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大嫌いな後輩女に脅されて付き合うフリをするハメになった話  作者: 鳩見紫音
傘折密季は私の心を

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回想2「友達は終わり」

 6月の初旬。


 私は傘折を別棟3階女子トイレに連れ込み、友人関係の終わりを一方的に告げた。


「なんで……瀬波先輩……?」


 やっと終わる。


 胸糞悪いあの男。その娘との友人関係が。


 仲の良さを周りにも見せつけて、傘折も「初めての友達と過ごす学校生活が楽しい」と言っていた。


 ————頃合いだった。


「友達は終わり。友達になる気なんて最初からなかったし」

「えっ、だから何を……」


「うるさいなぁ……っ!」


 そう言って私は彼女の胸ぐらを掴んで、トイレのドアに彼女を投げるように突き飛ばした。


「ぐっ!」


 バンっ! という音と、彼女が呻く音に胸がスッキリする。

 苦しそうな表情も見たかった。


 絶望したその表情を見るために私はこいつを甘やかして、友達のフリをして、明るい関係を築いた。


 その後の影が暗く見えるように。


「痛い……」

「痛い? 私の心はもっと痛いし苦しかった。全部お前の父親のせいだ」


「お父さん……?」

「傘折密季、お前の父親は銀行員なんでしょ? 私のお父さんの工場はお前の父親に経営の相談をして裏切られた……あいつのせいで……! お父さんは自殺した!」


 その場に座り込んで目をパチクリさせる傘折。


 心当たりがないと言ったことを目で訴えかけている。


 それがまた私の逆鱗に触れる。

 ネクタイを掴みグッと持ち上げて彼女の顔を上から覗き込んで睨みつける。


「私は関係ないって? そうだよね。関係ないよ確かに。でもお前は……! お前の父親が人を騙して! 裏切って稼いだ金で暮らしてる!」


 誰かに聞かれるリスクを忘れて大きな声を上げながら、背中を打ってしゃがみ込む彼女の肩を私は蹴った。


 顔はダメだ。アザになった時にバレる。


 だから体を攻撃した。


「うぐっ、そ、それは……」

「反論すんなよ!」


「痛……っ!」


 顔を歪める。

 綺麗な顔が台無しだね。


 いっぱい褒められたんだろうな。あいつに。


 丁寧な言葉を教わって、綺麗に髪を整えて……。

 友達として一緒にいる時、その育ちの良さを感じさせるのが何よりも不快だった。


 けどね、ペタペタついてきて友達だと思ってくれて嬉しかったよ。

 楽に復讐計画が進んだんだから。


 今の気分はどう? 友達かと思っていたら友達じゃなかったんだ。


 由希にも香織にも近づかせなかった。傘折には「私たち親友だから他の子はいらないよね」なんて言って私以外の関係を断たせた。


 正直間抜けで友情に飢えてるやつで助かった。

 傘折は忠実に守って、私のことを親友だと思ったらしい。


 それでこの顔だ。


 飲んだことはないけれどお酒がすすむ景色ってのはこういう景色だろう。


 縋り付くまで頼み込んだのに足蹴りにするようにしてどこかへ消えた傘折の父親。


 そのやり返しだ。


 でも傷つくのは父親じゃない。娘の方だ。

 どんなに会社や取引相手を金や木偶人形のように思っても、その裏には家族がいる。


 お前も同じだろ。

 傘折密季という愛娘はお前が破滅させた家族に殺されるんだ。


 父親は首を吊り、それで母親は精神を病んだ。


 受け入れてくれた親戚も母親で手一杯で、私は必死に迷惑をかけないように生き続けた。


 お前の家はどうなるかな。

 このまま傘折密季も自殺に追い込んでやる。

 どんなに大切だと言ったって、私が無価値な存在にしてやる。


「いい? 今日はこれくらいにしとくけど、明日からも今までと同じように振る舞ってね。もし今日のことをバラそうとしたら、お前の父親の悪事を全部ネットに書き込んでやる」


 そうやって強く脅しつけてその日は終わらせた。


 彼女を苦しめることがあの男を苦しめることになる。そう思って私は傘折密季をいじめた。


 唯一の親友のフリをしながら。


 最初にいいと思ったものは悪く見ることが出来ないものだ。


 暴力を振るってからも彼女は最初に親友になった私のことを、生活指導の教師に突き出すこともなかった。


 親友関係も疑われることすらもなく、カモフラージュも完璧。


 元々傘折は暗かったし、その影がちょっと暗くなろうが気付くやつなんていなかったのだ。


 そうしてイライラした気分を晴らすように暴力を振るった。


 色んなことを命令して、上手く行こうが行かなかろうがサンドバッグみたいにボコボコに。


 彼女は律儀に理不尽に付き合ったけど当たり前。

 しなきゃあいつの父親は終わりだと伝えてる。


 悪行をバラしてやると強めに脅してる。従うしかないんだ。


 決定的な証拠がなくても今の時代に悲しみの解像度の高い話題というのは、真偽関わらず拡散される。


 ただあの父親は銀行員としてそんな恨み言にも慣れていそうだから、悪行をばらすのは最終手段。


 娘を徹底に追い込んだとしても、彼女がこの世から退場する気配がない時の最終手段だ。


 だからとにかく娘を追い込む。


 そうやって私は彼女を精神的にも肉体的にも痛ぶり続けた。


 傘折と体裁のために『友達のフリ』は続けていたが、その裏ではずっとそうしていた。


 傘折をそして裏切った晩、ふと原点の怒りが蘇る。

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