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弔い

翌朝、オウルは治療室を出た。


まだ足には力が戻っておらず、車輪のついた椅子に座っている。レーアが後ろから押し、湊とクロは少し離れて続いた。


王宮の下層へ降りるにつれ、薬草の匂いが薄れていく。冷えた石の空気に、香木の甘い匂いが混じっていた。


レーアの手が、椅子の取っ手を握り直す。


「無理はしないでくださいね」


「今日を逃したくないんです」


オウルは前を向いたまま答えた。


エイラとダリウスは調査を終え、この日のうちに王宮を出る。


それ以上、レーアは何も言わなかった。



安置室には、二つの寝台が並んでいた。


白い布は胸元まで掛けられ、壁際には割れた盾と、細い枝を模した銀の髪飾りが置かれている。香木の煙が細く立ち上り、石の天井へ消えていった。


入口で、オウルの椅子が止まった。


レーアが押そうとすると、オウルは小さく首を振る。


「ここからは、自分で」


右手を車輪へかけた。指が震え、少し進んでは止まる。


それでも、一人で二つの寝台の前まで進んだ。


最初に見たのは、ダリウスだった。


「いつも、僕より先に歩いていました」


視線が壁際の盾へ移る。


「危険のない場所でも。僕が笑うと、何がおかしいのか分からない顔をして」


息が一度、喉につかえた。


「最後まで、同じだった」


次に、エイラを見る。


銀の髪飾りへ手を伸ばしかけ、触れずに戻した。


「袖を掴まれた感触が、まだ残っています」


爆発の後も離れなかった指を、湊も覚えている。


オウルは自分の袖を見た。指先が布をつまみ、すぐに離す。


何も言わず、二人の顔を見ていた。


クロも口を挟まなかった。



しばらくして、オウルが湊へ顔を向けた。


「湊さんは、ずっと見ていたんですね」


非常避難路へ印を刻んだ時も、十二人を外へ運んだ夜も。


「はい」


「それでも、あの場まで待った」


湊は二つの寝台を見る。


「牢を見つけた夜、すぐ連れ出したかったです」


オウルの目がわずかに動く。


「でも、動けば十二人を別の場所へ移されるかもしれなかった。俺一人では決められなくて、みんなで待ちました」


あの夜の湿った空気が、まだ鼻の奥に残っている。扉の向こうに十二人がいると知りながら、背を向けた。


「正しい判断だったんでしょうね」


オウルが呟く。


湊は首を振った。


「今も分かりません」


「十二人は助かった」


「はい」


オウルの視線が、エイラとダリウスへ戻る。


「二人は死んだ」


返す言葉はなかった。


長い沈黙のあと、オウルが小さく息を吐く。


「湊さんは、優しくありませんね」


「そうかもしれません」


肩のクロの尾が、首筋へ軽く当たった。


オウルの口元がわずかに緩む。


ほんの少しだった。


「戻りましょう、姉上」


レーアが椅子の後ろへ回る。


安置室を出る直前、オウルは一度だけ振り返った。


「ごめん」


香木の煙だけが、静かに揺れていた。



夕刻、二つの棺が王宮から運び出された。


大きな式はなかった。道の脇には王宮の者たちが並び、棺が通るたびに黙って頭を下げていく。


湊は治療室の後ろに立ち、窓の外を見ていた。


オウルは椅子に座っている。隣にレーア、少し離れてリーネとフェルナンド、国王もいた。


誰も話さない。


車輪の音も、足音も、窓を隔てるとひどく遠い。二つの棺は木々の間へ進み、やがて見えなくなった。


オウルの右手が窓枠へ置かれる。


手首の封印が淡く光った。


リーネが一歩だけ近づいたが、声はかけなかった。


しばらくして、オウルが手を下ろす。


「姉上。少し、疲れました」


「戻りましょう」


レーアが椅子を寝台へ寄せる。


オウルは支えられて横になった。毛布が胸元まで掛けられると、目を閉じる。


「おやすみなさい」


「ええ」


レーアは椅子へ座った。


リーネも扉のそばに残る。フェルナンドと国王も、しばらく動かなかった。


湊はクロを肩に乗せたまま、治療室を出た。



廊下へ出ても、香木の匂いが服に残っていた。


湊は歩きながら、一度だけ振り返った。閉じた扉の向こうに、オウルと家族がいる。


安置室で見た小さな笑みが、なぜか引っかかっていた。


クロも何も言わない。


窓の外では、夕暮れの世界樹が風に鳴っていた。


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