思ってもいなかった。


『よく一度で冒険者ギルドまでたどり着けたわね……』


「あ、そうだったんですね。私はセシリアといいます」


ほかの申請者たちが測定を受けている間も、二人の会話は続いた。

オルマはいろいろと気になっていたことを尋ね、彼がよく分かっていないことについては、セシリアが察して説明を補いながら、あれこれと教えてくれた。


彼女は冒険者ギルドのことだけでなく、大陸全般にわたる話や情報にも精通していた。話をしているうちに、いつの間にか彼女の番が近づいていた。


「次は……セシリア……アッシュフォード?!」


彼女の家名が呼ばれると、周囲の人々は一斉に驚きの声を上げた。そんな中、オルマだけは、みんなどうしてそんなに驚いているのだろうと不思議そうにしていた。


「まさか、あのアッシュフォード家のセシリアか」

「すごいな。アッシュフォード家の人間を実際に見られる日が来るとは」


セシリアはこうした状況に慣れているのか、特に気にする様子もなく受け止めていた。自分の家名を聞いても何とも思っていないオルマを見て、むしろセシリアのほうが戸惑ったが、なぜか心が落ち着くような気がした。


『この人、本当に何も知らないのね』


「それでは、私はこれで。私が教えたとおりにすれば、きっとうまくいくと思います」

「うん。いろいろ教えてくれてありがとう、セシリア」

「あ、それから、また会うことがあれば、そのときは気軽にセシルと呼んでくださいね」


セシリアがその場を離れて間もなく、オルマの番がやってきた。

診断項目の中では身体能力の測定が一番心配だったが、セシリアから渡されたアイテムのおかげで、大きな問題にはならないだろうと思っていた。


『王国の騎士見習い選抜試験なら、よく知っています。普通はストーンゴーレムとの戦闘で身体能力を測定するんです。理由は分かりませんが、オルマさんが能力を隠さなければならないのなら、この魔力結晶を持っていってください。使うと、装着者に重力魔法がかかって、体が十倍も重くなるんです』


しかし、測定場に入った瞬間、オルマは何かがおかしいことに気づいた。


「あの……担当者さん、どうしてあんなものがここにあるんですか?」


「ああ、今年から王国では、選抜の精度を高めるために、飼育したハッチリング(まだ成体になっていないドラゴン)を騎士見習い試験に導入したんです。うちのムラド冒険者ギルドも、時代の流れに乗り遅れないよう、いち早く取り入れたというわけです。では、さっそく始めましょう」


『はは……無駄に流行に敏感だな……』


いったいどこの誰が、騎士見習い試験にドラゴンを放つなどという発想をしたのだろう。

呆れてしまったが、とりあえず適度な運動にはなるだろうと考え、オルマは魔力結晶を使用した。


「ん?」


オルマは天井を見上げながら、記憶をたどってみた。

開始の合図とともに、魔力拘束具を外されたハッチリングが自分に向かって突進してきた。そして、思った以上に体が重く、慌てたことを思い出した。


『ハッチリングの一撃で吹っ飛ばされたのか』


少々納得のいかないところはあったが、結果自体は望みどおりになったようなので、不満はなかった。


「お疲れさまでした。ですが、なかなか打たれ強い方でよかったです。最後に死体を片付けるのはごめんですからね。さて、次はマナ操作能力を測定してみましょう。水晶球の前に来てください」


今回は幸いにも、セシリアが教えてくれたとおり、水晶球を使った測定方法だった。


『オルマさん、マナ操作は難しく考える必要はありません。水晶球に手を置いたまま、適当に形を思い浮かべれば、マナの雲が勝手に反応してくれます。集中さえすれば大丈夫ですよ』


今度は問題ないだろうと思いながら、オルマは水晶球の前に立った。


「水晶球を包み込むように、両手のひらを当ててください。そして、どんな形でも構いませんので、頭の中に思い浮かべてみてください。水晶球の中に凝縮されたマナの雲の形によって、等級が測定されます。それでは、始めます」


「ピシッ」


「慌てなくても大丈夫ですよ。古いものは時々こうして不具合を起こすんです。予備の水晶球もありますからね。さあ、こちらへ」


「ピシピシッ」


「今日はどうしてこんなに調子が悪いんでしょう。こちらの最新モデルで試してみますか?」


「ボンッ!」


「……」


三つ目の水晶球が爆発したところで、担当者はそれ以上水晶球を出してくれなくなった。


「……とりあえず、マナ操作能力は測定不能としておきます。後日、魔法アカデミーで相談してみてください。最後に、神力感応度を測定しに行きましょうか……」


『今の時代、神力感応度なんて、ただの形式的な手続きにすぎません。まともに測定できることなんて、ほとんどないんです。二十年前に起きた「神の不在」事件以来、神託の異能がこの地から失われ、教団の勢いもすっかり衰えてしまいましたから。聖具の前でじっと目を閉じていれば、それで終わりですよ』


