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大嫌いな後輩女に脅されて付き合うフリをするハメになった話  作者: 鳩見紫音
戦争よりも差別よりも嫌いな存在

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20/23

16

 夏休みも中盤を過ぎた。


 傘折は平然と私の家に上がって料理を作ったりする。


 多分平均すれば週2~3で通っているだろう。

 バイトかよ。とか思いながらもそれに慣れつつある自分もいた。


「燕ちゃん、縁日に行ってみたいです」


 そんなある日、傘折は私の家のポストに入っていた『納涼花火大会』というビラを勝手に取り出し『土用縁日』の欄を指差した。


 このアパートから少し歩いたところにある河川敷一帯で毎年行われている有名な花火大会だ。


「出店は全部高いし行く必要ないでしょ」


 香織と由希にも誘われたけど断っている。


 ケチくさいとは言われたものの、なんか受け付けない。


 小学校中学校と花火大会や縁日に行ったことはある。


 けど小さい子供には流石にボッタクリが過ぎて、あまり好きになれない。


 100円でビッグモードなんて機能を搭載し、5分も楽しめるホッケーゲームを見習ってほしい。

 テクノロジーの方が安く済むし遊ぶ人のことを見てくれている。


 しかしそんな私の考えを知る由もなく傘折はこちらへ詰め寄った。


「縁日行ったことないんですもん、それに花火大会も。初めての花火大会が恋人となんて素敵だと思いませんか?」

「そりゃ本当の恋人だったらさぞ素敵だろうね」


「別に本当の恋人になってくれてもいいんですよ?」

「……」


 その言葉に何を返事してもきっと答えの受け取られ方は1つだと思ったから無視した。


 彼女は否定的な私の言葉も肯定的に解釈する。



 こちらが本音を話そうと嫌味を言おうと取り繕おうと、私に彼女の本心は何一つわからない。


 彼女の「恋人になってくれてもいい」という言葉が本心なのか判断しかねる。

 私を好きになる理由がなさすぎるから。


「一緒に行ってくれませんか?」

「……まぁ、行くだけなら」


 そして私は、彼女の言葉を飲み込んでしまうのだ。


 それはもう胃もたれしてしまうほど。


 今も私の中のどこかに傘折の言葉とそれに付き回る感情が溜まっている。

 吐き出したくても吐き出せなくて苦しくなる。


 でも、それが私への罰なのかもしれない。

 感情のキャッシュファイルは日に日に容量を増やしている。


 動いていく中で自然と切り捨てられるものが私の中に溜まっていく。

 それが私の行動を少しずつ重くしていく。


   ☆


 やっぱり花火大会に縁日、混んでいる。


「燕ちゃん、縁日ってこんな感じなんですか?」


 ごった返す人混みを見つめながら傘折はボソリと呟く。

 どういう意味で言ってるのか。


 私だったらこの言葉に辟易の意味がこもるけれど、傘折の言葉も同じなのだろうか。


「大体ね」


 人と人が密着するんじゃないかというレベルで距離が近い。

 特に食べ物のお店なんかは「すいませんすいません」と提供待ちの行列の間を縫って人が往来している。


 人口密度の高いその空間は、あまりにも混沌としていて、人間の営みがほぼ全て見れるようなレベル人が集まっている。


 香織と由希の姿は今のところ見えない。

 どこかで出会ってしまうかもしれないな。


 ぐっと体に力を入れ直しておく。


「みんな浴衣なんですね」

「まぁ夏祭りだし」


 そういえば傘折も浴衣でくるかと思ったけれど、普段通りのTシャツにスカートという洋服だった。


 またプールの時みたいに「浴衣可愛いですか?」なんて聞かれたら、正直なとこ答えに困るから少し安心する。


「で? 帰る? 大体こんな感じだよ。人が虫みたいに溢れてる」


 わざと発した強い言葉に、傘折は怯むことなく縁日エリアを見つめながら口を開く。


「いや、それは別にいいんですけど……カップルばっかりなんですね」


 そう言うと彼女はこちらを見つめ、私、傘折の順で人差し指を向ける。

 私たちみたいな。という意図がこもってるのが分かった。


 それについて何か言い返そうかと思ったけど、私だけが言葉にしたら意識してるみたいだからやめておく。


「……あー、それで? 行く? やめる?」

「もちろん行きます」


「じゃあはぐれないように手を繋ぎましょう」


 それが目的か。

 ニコニコで手を差し出す彼女、その手を取るか非常に悩んだ。


 なぜか悩んだ。理由は分からない。


 そういえばこれまでは腕を組んだりこれまで接触は許す側で、いかに断るかを考えていた。


 しかし今はなぜか手を取る理由を考えている。


 拒絶するつもりはない。もう彼女に対する嫌悪感はないし、贖罪なのだからやれと言われたらやる。


 ただそれなら自然と手を取ればいいのに、それが出来なくてなにか理由をつけようとしている自分にも困惑している。


 はぐれないように、仕方なく。


 そんな軽い気持ちでも手を握れないほどに私は自分を理解できなくなっている。


「ほら、行きましょ!」


 そんな私を見かねて彼女は私の手を強引に掴んで人混みに突入した。


「……ごめん」

「えっ? なんですか?」


「なんでもない」


 私の中にある私にも分からない部分が大きくなっている。

 自分でも何の意図か分からない言葉を呟きながら、彼女の柔らかい手を強く握りなおす。


 汗ばんでないかな。


 そうしてフードエリアを抜けると比率的に子供が増え始める。

 金魚掬い、ヨーヨー釣り。縁日といえばって感じの出店のエリアに入る。


「うわぁ~すっご~」


 傘折は出店を眺めながら目をキラキラさせている。


「とはいえやっぱり高いな」

「ここに来てまでそんなこと気にする?」


「気にしない方がおかしい」


 来ている子供たちが母親にあれやりたいこれやりたいとねだってる姿を見る。


 やはり祭りはどちらかというと子供を楽しませるより『いかに子供を通して親から金を引っ張るか』に終始してる気がする。


 やっぱり好きになれないな。


 あの子供達に1プレイ100円でビッグモード付きのエアホッケー台を教えてあげたくなる。


「でも楽しそうですよ。ほら、あのくじ! 景品がゲーム機ですよ! 1回500円!」


 そしてそんな風景を眺める私の手を引き、傘折が指差した先の出店は千本引きという箱からたくさん紐が出てるくじ引き。


 一等、プレイステーション。


 今はいくつが最新なのか分からないけど、多分最新のゲームハードの箱に一等という貼り紙が貼られている。


「500円どころか、5000円でもあれが手に入るならお得じゃないですか?」

「あれは絶対だめ。マジで」


 あの手のくじはヤバい。

 あの手のくじが一番ヤバい。


 目だけでそれを伝えると理解したのか違う出店を見回し始める傘折。


「うーん、あっ! じゃあアレ! 射的やりましょう!」


 そう言ってまた彼女は私の手を引いていく。


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