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大嫌いな後輩女に脅されて付き合うフリをするハメになった話  作者: 鳩見紫音
私は傘折密季が嫌い

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4

 透明な自動ドアで仕切られているだけなのに、中に入ると別世界が広がっている。


 ピコピコ、ピカピカ、とても刺激的。


 あちこちの筐体から大きな音が鳴り、室内を筐体から発せられる光と照明が照らしている。


 こういう耳や目が悪くなりそうな空間は心地いい。


 そんなゲーセンの持つエレクトリックな世界観に彼女は照らされている。


「燕ちゃん……ゲーセンって凄いですね。音とか色々」


 彼女は首を回して眺めた後、入口でその様子を眺めていたこちらへ振り返った。


 目が死んでる。


「……そうだね、うるさいから出よう」

「い、いえ! 出ないです。なんか遊びましょう」


 腕をグイと引っ張って、出ていく私を制止する。


「……なんかって、何するの」

「分からないから燕ちゃん教えてください」


 教えてって言われても困る。


 ただ自分から入っておいて死にそうな顔をしているのが少し面白くて、もう少し見てやろうと思ってUFOキャッチャーのコーナーを抜けて黙って奥に進む。


 ゲームセンター、割高だけど無料のスマホゲームよりも刺激的なゲームがいっぱいある。


 音ゲー、レースゲー、格ゲー、バスケットボールをひたすら入れるやつ。


 分かりやすいのはいっぱいあるけど、どれもゲームに慣れてないとコスパが悪い。

 別に無駄金を使わせてもいいんだけど、下手くそを見ても面白いものじゃない。


 そんなことを考えてゲーセンの景色をぐるりと眺めると後ろからぐいと手を引かれた。


「……なに?」

「あれはなんですか?」


「あれ……? あぁホッケー」


 傘折が指を差していた方向にあったのはエアホッケーだ。


「ホッケーって外でやるスポーツじゃないんですか?」


「エアホッケーも知らないの?」


 分かりません。そう言わんばかりに彼女は首を傾けた。

 どっちかって言うと外のホッケーのがマイナーでしょ。


「それ2人で出来ますか?」

「まぁ2人以上でやるものだし」

「そうなんですね。じゃあアレやってみたいです」


 そう言われ、エアホッケーの元まで共に歩く。

 音ゲーとかがサイバーチックに大きくデジタルに進化していく中で、これはどこかアナログな雰囲気を醸し出している。


 小学生でも大人でも感覚的に遊べるホッケーゲーム。


「凄いな」


 結構綺麗だけど、近くで見ると他の最新ゲームに比べると少し古臭かった。

 とはいえ別にオンボロってわけではない。


 得点表示の電光掲示板も空気が吹き出す穴も、緻密な最新ゲームからは感じられない”良さ”がある。


「これをどうするんですか……これは……?」


 傘折は筐体をマジマジと眺めて、パックを打ちこむためのマレットを握ったり空気穴を撫でたりしている。


「汚いよ、そこらへん」

「えっ、そうなんですか……」


 大体分かるだろ。とため息が漏れる。

 本当に見たことすらないらしい。私も小さい頃にやったっきりだけどそんな珍しいかな。


「これ、やるの?」

「はい……あっお金出します! 嫌なのに付き合ってもらってるので」


 私が嫌がってるって理解はしてるのかよ。


「……まぁいいか」


 ボソリと心の中にある感情を言語化して吐き出す。

 相手が傘折とはいえ、お金を出してもらってるなら付き合うしかない。


 うん、仕方ないから。


 ゲームが出来る嬉しさと、その相手が傘折じゃなければという落胆が混じって複雑な気持ちになる。


 ……けれどやっぱりゲームを人のお金で出来るのは嬉しい。


 人の金で焼肉よりも人の金でゲームの方が私は好きだ。

 相手が傘折でもそれは変わらない。


 傘折がカチャンと100円玉を筐体に入れる。


 するとビカビカと得点表示の電光掲示板が下品に光って0対0とデジタルに表示される。


 さらにその筐体はピーっと笛の音を鳴らすと、掲示板下部から伸びているスロープを通して私の側にパックを流してきた


 時間は5分、得点じゃなくて時間制らしい。