セシリアの話もあって、オルマは少し安心した。


『まあ……大したことはないだろう』


どこからともなく、目を開けていられないほどの眩い光が降り注いだ。

賑わっていた冒険者ギルドに、一瞬、静寂が訪れる。


集まっていた人々は何事かと周囲を見回した後、まだ光が漏れ続けている適性診断室のほうへと目を向けた。


しばらくすると扉が開き、後光を浴びながら、すっきりとした表情の青年が歩いて出てきた。


その後ろから、目の下のクマが顎まで届きそうな担当者が続いて現れた。何かに取り憑かれたような表情の担当者を見て、好奇心旺盛な冒険者たちは、今にも駆け寄って何があったのか問い詰めそうな勢いだった。


「お……オルマ様。最後の神力感応度の診断まで完了しました。冒険者登録証と診断結果表は、受付でお受け取りいただけます」


そう告げると、担当者は逃げるように適性診断室の中へ戻っていった。

オルマは彼の反応を特に気にすることもなく、受付へ向かった。


「はい、オルマ様。こちらが登録証と診断結果表です。登録料は一シルバーになります」


残りのお金は二シルバーだけになってしまったが、水晶球の代金だと思うことにして、未練なく料金を支払い、登録証と結果表を受け取った。


【職業区分:神官/推薦クラン:なし】

【身体等級:D/魔力等級:測定不能/神力感応度:S】


『うーん……神官か。思ったより悪くないな』


ようやく手に入れた登録証と等級表を眺めていると、受付の職員が不思議そうにオルマを見ていた。


「何か問題でも?」

「あっ! いえ、そういうわけではありません。私、ここで働き始めて五年になりますが、神力感応度がS等級の冒険者様は初めて見たもので。さっきの光も、やっぱりそのせいだったんですね。気を悪くされたのでしたら、申し訳ありません」

「ああ、うちは由緒ある教団に属している家系なので……」


これ以上時間をかけたくなかったオルマは、適当に話を合わせ、急いで外へ出た。


先に用事を済ませたアデルが、オルマを待っていた。


「無事に終わりましたか? どれどれ、適性診断の結果を見せてください」


結果表を受け取ったアデルは、少し不思議そうな顔をした。


「ん? 神官? しかも神力感応度がS級?!」


彼女は突然、両手を恭しく合わせ、軽く頭を下げた。


「定命の者にして、卑しきエルフが、かの高貴なるS級神官様にお目にかかれましたこと、恐悦至極にございます」


なぜか皮肉めいた口調に聞こえたため、オルマはぶっきらぼうに答えた。


「S級神官で申し訳ありませんね」


「気を悪くしたのならごめんなさい。でも、神官が神託の異能を発揮できなくなった今では、神殿を案内する羅針盤のような存在なんです。いっそ地図を持ち歩いたほうがましだとまで言われていますからね」


容赦のない彼女の言葉に、普段は何事にも動じないオルマも、少しずつ疲れを感じ始めていた。


「いくら神力感応度がS級だったとしても、どうして神官が推薦されたんでしょうか。さっき見せてもらった動きなら、聖騎士か、せめてクレリック(戦闘神官)であるべきでしょうに……。どうして神官ごときが……!?」


オルマの反応をうかがっていたアデルは、気まずくなったのか、それ以上は何も言わなかった。


「こほん。とにかく、要するに神官は人気のある職業ではないということです」

「そこまでなんですか。とにかく何かしてお金を稼がないといけないのに……もう手持ちがほとんどないんですよね」


心配そうな様子のオルマに、アデルは思いがけない提案をした。


「それなら、私たちのパーティーに入りませんか? 昼間助けてもらったお礼も兼ねて」

「羅針盤が必要なんですか?」

「へへっ、気を悪くしたのならごめんなさい。今のはただの冗談ですよ。それに、私はあなたの実力をこの目で見ていますからね。これほどの実力者を逃すわけにはいきません」


短い時間ではあったが、一緒に過ごしてみて、彼女は人をリラックスさせるタイプなのだと分かった。もちろん、少しおしゃべりではあったが、それでも退屈することはなさそうだった。


「それでは、まず契約書を交わしましょうか」


彼女が虚空に向かって何度か手を振ると、どこからともなく巻物と羽根ペンがオルマの目の前に現れた。

ブルームのおじさんがよく口にしていた「手は目よりも速い」という言葉を信じていなかったオルマだったが、実際に目にした彼女の手さばきは、信じられないほど見事なものだった。


