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あの後、傘折は気に入ったのか何度か普通のモードで勝負した。
手を抜くと分かるみたいで怒ったから正面からボコボコにした。
それでも楽しそうにしている姿を見てまぁいいかなんて思うものの、少し理解しがたい。
改めて考えても、いじめっ子といじめられっ子がゲーセンで遊ぶなんて異様な光景だ。
ただそれでも、彼女は満足そうに笑っていた。
「腕組んで帰りたいです」
ゲーセンを出た瞬間にそんなことを言われる。
私はつい顔に力が入った。
やっぱり傘折は嫌いだ。
暴力を振るわれ首を絞められても、その相手にニコニコとしている。
嫌悪感もあるが、理解できない存在としての恐怖みたいなものが大きい。
「……嫌だ」
「ゲーム代払ってたのに?」
「やりたいって言ったのは傘折じゃん」
「嫌々付き合ってたんですか?」
「……」
楽しかった。嫌々なんかじゃない。
だから、もう、仕方ない。
傘折が男じゃないだけかマシかと自分に言い聞かせて右腕を差し出した。
「やった! 燕ちゃん好きです!」
腕を絡めてしがみつく。マジで意味わかんない。
本気で頭がおかしいんじゃないかと思えてくる。
ギュッと抱きつく力で腕をへし折られることを覚悟するほどに、傘折から自分への好意の内側が見えてこない。
何が目的なんだ。
「駅までだからね」
「うん、それでいい」
駅までだと距離も短いしする必要ないじゃん。
そんな文句を心で言いながら、腕への力がいつ強くなるのかと警戒しながら歩く。
まぁ少しだから逆にいいか、ゲームのプレイ料金を払ってくれたお礼みたいなものだ。
そう思っていたが
「あーーーっ! 燕じゃん! ねぇ香織! 見て見て! 本当にデートしてる!」
「えっ? ……わお。熱いわね2人とも」
状況は最悪へと変化していく。
忘れてた。駅までってなると同じ学校の生徒に見られるじゃん。
「由希、香織……っ!」
「2人で腕組んじゃってー! ラブラブじゃん」
由希、頼むからやめて。
腕にしがみついてうっとりしてるこの女が嬉しそうにしてる。
ぞわりと背中に虫が走るような緊張が全身に走る。
「愛し合っているのね」
どこのものか分からないドリンクをストローでズズッと吸って香織までそう言う。
私は興味ありませんみたいな顔をしてるくせに、何かを言わせようとしてるのが分かる。
だからこそ返答に困る。
「あぁ……いやこれは……」
「……燕ちゃんがす、好きですから」
オドオドしながらも主張する傘折に、由希は目を丸くし香織の後ろに回ってその小さい両肩を掴んだ。
「うわぁ~香織、邪魔しちゃ悪いから早く行こっ」
「そうね。おじゃましたら悪いわね」
そう言い残して2人はそそくさと手だけ振って行ってしまった。
見られた……。
いやここまでにも多分同じ学校の生徒には見られただろうけど、知り合いに見られるとなると話が変わる。
どんどん外堀を埋められているような恐怖が今更やってきた
「これ、いつまで続ける気なの」
2人の背中を見送って傘折に話しかける。
いまだに腕を離す気はないみたいだ。
「駅まで、ですよね?」
「そうじゃなくて、恋人のフリ」
偽装カップルの期限はいつまでなのか、強く言葉に力を込めた。
「……いつまでも。私にとっては本当の恋人と同じだから、燕ちゃん次第です」
「はぁ? ……チっ」
舌打ちで吐き捨てる。
なんなんだ。
やっぱりこいつはおかしい。
これは私のせいなのか。
もしかしたら私のせいで精神がぶっ壊れているのかもしれない。
私はそんな不気味な傘折密季に嫌悪と疑いと恐怖みたいなものを混ぜた心の内を、こぼさないようにして駅まで向かった。
「これはパフォーマンスだから、私はあんたが嫌い。付き合うとかありえないから」
改めてそう言葉にする。
ただ傘折は怯まずに、眩しすぎるくらいキラキラとして視線をこちらに向けていた。
「それでいいですよ。私が満足するまで付き合ってください」
「いつまでなのそれ……」
息に呆れを混ぜて吐き出す。
正直、これからも付き合いきれる気がしない。
これがいつまで続くんだろうか。




