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夜明け

リーネが戻ってきた。


その腕にはエイラが抱かれていた。少し遅れて、二人の兵がダリウスを運んでくる。割れた盾も一緒だった。


二人の体が布の上へ並べられる。


治療担当が脈を確かめ、首を振った。


分かっていた。それでも、リーネは目を逸らさなかった。


エイラの指は固く曲がり、最後までオウルの袖を掴んでいた形のままだった。ダリウスの腕にも、盾の革紐が深く食い込んでいる。


「二人とも、オウルさんを守った」


湊が言うと、リーネは短く頷いた。


「うん」


兵が二人へ白い布をかける。夜風に端が小さく揺れた。



爆発した岩場の捜索は、夜のうちに続けられた。


外部班が持っていた半分の通行標。オウルが持っていたもう半分。砕けた魔道具や武器の残骸も、一つずつ箱へ収められていく。


湊は並べられた二枚の札を見た。


切断面はぴたりと合っている。あの場で重ねられた時と同じ形だった。


クロが隣の箱へ前足をかける。


「向こうは、最初からオウルたちを待っていたわけだ」


「ああ」


「だが、誰の命令で来たのかまでは残らなかったな」


爆心に近かった六人は、生きて捕らえられなかった。


湊の視線が別の箱へ移る。


中には、煤にまみれた黒い破片が入っていた。爆ぜる直前、中央の男の胸元で光っていた物の一部らしい。


クロが鼻先を寄せ、金色の目を細める。


「触るな」


湊は伸ばしかけた手を止めた。


クロは破片の周囲をゆっくり回った。表面に残った細い溝を追い、しばらく黙る。


「魔力を内側で崩して、一気に外へ吐き出す術式だな」


「自爆用?」


「そう見える。起動すれば、持ち主ごと周囲を巻き込む」


クロが尾を一度振った。


「記録するなら……《魔力崩壊核》とでも呼ぶか」


湊は黒い破片を見る。


「仮の名前?」


「ああ。作った連中が何と呼んでいるかは知らん」


箱の蓋が閉じられた。


対になった通行標と、爆発した黒い魔道具。秘匿牢も、十二人の記録も残っている。


まだ繋がっていない場所はある。


けれど、消えずに残ったものもあった。


クロの足元がふらついた。


湊はすぐ両手で抱き上げる。


「寝た方がいい」


「まだ見る物がある」


「ここから見ればいいだろ」


外套の内側へ入れると、黒い頭だけが胸元から出た。


クロが耳を伏せる。


「……子供扱いするな」


「してないよ」


そう答えると、クロは鼻を鳴らした。出ようとはしなかった。



夜は長かった。


十二人には毛布がかけられ、治療担当が絶えず行き来していた。水を含ませ、呼吸と脈を確かめる。意識を取り戻した者もいたが、ここが安全だとだけ伝え、事情は聞かずに休ませた。


オウルは眠ったままだった。


時折、眉が寄る。何かから逃げるように指が動くたび、リーネが寝台の横へ座った。


触れはしない。


ただ、そこにいた。


シロは十二人のそばを離れず、大きな体を丸めて冷たい風を遮っている。アカはその背に乗り、炎を小さく灯していた。


――あさ、まだ?


――もう少しだ。


――みんな、かえる?


湊は暗い森を見る。


――帰る。



東の空が薄くなった。


黒かった木々の輪郭が少しずつ青へ変わる。地面の下から低い震えが伝わり、世界樹の葉が一斉に鳴った。


一夜にわたり国を閉じていた力が、根へ戻っていく。


透明な壁がゆっくりとほどけ、張り詰めていた空気が緩んだ。同時に森の光が弱まり、枝先から何枚か葉が落ちる。


妖精族の長が告げていた代償だった。


リーネが立ち上がる。


「道が戻った」


兵たちが十二人の寝台を持ち上げた。オウルも別の寝台へ移され、その後ろには白い布をかけられたエイラとダリウスが続く。


列は静かに森へ入った。



国境の内側で、国王たちが待っていた。


フェルナンドとレーア。妖精族の長。その後ろには兵と治療担当が控えている。


レーアが駆け寄った。


最初に十二人の寝台を一つずつ見て、顔を確かめていく。


「全員ですか」


「はい」


湊が答えた。


「十二人全員、生きています」


レーアが長く息を吐いた。両手で口元を覆い、すぐに顔を上げる。


「治療棟へ。家族には、生存したことを先に伝えてください。事情を聞くのは、体が戻ってからです」


フェルナンドが続けて指示を出し、十二人の寝台が王宮へ運ばれていく。


レーアは最後までそれを見送った。


そのあとで、オウルの寝台へ近づく。


足が途中で止まった。


オウルの顔は白く、首筋には薄い黒い筋が残っている。


レーアは震える指を伸ばし、そっと手へ触れた。


「温かい……」


国王は何も言わず、眠るオウルを見つめていた。


やがて視線が後ろへ移る。


二つの白い布。


「エイラと、ダリウスか」


「はい」


リーネが答えた。


「二人がオウル兄さまを守った」


国王の目が閉じられた。


しばらく沈黙が落ちる。


「二人も王宮へ」


低い声だった。


「行ったことも、最後にしたことも、調べる。どちらも消してはならない」


フェルナンドが頷く。


「承知しました」



オウルの寝台が動き始めた、その時だった。


瞼がわずかに開く。


「……姉上」


レーアがすぐ身を屈めた。


「ここにいます」


オウルの目がゆっくり周囲を探る。


国王。フェルナンド。リーネ。湊。


そして、その後ろに続く二つの白い布。


紫の瞳が揺れた。


「十二人は」


「全員、生きています」


レーアが答える。


オウルは目を閉じた。


頬を一筋だけ涙が流れる。


「父上」


国王が寝台の横へ立つ。


「聞いている」


「僕は……」


声が途切れた。


オウルは浅く息を整え、もう一度目を開いた。


「全部、話します」


国王はすぐには答えなかった。


しばらくオウルの顔を見下ろし、やがて短く言う。


「まず生きろ」


オウルの瞳が揺れる。


「話すのは、その後だ」


瞼が閉じる。


寝台は再び王宮へ向かって動き出した。


朝の光が、弱った森へ差し込んでいた。葉の間を抜けた淡い光が、静かに列を照らしていた。


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