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翌日の昼休み、クラスにやってきた傘折に開口一番そう言われた。
「そういえば舞浜先輩と入来先輩に伝えましたからね」
「なにを?」
「私たちが付き合ったことです」
「……は?」
昨日の一件でよく寝れなくて遅刻ギリギリで学校に来ると、クラスの雰囲気が違った。
1学期も終わりそうでやっとクラスはまとまりつつあるものの、私が登校した瞬間に空気が一変する。
教室に入った瞬間にざわめきがおさまってみんなの視線がこちらに向く。
まるで入学式の時みたいだった。
金髪だから?
いや違う。友人の舞浜由希も入来香織も、そのほかのみんなも私の金髪にはもう慣れた。
クラスのみんなが真面目でも、瀬波燕という存在がそれなりに話せるやつなんだって分かれば、クラスから弾かれることなんてまずない。
でも今日の朝は間違いなく入学式の時のそれと近い「浮いたやつがやってきた」みたいな雰囲気だった。
疑問に思いながらクラス全体が落ち着かないまま一限を終え、私のクラスにやってきた傘折にそう言われてやっと理解した。
こいつ、言いふらしてる……。
「だから舞浜先輩と入来先輩、あと男女問わず他の生徒とは付き合えないですからね」
「……あれ、2人だけのことじゃないの」
由希や香織、その他クラスメイトの視線を私は一心に受けている。
その元凶の傘折は少し体を折り曲げて、席に座ったままの私の顔を覗き込む。
「なんでそうなったかは秘密です。でも付き合ったことは言わないと、他の人に手を出されちゃうかもしれないですし」
ケロッとそんなことを私に向かい、私の両手を握りしめて言うものだから言葉に出来ない。
細くて柔らかく体温のこもった指を感じて、こいつがしっかり生きていることが伝わる。
あの時に傘折は死んでいて、死体に変な魂が入り込んだとかではない。
昨日で人格分裂したのかと思うくらいに、私と話す時の傘折には芯がある。
こちらの様子を伺ってオドオドしてた以前と違って、やりたいということをしっかり態度でも示してくる。
「やめっ……」
手を振り払って「触るな」と言おうとしたら、それを察知した傘折は
「いいんですか?」
録音、スマホ、どっちかは分からないが口の動きだけで伝えてくる。
さらにギュッとこちらの手を強く握る。
「……チッ」
「分かっていただけたならよかったです」
私の小さな舌打ちを気にもとめず、笑みを浮かべる
昨日の暴力でまだハイになっているのか、元々こんな性格だったのか、それともやり返しのつもりなのか。
どれかは分からないし、どうでもいい。
結局のところ拒否権がないんだ。
あの時、幸運にも殺人者にならなかったその反動だと思おう。
彼女は「それでは」と一瞬だけ私に笑顔を見せて去っていく。
すると早速クラスで1番仲の良い友人である由希と香織は私の元にやってくる。
日焼け肌に活発な由希と、髪が長く淑やかな日本人形のような香織が、2人して茶化すような表情でこちらを見ている。
「いやいや、いきなり2人で熱いでございますねー」
「あの子、あんな楽しそうな顔するのね。いきなり話しかけられた時はなんか怯えながら『狙ってもダメです』なんて言ってたのよ」
友人2人に囃し立てられて私は「あー」と適当に誤魔化すことしか出来なかった。
私的にはただ傘折といるだけにすぎないのに、周りからはそう見えるらしい。
由希と香織。
別にグループってわけじゃなくて、由希たちといない時は傘折といる。
少なくとも私と傘折は仲良しには見えていたはずだから、その延長とはいかないものか。
いやその関係性の解釈が変わって見えるから色めき立つのか。
「女の子同士って珍しいわね」
「そうそう、女子校とかだと聞くけどね」
「はぁ……」
ため息をついて机に突っ伏した私の髪を快活な由希はくしゃりと撫でる。
髪越しに伝わるその感触で私は普段の落ち着きを取り戻してきた。
昨日の殺意の高ぶりはだいぶ落ち着いている。
私は普段のテンション感を思い出し、由希の手を軽く振り払った。
「やっぱ珍しすぎでしょ。私が傘折と……女同士なんて」
「燕がそれ言う? あの子の告白おっけーしたんでしょ?」
「あぁ……」
そういうことになっているのか。
でもあの時の流れを追うと告白は確かにあっちからになるんだろうな。
この2人も、他の生徒も、多分私が傘折に暴力を振るったりしていたことを知らない。
体育の授業だって痣が目立つからトイレで着替えるよう命令してたし、不良風な先輩である私と1番仲が良いとなれば自然と孤立もしていた。
彼女の交友関係を見れば孤立するのも違和感のあることじゃないんだろう。
そんな風に自分の中で結論づける。
一回一回こうやって整理しないと傘折のことについては自分の中で納得するところまでいかない。
首を絞めて殺そうとしたけど、感謝されたからやめて、そしたら告白されて付き合うことになったんだから。
私は少なくとも付き合ってるフリのつもりだけど、それでも出来事や感情の流れに落丁が多すぎて受けとめきれていないんだ。
周囲に色々とインタビューされても答えられない。
この筋書きはあのハイになった陰キャラである傘折が書いたものなんだから。
「でもびっくりしたわ。今朝だって目も合わせないで『私、瀬波先輩と付き合いました……広めても……いいですよ』って言ってたのに、燕と話す時はすっごいなんかシャンとしてた」
落ち着いた口調から香織は妙に上手い傘折のモノマネを披露する。
その様子に私はどうしようもなく呆れてしまう。
……マジかあいつ。
「そんなこと言ってたの。てか広めたの由希たち?」
「うん、私と香織で広めた」
「なんでそんなこと……」
香織は由希と目を合わせてからこちらを見る。
「『広めてもいい』なんてわざわざ言うってことは広めろってことじゃないかしら」
「そうそう、今でもビックリしてるんだよ。オドオドして燕のそばをちょこちょこしてたあの後輩ちゃん。いきなりあたし達に話しかけたかと思えば付き合ってるとか言い出すし、なんか燕と話してる時の顔が普段と違うし」
「そうそう。燕といるのは見ていたけれど、付き合う前と後で態度変わるタイプなのかしらね」
どう思う? そういう子なんだろうね。
そんなやりとりを2人は繰り広げていた。
そんな言葉に対してはぁーっと長いため息で考える時間を作る。
なんでそんなことを……これはやり返しの線が強いな。
もしかしたら私がやったみたいに仲良いと周囲に見せつけて、見えないところでなにかをする気なんだろう。
……でもまぁ、仕方ない。
傘折にやったことを考えると、その報いとしては優しすぎるくらいだ。
受け入れる。ただ傘折の投げてきたボールが予想外の方向から飛んできて受け止め方に迷った結果、今こうやって盛大な思考のバグになってるわけだけど。
「親友は私たちかと思えばこの~」
頬を由希に手のひらでムニムニと潰される。
「ちょっやめてっ」
「先越されちゃったなぁ~」
「そうそう、私たちも燕のこと大好きなのにね」
由希と香織は顔を見合わせてから残念そうにこっちを見ていた。
私は傘折の読めない意図にただひたすら胸の奥底をかき混ぜられる。




