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「燕ちゃんはこのテーマパーク来たことあるの?」
「あるわけないじゃん。いくらかかると思ってんの」
燕ちゃんは不機嫌そうに言う。
あの花火大会の後から少しだけ、燕ちゃんは棘が抜けたような優しい顔をするようになったけれど、今回はとても不機嫌そう。
ただこの不機嫌さは私と2人で来たことより、このテーマパークの値段だと思う。
「たっか」
ワンデーパスの値段を見上げてガムでも吐き出すみたいに燕ちゃんは言った。
「でもペア割と学割の併用ですごい安くなるんです」
「そうみたいだね。そうじゃなかったら流石に来たくても来れない」
最大限の割引を利用して半額以下の2000円で乗り放題のワンデーパス。
苦学生をしている燕ちゃんの負担にならないようにリサーチして『割引きで安く入れる』と提案したら了承してくれた。
ただそれでも実際の入場料を伝えたら、分かりやすく苦虫を噛み潰したような顔をしていたけど。
「ほら、行きましょう!」
「ちょっと、いきなり引っ張らないで……!」
早く遊ばなきゃ、時間は有限なんだ。
いっぱい遊んで思い出を作りたい。
いろんな時間を共有して、恋人みたいにつながって、ずっと一緒にいたい。
人生は短すぎる。
夏休みも2学期も冬休みも3学期も時間を共有しても私には足りない。
今は恋人のフリでも恋人みたいにしていれば、もう恋人みたいなものじゃない?
燕ちゃんはいつか私を好きになってくれるかな?
友達を作る気はない。
好きになってくれるまで、あなただけでいい。
やっぱりお父さんが許せないかな。
けれど、お父さんはもう銀行員とは言えない。
詳しくは知らないけど、少し強引なやり方で成績を上げていたのがバレて出世コースから外されてしまっている。
だから……燕ちゃんの復讐は多分成功しない。
だから私を殺しても、意味がない。
だから何も気にせず私を見て。
まだ許せないなら私にぶつけてもいいから、燕ちゃんに私を見続けて欲しい。
△
「凄い並ぶんだね」
ジェットコースターの行列にため息をつきながら燕ちゃんは言う。
言葉だけだとげんなりした雰囲気を感じさせるけれど、声色は明るくて待ちきれないというワクワクを含んでいる。
「並ぶのも楽しみですから」
「そっか」
顔には出してないつもりかもだけど、燕ちゃんの口角は上がってる。
こうやって付き合ってるフリをして分かったことがある。
それは燕ちゃんがとても刺激に飢えてるってこと。
ストレスという概念を子供に説明するお手本みたいな性格と生活をしていた彼女だけど、きっと元々そういう刺激が好きなんだと思う。
特にスリリングなアトラクションが好みのようで、プールのスライダーに乗った時もそうだったけれど、楽しいことへの足取りが軽い。
椅子ごと何メートルも高いところまで持ち上げられ、おぞましい速度で落下するフリーフォールは私は生きた心地がしなかった。
けれど燕ちゃんは落ちてる時も驚いた顔をしただけ。
終わった後も軽い足取りで「もう一回乗りたい?」なんて聞いてきた。
指先が落ち着きなくむずむず動いて、何かを抑えてるのが分かる。
顔を見ると燕ちゃんの口角は上がっていて「もう一度乗りたい」と言ってる気がした。
だから首を縦に振ると
「じゃあ行こうか、ほら」
なんて私の腕を引っ張る。
喜んでいるのがこちらに伝わってきて可愛い。
本当に怖かったけど、頑張った。
なんとか正気を保っていると、燕ちゃんはさらに弾むような声色で言ってくれた。
「ありがとう、付き合ってくれて……楽しかった」
嬉しそうに、笑みを言葉に含ませて……!
普段のドライなものとは違う潤いのある声色に、私はスッと彼女の隣に体が引き寄せられた。
感情表現が苦手な子供のように口角だけで笑って見せる。
その顔が愛おしくてずっと見ていたい。
花火大会からは特にそんな様子を見せてくれることが多くなった。
何かを提案すれば「いいよ」じゃなくて「いいね」って言ってくれたり、ちょっとした言葉遣いやイントネーションの変化でこちらに心を開き始めてるのがわかる。
でも、まだ足りないな。
私は本当に恋人同士になりたいのだから。
少し口角が上がるだけの笑い方でも、芝居っぽい笑い方でもない、素直な燕ちゃんの顔を見たいのだ。
今ならいけるかな……? 私はポケットからスマホを取り出す
<パシャ>
「っ! なに急に」
スマホのインカメラで勝手に撮影をすると、燕ちゃんは嫌そうな顔をした。
「写真撮りたいです」
思い出が欲しかった。
スケジュールアプリだけじゃなくて、写真データに2人で遊んだ思い出が。
普段は燕ちゃんを撮ると写真が嫌いなのか「消して」と怒られる。
ただ今回は違った。
「……2人の?」
「はい」
「……分かった」
そう言うと燕ちゃんは私のそばに顔を近づける。
私より少し短い金色で、いい匂いのする髪が視界の端にチラついて、目鼻立ちが整った綺麗な顔に心臓の鼓動が速まる。
燕ちゃんって自分が可愛いこと気づいてないのかな?
ため息が出るくらいに好き。大好きなんだ。
綺麗で可愛くて、愛おしくて、私を見てくれる瀬波燕先輩が。
気になる人がいて恋してるかを確認するなら、顔を近づけるのが一番手っ取り早いいかも。
「撮らないの?」
少し低く静かで息の多い声が耳元に届くと全身に力が入る。
写真がブレてしまいそうなほど、心臓の動きが大きくて速い。
「は、はい……撮ります」
改めて写真を撮る。
……ギコちない笑顔になってしまった。
燕ちゃんは口角だけを上げて笑ってるか笑ってないか分からない表情になってるけど、きっと笑ってる。
写真撮ってくれる……!
今日は色々撮ろう。そんな嬉しさがつま先から頭まで湧き上がって体中に駆け巡った。
「これ送りますね」
2人の思い出だから。
けれど、そう言うと彼女の顔は途端に硬直して、眉根を寄せて表情を曇らせた。
「送らなくていい。というか送らないで……あっほら列動いてる」
その理由は聞けなかった。
何かあるのかな。
私は燕ちゃんのその曇った表情を晴れやかにしたくて、声色を明るくしたい。
だからいっぱい楽しもうね。




