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「一緒に帰りましょう」
「えっ」
放課後、教室に傘折がやってくる。
1年なのによくもまぁ何度も2年の教室に来れるなって感心する。
由希と香織に付き合ってることを広めるように言ったり、人間関係に消極的なくせに意味のわからないバイタリティを持ち合わせている。
視野が狭くなるタイプなのかもしれない。厄介この上ない。
そんな彼女が由希たちと3人で帰ろうとしていたら割って入ってきた。
なんなんだこいつは。
「おーおーえっと……」
「傘折さん、だったわね」
「はい」
由希と香織が確認するとおずおずと彼女は不器用に微笑んで見せる。
「わざわざその為に2年の教室まで来たの? 昼も来てたよね?」
「はい、一緒に帰りたくて」
それを聞いて由希はチラチラとこちらを見た。
お調子者な由希の言いたいことは分かりやすい「彼女は健気だね」とかそんな囃し立てだろう。
「ふーん。じゃあほら燕、行ってらっしゃい」
それを裏付けるように由希は私の背中をトントンと叩き、傘折の方へ押しやる。
「えっいや、いいでしょ」
「そんなこと言っちゃダメだよ。あたしたちは帰るから傘折さんと2人で放課後デートしなよ」
「デートって……」
マジか……。
なんで傘折なんかとそこまでしなきゃいけないんだと思っていたら、香織はこちらを見上げて手を小さく煽ぐように振った。
確実に揶揄われている。
淑やかでちびっこ日本人形のような彼女でも内面は活発体育会系の由希と近いものがある。
「また明日」
「またねー!」
「い、入来先輩、舞浜先輩、ありがとうございます」
傘折がぺこりと頭を下げる様子に喉が締まるような苦味が口の中に広がる。
なんでこんなことをしているんだというなんとも言えない歯痒さにイライラする。
「それで、どこ行きましょうか?」
「……帰る」
「とりあえず駅まで一緒に行きません?」
何も言わずに昇降口まで向かうと後ろからペタペタと傘折はついてくる。
「手、繋ぎませんか?」
「……」
断っても意味がないことはわかってる。
何も言わないことを許可と取ったのか傘折は私の手を取った。
指を絡めて恋人繋ぎ……マジか。
ズイズイと廊下を通ると周囲の人間が私たちを見てる。
その視線がどうにも不快で仕方ない。
「あの2人マジで付き合ってんの?」
男子や女子関係なく、そんな声が聞こえてくる。
「……っ! やっぱ離して」
私は手を振り払った。やっぱ無理だ。
好奇の視線に晒されてる中で手を繋ぐなんてことはしたくない。
まぁ見てなくても手を繋ぐなんてそもそも嫌。
そんな恋人っぽいことできるかって思う。
離した手のひらにじんわりと汗が滲んで、それがとても不快。
さっきは脅しに屈してしまった後悔が、背骨の中を走り回ってる。
もうチクって終わらせてよ。と体の中で叫んでる。
首の跡は治ってるみたいだけど、見えないよう体につけた傷やアザは残ってるだろう。
それに録音データで状況証拠もまだ効果はある。
あとは教師の誰かに「瀬波にいじめられた」って言えば、私だって受け入れて退学でもなんでも罰を受ける。
憎いと思っている傘折の娘に報いを受けてない私、なにも決着がつかず恋人関係みたいな役割を演じさせられていることが嫌で仕方ない。
自首すればいいけれど「それはそれでもったいない」とか思ってしまっているし、半分は突き放しきれない私のせいでもあるけど……。
「これさ、なんのつもり」
「何がですか?」
改めて向きなおって聞くと、猫のような目を大きく開いてこちらを見る。
「仕返しでしょ。チクって終わりなのに陰湿」
「別に仕返しじゃないですよ」
笑顔が眩しいのがよりムカつく。
ジリジリじめじめとした夏が近づいてる気候も相まってイライラする。
もう構わなければいいのに、イライラや腹立たしいこの気持ちはきっとそういう煮え切らなさも大きな要因になってると思う。
校門を抜けて、いやいや2人横並びになって歩く。
傘折は再び手を取ろうとはしなかった。
会話はない。
することもない。する必要もない。
じゃあなんで一緒にいるんだろう。
考えるたびに頭の奥でふつふつと良くないものが湧き上がって指先に力が込もる。
「あっ、ゲームセンター行ってみたい」
そんな感じで駅までの最短距離を2人無言で歩いていると、突然傘折がそう言って足を止める。
彼女の視線は駅前の少し栄えたパチンコ屋とかのキラキラした景色の中に負けない
ほど派手な、赤い看板のゲーセンだ。
「……なんで?」
「燕ちゃん、ゲーム好きですよね?」
たしかにゲームは好き。
でもそれを言うとその後どうなるかが嫌でも分かる。
「……嫌いだよ。ゲーム」
だから否定した。すると傘折は
「じゃあ好きになりましょう」
意味ないのかよ。
そんな言葉に辟易している私に、傘折は目をキラキラさせこちらを見上げた。
「私ゲームセンター行ったことないから行ってみたいんです!」
こちらの答えを聞かず彼女はまた私の手首を掴む。
そうして私たちは赤い看板の建物に吸い込まれた。




