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大嫌いな後輩女に脅されて付き合うフリをするハメになった話  作者: 鳩見紫音
呼びたかった名前

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23 密季サイド

 楽しい、本当に楽しい。


 こんな時間がずっと続けばいいのにとテンションが上がっていく。


「燕ちゃーん! こっちです!」


 ゆったりしたペースで歩く燕ちゃんを呼ぶ。

 もっともっと遊びたい。


 どこまで突き抜けるような青空の下、綺麗な金髪をキラキラとさせてる燕ちゃん。


 Tシャツにデニムのシンプルな服装でも、明るい景色が彼女をとても鮮やかに見せている。


 保護者のように連れてしまっているけれど、燕ちゃん自身もそこまで嫌だと思ってないみたい。


 ちょっと待って。と言いながら掛かり気味な私に合わせてくれている。

 今日1日で嫌そうな顔を見せたのはフードの値段と入場料を見た時くらいかな。


「早く来てください!」

「はいはい……」


 燕ちゃんは呆れたように笑う。

 楽しんでくれてるとは思うものの、流石に疲れたのかな?


 周辺を見回してアトラクションを見つめ、また私を見つめ直しての繰り返しで視線が何かを探すように動く。


「次どれ乗りますか? 絶叫系? あっ! あの空中ブランコも楽しそうですね!」

「なんでもいいよ」


 私の望むものなら。と後ろにつけている気がした。


 せっかく燕ちゃんも楽しそうにしていたのだから、お互い対等に乗りたいものを乗って楽しみたい。


 絶叫系は怖いけど……燕ちゃんが楽しそうにしてるから頑張る。

 ここに来てから楽しそうだったから、もっともっと楽しんでほしい。


 笑ってほしい。


「なんでもいいじゃ分からないです。乗りたいの教えてください」

「……」


 ただ、そうやって選択の重心を委ねてしまうと少しだけ苦しそうにする。


 なんとなく、自分を出すのを怖がるみたいだった。


 何かを重荷に感じているならそれを忘れるように私も楽しんで、ついてきてもらおうと頭を回す。


「もー。すぐ黙るんですから」


 どういう気持ちの変化が起きたんだろう。

 あの花火の日が明確なきっかけというか、あの日からというのは分かる。


 態度も、表情も柔らかくて、少し恥ずかしそうに私の目を見るようになったのは2人で線香花火をした日から。


 私のことを知ってくれたからなのかな。


「じゃあメリーゴーランド乗りましょうっ! 小っちゃい子と一緒に!」

「えっ、えぇ……それは……」


 キョロキョロと見回して、あえてそんなことを言ってみる。

 すると燕ちゃんは視線を違う方向にズラして嫌ということを暗に示している。


 よく見たら、いやよく見なくても燕ちゃんは目を引く。


 シンプルショートの金色の髪に無駄な肉や脂肪がついてないのがとても綺麗。

 痩せてた影響なのか、体のラインも曲線より直線的。


 今までは痩せすぎてたからか目つきの悪さが一番に印象に残ってたけど、手料理作戦のおかげか健康的になって彼女のポテンシャルを感じさせる。


 だから馬に乗ったらかっこいいかも。ふとそう思った。


「なんでもいいんですよね?」

「……うん」


 もし明確に拒絶するなら別の選択肢を出してもらおう。

 そう思ったけど手を引いてみればそれを拒む様子はなかった。


「じゃあ行きましょう! すぐ!」


 私は燕ちゃんの手を引いてメリーゴーランドに走っていく。

 馬の隣にあった馬車に乗り、ぐるぐる回りながら燕ちゃんを撮影した。


「王子様みたいですね!」

「やめてそれ。子供たちが見てるんだけど」


 燕ちゃんは恥ずかしそうに写真を撮られていたけど、うまく笑いを作ろうとしてるのがまた可愛らしかった。


 いろんな一面を見ることが出来て今日の私はとても幸せ。


 ほんとうに、ほんとうに。


「次はどこに行きましょうかね」

「凄い元気だけどさ、休まないの?」


 メリーゴーランドを終えてまた歩いてパーク内を散策すると、そう言葉を投げかけられた。


 辟易してるとかじゃなく、純粋に疑問といったトーンだった。


「疲れました? 休みます?」

「いや……どこでも行くよ」


 私にそう伝える時、また苦しそうな顔をした。


「んー……燕ちゃん楽しくないですか?」

「いや……」


 そこで言葉が詰まる。

 何か引っ掛かりがあるみたいなのが私にも伝わってくる。


 その正体が私には分からない。何を心のつっかえにしているんだろう。

 その顔を紛らわせたくて周囲を見回すと、パーク内を散策してると入り口に書いてあったマスコットキャラを見つけた。


『トナッピーを探して写真を撮ろう!』


 そんな感じのことが、入口のポスターに書いてあったのを覚えてる。


 フィンランドの有名キャラクターの造形を似せながらも、少しズラしたようにぶさいくな顔立ちにしている特徴的な見た目が可愛らしい。


 可愛さのジャンルで言うとパグとかブルドックとかそっち系で、私はこっちの方が好きかも。


「あっ! トナッピーだ! ねぇ燕ちゃん、写真撮りましょうよ!」

「また写真?」


「また文句ですか……?」

「分かった。行こう」


 いじらしく言ってみると、燕ちゃんはハァとため息をつく。

 なんか恋人よりお母さんに甘えてるみたいになってきちゃったな。


 とか思いながら、私はトナッピーに手を振るとキャストと一緒にのっそりとこちらにやってきた。


「ほらほら、間に挟んで2人でトナッピーのことぎゅーってしましょう」

「それはちょっと……」


 キャストさんに写真をお願いして、2人で写真を撮ってもらう。


 私たちがカップルに映るみたいに間に挟んだり、トナッピーの前にしゃがみ込んだり、いろんなポーズで写真を撮ったけど燕ちゃんが上手に笑ってる写真は撮れなかった。


「燕ちゃん笑ってないですよ? ……でもまぁこれからですね」


 私はスマホを見てそう言うと、少し申し訳なさそうな顔をした。


 元々笑うのがあまり得意じゃなさそうだから、こういう記念写真は仕方ないかな。

 笑顔のツーショットも一応あるしいいでしょう。


「こういう不器用なところを含めて、燕ちゃんは私といる時が1番可愛いと思います」


 だから私はそう伝えた。


 もし何か私に対して負い目や思うことがあるのなら言ってほしい。


 言わなくてもいい、ゆっくりと自分の中で解消するべき問題ならそれまで待つ。

 燕ちゃんが心から笑えるようになるまで付き合っていきたい。


 ごめんなさい。


 改めて友達を作る気はありません。と心で謝る。


 私はまず燕ちゃんと一緒にいれるようになりたいから「友達を作るまで一緒にいてください」なんて言ったけれど、そうなることはないと思う。


 何枚か2人で撮った写真は記念撮影以外にもあるけれど、それも全部どこか燕ちゃんは何かを諦めたような笑顔だった。


 一緒に笑顔で写真を撮ってくれたのは嬉しい。


 ただ私にはその笑顔もどこか表面上のものに見えてしまう。


 心の底から楽しくて、嬉しくて、幸せだという笑顔を私は燕ちゃんから見せてほしい。


 そんなことを思いながら燕ちゃんを見ていると……。


「あのさ……」


 彼女は大きく空を指差した。


「観覧車、乗ろうよ」


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