「手さばきが見事ですね」

「エルフにとって、この程度は基本的な心得ですよ。誰にも気づかれずに物を出し入れするなんて、朝飯前ですから」


まるで盗賊が口にしそうな言葉を聞いた気がしたオルマに、アデルは羽根ペンを握らせ、先を促した。


「さあさあ、こちらに名前と拇印を……よし。これでおしまい!」


「これからパーティーメンバーに会いに行くんですか? パーティーは何人くらいいるんですか?」


仲間に会えると思って浮き立つ気持ちのまま尋ねたオルマだったが、アデルは少し困ったような様子を見せた。


「うちのパーティーでは、能力を重視して人材を採用しているんだ」


何となく、急に言葉遣いが変わったような気がした。


「アデルさん、ついさっきまでお互いに敬語を使っていませんでしたか?」


「もう同じパーティーの仲間なんだから、いいじゃない。いつまでも堅苦しく敬語を使うわけにもいかないでしょ。それはそうと、これから宿に行こうと思うんだけど、もう少し見て回りたい?」


何となく話をそらされているような気がして、オルマはもう一度尋ねた。


「それで、僕は何人目のメンバーなんですか?」


「うーん……ええと、そうね……二人目かな」


彼女は目をそらしながら答えた。


「脱退したいのですが」


彼女は意味ありげな笑みを浮かべ、何も言わずに契約書を差し出した。

彼女が指で示した箇所を読んでいるうちに、オルマの表情は次第に険しくなっていった。


契約書には、パーティー活動によって利益が生じた場合は違約金を支払わなければならず、それ以外の理由で契約を解除するには、協会の審査を受けなければならないと記されていた。場合によっては、冒険者資格まで剥奪される可能性があるという内容だった。


契約内容をきちんと理解したうえで脱退を申し出るのではないかと心配していたアデルは、次第に険しくなっていくオルマの表情を見て、ひとまず危機を乗り越えたと感じた。


『今どき珍しい、純粋な子だね』


「これからよろしくね」


「さ……詐欺師だったのか」


「詐欺師だなんて、ひどいなあ。ただパーティーメンバーを探して歩き回っている、哀れなエルフなだけだよ。ああ、それに盗賊どもがいるクランにまで嫌がらせを受けているんだ。君もさっき見ただろう? それに、人間のパーティーに入れば使い捨てにされることなんて日常茶飯事だからね。だから仕方なく、自分の足で探し回っているんだよ」


まるで自分こそ被害者だと言わんばかりの態度に、オルマは呆れてしまった。


「僕はそんなつもりじゃなかったんですけど……」


オルマの不満げな声に、アデルは慰めるように言った。


「分かってる、分かってる。悪いのは全部この世の中なんだよ。私たちはただの善良な被害者なんだから」


誰でも簡単に信じてはいけないというブルーム爺さんの言葉は、決して無駄な小言ではなかったのだと、オルマは今さらながら思い知った。


そのとき、彼の背後から聞き覚えのある声がした。


「オルマさん、何かお困りですか?」


ほんの少しの間に、見違えるほどやつれたオルマをよく見つけられたものだ。彼に気づいたのはセシリアだった。


アデルが見知らぬ人物だったからだろうか。それともエルフだったからだろうか。理由は分からないが、セシリアは彼女と少し距離を置いたまま、手に持った契約書に目を落とした。


「オルマさんとは、どういうご関係なんですか? それに、それは何の契約書ですか?」


「へえ、もう彼女ができたのか。見かけによらず、やるじゃないか」


「……」


戸惑って言葉を失ったセシリアに代わり、まだ契約の衝撃が抜けきらないオルマが口を開いた。


「とりあえず、こちらがパーティーリーダーのアデルさんだよ……アデルさん、こちらは冒険者ギルドで知り合ったセシリア。いろいろと助言してくれた、大切な『友人』なんだ」