 とりあえずパックをマレットで一旦押さえつけて傘折に説明する。


「このマレットでパックを打ち合って相手陣地の奥にある穴に入れる。わかった?」

「はい。なんとなく」


 ゲームセンターの喧騒の中で2人で会話して、軽くラリーをするようにカツンと傘折の陣地にパックを滑らせた。


「えっあっうわ!」


<カンッガチャン>


 思いのほか滑りのいいパックに焦ったのか、傘折は見事にオウンゴール。

 私に1点が入る。


「これ、滑る!」

「まぁ空気出てるし」


 昔はテレビで芸能人がエアホッケーで戦う企画が人気だったらしいけど、知らない私たちからしたら馴染みがない。


 ゲーセンに通わなかった傘折なら尚更だな。とか思う。


 そうやって困惑してる傘折を眺めていると、今度は失点した傘折の陣地にパックが滑って入場する。


「わっちょっ」


 慌てて力一杯に押さえつける。


 そんなに慌てなくても……とか思うけれど、確かにホッケーのパックは想像以上に台の上をぬるぬると滑ってくる。


 緊張してしまうのも分かるかもしれない。


「これ押さえちゃっていいの?」

「いいよ、ゆっくり打ってみなよ。打ち返すから」


 そういうと彼女は恐る恐るパックを離してコツンと打つ。

 すーっと真っ直ぐにこちらにパックが滑ってきたのを見て、私は右、左、と壁に反射させるように打ち返した。


「えっ!? あっ……っと!」


 傘折も慌てながら反応して打ち返す。

 打ち返すというより当てるって感じだったけど、それによってパックの軌道が直線的に変わっていく。


「おっそうそう……あっ」


<ガチャン>


 軌道が読みきれなかった。

 傘折の打ったパックが私の手をすり抜けて陣地に入り、ゴールを決められる。


「入った!」


 嬉しそうに少し跳ねたのを見て、なんだかこちらも少し嬉しくなって顔が緩む。


 ただ彼女の顔を見て傘折の父親が重なった。

 笑顔でも、彼女の整った顔には面影がある。


 ゲームをしているのに少し嫌な気分になる。


 表情筋が重くなった。


 でもそれを表に出すなんてつまらないし、目の前の傘折密季はあの父親と違うと今は自分に言い聞かせて取り繕う。


 嫌な気分を押し殺すようにこちらにくるパックを押さえつける。


「これ、卓球とサッカーを混ぜたみたいですね」

「まぁそんな感じかな」


 時間制のため、私は会話もほどほどにしてまたパックを打った。


 周囲のゲーム音が鳴っている中でパックがカツン、カツンと打ち合う音が不思議と耳に入る。


 ゆっくりとラリーをするようにパックを滑らせて時間が過ぎる。


 経済的な事情でゲーセンに寄るなんてことをあまりしない私としては、こんな時間すら楽しかった。


 相手が傘折だったとしてもだ。


 本当はもっとカツンカツンと強く早く打ち合ったりするんだろうけど、相手はゲーム自体に慣れてないからゆっくりと遊んであげる。


 接待プレイ。


 傘折にこんなことするなんて屈辱だけど、ゲームなら仕方ない。

 ボコボコにするよりもそっちの方が多分楽しい。


 そんなことを考えてるうちに5分が経過して、ピーっと言う音と共に得点板の電気が落ちて空気が出なくなる。


 私は手前のパックを自陣に入れて切り上げる。


「終わりですか……?」

「そうみたい」


 私は満足してベンチに置いたカバンを肩に掛けると、傘折はホッケー台を見つめていた。


「あの、燕ちゃん」

「なに?」


「手、抜いてました?」

「……は?」


 いや手を抜いてたというより、勝負をしたつもりがない。

 ただラリーをしたつもり。


 そりゃあ得点のやり取りみたいなのはいくつかあったけど、それすらもちょっとした遊びの範疇だ。


 まぁ返しやすいようにパックを打ったりしたし接待プレイみたいなとこはあったけど、流石にいきなり初心者相手に全力は引くでしょ。


 ただ傘折は真剣な表情でこちらに問いかけていた。


「燕ちゃんが好きなゲームの楽しさを知りたいから、本気でやってほしいんですけど」

「いやでも……」


「やりましょう。そっちのが楽しいです」

「……知らないからね」


 自分も別に熟練者じゃないのに買い言葉でそんなことを言ってしまう。


「はい。私がお金出すからもう一回やりましょう」

「はぁ……分かったよ」


 お金を出してくれるなら。まぁやる。


