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速度っていうのは誰しもが虜になる。
ゲームでもスピードを出してカーブを曲がったり、テンポよく障害を超えたら気持ちがいい。
このスライダーもスロープの加速が売りらしい。
最初は途中で空の見えるカーブを緩やかに眺めて空の近さを味わった後、スロープに突入して急加速するという緩急を楽しむ。
そんなスリルらしいのだが。
「止まったけど」
「止まりましたね」
カーブゾーンで早速止まった。
縦並びで浮き輪に座り、係員に押し出されてスーッと流れたと思えば……止まった。
かなり早い段階で止まったため、空が近く日差しが熱い。
「これどうすんの」
「うーん、見えないですね……」
まだスロープに入ってないため、ウォータースライダーの上部はひらけている。
だから係員に発見してもらえるかもしれないと思ったけれど、角度の関係で見えない。
チャプチャプと浮き輪を撫でるだけの水流が2人の間の危機感のようなものを煽る。
流れずに引っかかった流しそうめんも同じような危機感を抱えてるのかもしれない。
ただそうめんと違って誰も掬い上げてくれないし、後ろから来るであろうモノの質量は比べ物にならない。
全身から血の気が引いた。
「これ後ろから来たらどうすんの?」
「多分出口で合図を出してるのでそこは大丈夫だと思いますよ」
後ろを振り向くと傘折は心配ないですよと言わんばかりに笑う。
2人用の浮き輪の後ろに座り、私の腰に足を絡めた彼女は、倒れ気味に体重を預けた私を受け止めている。
そんな態勢だからか私が焦ったのが分かったらしい。
「でも、動かないよね」
「突起がなにかに引っかかったんですかね?」
「それなら浮き輪の空気抜けてるでしょ」
「じゃあ水が少ないとかですかね? 浮いてないとか」
そんな風に考えるものの、これは意味のあることだろうか。
現状把握は大切でも『したとて』な状況も存在する。
水流が少なくて浮き輪が座礁。そう認識『したとて』ここからの解決方法は見当たらない。
このスライダーは結構高いところから降りるし、かなり序盤で詰まった。
つまりは私たちはこうして2人くっついて浮き輪と同化したまま、空中に投げ出されたに等しい。
身体を捻ったり下手に動いたらスライダーの底が抜けて落ちるかもしれない。
より背中にツーッとプールの飛沫とは違う冷たいものが走る。
「傘折体重なんキロ? それで突っかかったのかな」
もしかしたら体重バランスが悪いせいで座礁したのかもしれない。
「えっ、なんですかそれ。私が重いから?」
しかしそれを聞いた傘折は露骨に声色が不機嫌になる。
別にクサそうというわけではなかったのけれど、肩越しに彼女を見てみたら片方の眉が吊り上がっている。
そんな傘折の中々見ることのない表情が少し面白くて、可愛らしかった。
「いや、あくまで可能性というか……」
「そんなこと言ったら燕ちゃんだって、軽すぎてスピード出なかったから勢いよく行けなかったんじゃないんですかー?」
傘折は不機嫌そうに言う。
「燕ちゃん軽くてペラペラの紙みたいだし」
「は?」
そんな言葉は由希から飽きるほど聞いていた。
普段ならそんな傘折の言葉も受け流せるはずが、日差しの熱さと少しの恐怖心が起爆材料になって、カチンと来てしまった。
「いやそもそもこんだけくっついてたら体重関係ないし」
「じゃあ私の体重も関係ないです!」
「でも片側が重ければ可能性は……」
「足、このまま締めますよ。そもそも燕ちゃんが細すぎるんです」
「ちょっ、どこ触って……うわっ!」
足を私の体に回し、つま先で肋骨や腰を撫でるのがくすぐったくて体を捻る。
するとその動きで浮き輪が動いで水の力を受け取ったのかまた動き出した。
「流れましたね!」
ギュッという浮き輪が擦れる音ともに身体が後ろに持って行かれて後頭部を柔らかいものが受け止める。
なんだこの感触、私にはない気がする。
なぜか腹が立った。
「えっ、あ、速っ……!」
しかしながらスライダーの勢いに驚いてそんなふうに声を出すと、傘折の足に力が入り安全帯のように私を固定する
右に左にカーブを超えていき、さらに加速していく。
その速度は自転車とかよりも速くて、スロープの天井の模様の変化が綺麗だとか、そういうギミックを感じさせる前にドカンとプールに着水した。
勢いが凄すぎて着水した瞬間、後ろ側に2人でひっくり返って自分でもどうなってるか分からない。
「ぷはっ!」
「はーいお疲れ様でーす!」
水から顔を出すと係員の人が笑顔で浮き輪を受け止めていた。
さらにそれを見ると同時に肩に冷たい感覚が走る。
「燕ちゃん……」
傘折がヘロヘロになりながら私の両肩を掴んでいた。
「目が回りました……」
「速かったからね」
「すいません次来るので早めに出てくださーい」
「ほら出るよ」
そう促され私は傘折の手を引いて、そそくさと出口のプールを空ける。
もう1回乗りたいな。
次はきっと1回目より余裕を持って楽しめるかも。
もし……もしだけど傘折がもう一度乗りたいと言うなら付き合ってあげよう。
そんな期待を込めて彼女を見てみると
「ビックリした……」
まぁ無理そう。
流石に生身で、あの速度は怖かったみたいだ。
プルプルと生まれたての子鹿のようになりながら、私の肩を掴む手を震わせている。
「そんな?」
「速くて、ひっくり返って……」
「あー……」
それが面白いんじゃないの?
そう言葉にしそうになってやめた。
相手が由希とかなら引っ張っていくと思うけれど、傘折相手だと無理やり引っ張っていく気にならない。
そうやって私たちはとりあえず休み休みプールを満喫した。
値段の割には「いいじゃん」なんて思って楽しめたと思う。




