8話「花見」
8話「花見」
桜の咲く季節になり、私たちは無事進級することになった。
夜湖くんは見事戸山に受かった。
約束通り花見を企画したのだけれど、夜湖くんはびっくりしていた。
私の花見は単なる社交辞令だと思っていたみたいで、三月の最後の休日に、ありえん混んでる代々木公園で、ゴザを敷いて桜を見た。
「明治神宮の鳥居の前待ち合わせね」
十一時に集まった我々は、思い思いにご飯を持ち寄り、一本桜の下で花見をした。
桜並木はもう人でいっぱいで、私は昔、塾の友達と桜を見に行った時に、並木ではなく一本桜の下で御重を正味したことを覚えていた。
それは確か小学六年生のこと。その子は今何をしているのか知らないけど、可愛い顔の男の子だった。
私が買ったのはタピオカで、人数分、四人分買ってきた。
糸葉ちゃんはおにぎりを握ってきた。
具材はいろいろで、お腹が膨れそう。
迅はトランプを忍ばせてきたらしく、ご飯も程々に、私たちは大富豪をした。
今日の主役の夜湖くんは、トートバッグいっぱいにお菓子を買ってきてくれた。
「頑張ったね」
私は夜湖くんに微笑みかけた。微笑みかけたと言っても、私には微笑んだという意識はなかったけど、夜湖くんはとっても可愛い顔で「ありがとうございます」と言った。
「お姉ちゃん的にはどう? 糸葉ちゃん」
「すごすぎてちょっとわからないですね。でもそこにさらっといる、公佳さんもすごいですけど」
「私は底辺だから」
「あれ、お母さんが底辺脱出したって言ってたけど」
迅が挟んできた。
「恩人がいるの」
「恩人?」
「テスト勉強のやり方を教えてくれた恩人が戸山にいるの」
「公佳姉は、徳ポイント結構貯めてるからな」
「わかります!」
糸葉ちゃんの同意がとても嬉しい。
「京都どうだった? 仙兄元気そうだった?」
迅は、家では絶対に聞かない質問を、この場でした。
「うん。まあ、そうね。仙くんはいいお兄ちゃんだよね」
「自慢の妹だもんね」
「写真ないんですか?」
「ええー、あるけどさあ」
「見せてくださいよー」
糸葉ちゃんが私の肩を指でついた。
京都でどさくさに紛れて兄を画角に入れた写真を見せた。
連写したから、最初仏頂面だったけど、最後には写真写りの良さを誇るが如く、いい顔で写ってくれた。
「かっこいいー」
糸葉ちゃんの女子的な声に、弟の夜湖くんは全く表情を動かさず、迅くんは少し不満そうだった。
「すごいなあ。頭もいいんですもんね」
「ずっと仏頂面だけどね」
私は、それからクラウドに上げた、昔の写真を漁った。
男の子は男の子で話している。
私は大富豪で無双しているはずだった。
ほとんど大富豪をやったことがない糸葉ちゃんがずっと大富豪。
全然都落ちしないのは「やったことないんです〜」というブラフをかまして、玄人ムーブだから。そこをつくと「でも、大事なカードを残せばいいんですよね」と、基本戦略だけは十全に理解しているみたいで、かなりムカつく。
イラついているのは夜湖くんも一緒のようで、たぶん夜湖くんは私と同じくらい大富豪に精通している。今回簡単のためにジョーカーを抜きで、ローカルルールも少なめでやっているから、運ゲーになっている。
陽も傾き始めたので、ゴザを巻いて、撤収する。
「うち来る?」
私は宮鬼の二人を誘った。
「いいんですか?」
「もちろん」
私たちは原宿から駒込まで山手線で移動した。
桜の花弁がとても綺麗に飛び舞うのが見えた。
一体どこの桜だろう。