 傘折相手でもゲームはやっぱり楽しいし、ボコボコにしていいならボコボコにしてやる。


「あっ! このゲームもう1個モードがあるみたいです。せっかくなのでそっちでやりましょう」

「もう1個?」


 そんな疑問への回答よりも先にビーッと音が鳴り、得点板にスコアと残り時間に加え『BIG MODE』という表示が点灯する。


 何がビッグ……? 考えていたらまた私の方に普通のパックが滑り込んだ。


 別にパックがビッグなわけじゃないらしい。


 とりあえず私はぬるりと滑り込んだパックを強く打ち込んだ。


「うわっ!」


 隙だらけの守りを縫うように壁に反射して、スコンとゴールする気持ちのいい音が響く。


 これが多分本来のゲームスピードだ。


 不規則でちょっとした力で勢いがつくパックを打ち合い、油断してたら得点される緊張感。


 それがエアホッケーの醍醐味。


「むっ……」


 スコンとゴールした音と眉を顰めた傘折を見ると少し気分がスカッとする。


「それならこう……っ!」


 彼女は壁に一回バウンドさせて早く打ち込んでくる。


 それを今度は優しく引きながらコツンとマレットを当てて勢いを殺す。

 そしてふわりと滑るパックを、自陣の壁にバウンドするように強く打った。


「えっ、なに……!?」


 自陣の左右の壁を高速で往復するパックを見て傘折は大きな声を上げる。

 ちらっと顔を見るとパックの動きに合わせて視線が右往左往している。


「ちょっと……!」


 そしてその高速のパックをフェイントを交えながら、思い切り壁にワンバウンドさせて打ち込むとまた傘折の陣地にゴール。


「よしっ!」

「えーっ!」


 想像以上に気持ちのいいゴールに嬉しくなる。


 それを見て相手がびっくりしてるのもなんか優越感があって楽しい。

 傘折には悪いけど、本気でやってほしいって言ったあんたが悪い。


 残念だけど一方的な蹂躙で、楽しめないと思った方がいい。


「むー……」


 その後も何度かラリーが続いた。


 傘折に得点を入れられることもあったけれど、基本的には私がゴールすることが多かった。


 得点差は圧倒的。

 しかし残り30秒でラリー中にも関わらず、ビー! テレレレレ! と音が鳴る。


『ビッグモード! ビッグモード!』


 と機械が言葉を発した。


 ———かと思えば、パックの出てくる滑り台からガラガラガラガラッ! と音を立てて小さなパックが大量に滑り込んできた。


「えっ!?」

「なにこれ!?」


 2人して驚きながらとにかくやたらめったらに打ち込んだりオウンゴールしたりすると、お互いのスコアがどんどん増えていく。


「ちょっと……マジ!?」

「うわ! えっちょっ……うわ!」


 さっきまでの軌道を計算したりフェイントを入れたりという駆け引きが一切意味を持たない、ただ大量のパックを相手の陣地に打ち込む時間が続いた。


 台上にパックが減ってきたと思えばまたドカンと大量に投入されて、わけがわかんなくなりながら手を動かしてオウンゴールとか関係なくとにかくパックを相手陣地に送り合った。


 なんだこれ。


『ビッグモード! しゅうりょ~~~う!』


 機械から声がして時間切れ。


「なんだこれ……」

「はぁ……はぁ……疲れました……」


 お互いに残り30秒でひたすら手を動かしたから息を切らして台に手をつく。

 ピカピカと光っているスコアを見ると162対157って表示されてる。


「……エアホッケーのスコアじゃないでしょこれ」

「えっ……あっ! やった! 勝ちました!」


 しかも負けてるし。


 傘折はへとへとになりながらも両手をあげて喜んでいる。

 小さい頃にお父さんとやった時はこんなのなかった気がするけど……意外と進化してるみたいだ。


 エアホッケーの進化が速度ではなく物量なのは流石にめちゃくちゃで笑えてくる。


「アハッ、アハハハ! これ楽しいですね!」

「まぁ、そうだね……ハハっ」


 私は対面で喜んでいる傘折の笑顔を見ながらつられるように声に出して笑った。


 けどそれに気づいてすぐ顔に力が入る。


 ただ相手が傘折というのを差し引いても、こんなゲーム性なのは流石に予想外で楽しかった。

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