「やあ、アデル・シュティラーウィントだよ。さっきのは冗談だって分かってるよね?」


「こんにちは。初対面なのに失礼いたしました。オルマさんが困っているのかと思い、つい……。アッシュフォードのセシリアと申します」


「ア、アッシュフォード!!! オルマ、お前、実はすごい奴だったんだな!」


アデルがなぜここまで興奮しているのか、オルマにはまったく見当もつかなかった。

どこか具合でも悪いのではないかと心配するオルマとは対照的に、アデルはますます興奮していった。


「アッシュフォード家だって!? あのアッシュフォード家だぞ!」


『はあ……今度は何だよ。どこかに耳栓でもないかな……』


「さてさて、ご覧あれ~! 王国三大名家の一つ、アッシュフォード家! 魔法使いなら誰もが目指すものの、誰もが到達できるわけではない境地、九サークルの大魔導師を三人も輩出した、まさに魔法界の貴族! さらに、アッシュフォード家が運営する魔法アカデミーは、ムラド王国のみならず、他大陸の貴族たちまでもが入学を希望して列をなす、名門中の名門だったのである! 現当主ジョセフ・アッシュフォードには、たいそう大切に育てられた一人娘がいた……。人々いわく、『マナの祝福を受けし者』、『史上最年少の九サークル大魔導師』、さらには『伝説の魔法使いマーリンの生まれ変わり』とまで呼ばれる彼女!

その名も、セ~シリア・アッシュ~フォ~ド!!! だったのであった!」


自分の耳からは、きっと血が流れているに違いない。オルマはそう確信していた。

自分に代わって自慢話を並べ立てるアデルのせいで、セシリアの顔は熟れたトマトのように真っ赤になっていた。それでも、彼女はどうにか口を開いた。


「そ……それはただの噂です。大げさに言われているだけなんですから」


「はいはい。謙虚さも貴族のたしなみってわけね。このエルフのお姉さんは、ちゃんと分かってるわよ」


セシリアは一度大きく息を整えると、落ち着いた口調で話を続けた。


「そんなことはどうでもいいんです。それよりオルマさん、この契約書のことはあまり気にしないでください」


「でも、脱退するには正当な理由が必要みたいですけど……」


「こうした契約解除の理由は、冒険者同士の間だけでなく、協会でも暗黙の了解となっているものです。オルマさんにきちんと説明もせず、契約書だけを差し出したんですね?」


セシリアの理屈に少し押され気味だったアデルだが、すぐに反論した。


「あら、なかなか気の強いお嬢さんね。まあ、いいわ。脱退したいというなら仕方ないわね。違約金さえ払ってくれれば、私もきっぱり手を引いてあげるわ」


「パーティーに入ったばかりなのに、オルマさんが何か利益を得たというんですか? それなのに違約金を請求するなんて、筋が通らないんじゃないですか?」


「へへん、それはリュックを開けてみれば分かるわよ。ほら、早く開けてみなさいよ、オルマ君」


何が何だか分からず、ぽかんとしていたオルマだったが、ふとリュックがずっしりと重くなっていることに気づいた。まさかと思い、中を確かめてみると、見覚えのない金貨の山が入っていた。


「パーティー加入祝いとして、とっくに三百ゴールドを渡してあるんだ。違約金としてその三倍、九百ゴールドを払ってくれるなら、契約書なんてきれいさっぱり燃やしてあげるよ」


「す、すみません、オルマさん。私も今は五百ゴールドしか持っていなくて……」


「はは……二人とも、ちょっと黙っていてくれませんか……。なんだか急に悲しくなってきました」


これが悪魔の誘惑というものなのだろうか。

目の前に三百ゴールド……。ついさっきまで一シルバーのことで頭を悩ませていた自分が、ひどく惨めに思えてきた。


それに、今日初めて会った相手に三百ゴールドもの大金を平然と渡す彼女のことが、オルマにはどうにも怪しく思えた。


「アデルさん、どうしてここまでしてくれるんですか?」


「どうやら君こそ、私が探していた人みたいなんだよね。運命ってやつかな」


隣で見ていたセシリアは、運命だなんてとんでもないことを言うアデルに、呆れたような表情を浮かべていた。けれど、いつの間にかアデルとの距離は最初よりも縮まっており、アデルもそれに気づいたようだった。


「セシル、そんなこと言わずに、君も私たちと一緒に来ない? 見たところ、君も私たちと同類みたいだし」


「ふん、セシルと呼んでほしいなんて言った覚えはないんですけど。私もそれなら、お姉さんって呼ばせてもらいますね」


「好きに呼んでいいよ。お姉さんって呼ばれるのも悪くないしね」


あれほどの人懐っこさなら、適性等級でいえばS級も軽く超えているだろう。オルマはそう断言できた。しかし、いつまでも冒険者ギルドの前で言い争っているわけにはいかなかった。すでに何人かが見物でもするようにこちらをうかがっており、そろそろこの場を離れたくなっていた。


「あの……見ている人も多いですし、とりあえず場所を移しませんか。それと、心配しないでください。別に脱退するつもりはありませんから」


「あ、そうなの? じゃあ、最初から一ゴールドだけ渡しておけばよかったね」


「アデルお姉さん……」


「残りは返してくれてもいいからね。分かった?」


「……」

ここまで読んでいただきありがとうございました!

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