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「夏休みも会ってくれますか?」
「誘ってくれればね」
「誘っていいんですね……!」
終業式、そんな言葉を彼女は嬉しそうに噛み締めていたのを思い出す。
別に私の経済的範囲で遊んだり会えるなら、それは楽しい。
由希と香織とドリンクバーで粘ったりするみたいな楽しい時間を過ごせると思う。
……とか思っていたけれど。
「私、昔の水着がピチピチじゃなくてスカスカになってる光景初めてみました」
プールの更衣室で傘折にヘソをつつかれている。
ただ私はそれを拒絶する余裕もなく絶望している。
プールに行こうと誘われたはいいものの、中学の頃に着ていた水着が着れなくなっていた。
高校生になってから食事をないがしろにした結果、痩せて紐が肩から落ちたり、布が余って胸がスカスカだったり、とても着られるものじゃなくなっていた。
身長は問題ないのに体に厚みが足りない。
だからサイズを下げた水着をレンタルした。
「余計な出費が……」
「それはもう我慢ですね。もう気にせず遊びましょう!」
逆に健康な体つきの傘折は胸の前で手を合わせ、ハツラツと笑ってこちらを見た。
「……というか、なんでここのプール? こんな大きいところ来る必要ある? 市民プールでいいじゃん」
「分かってないですねぇ。レジャープールの良さを」
「そんなこと言われても、来たことないし」
市民プール以外を知らないから、分かってないと言われても困る。
「来たことないんだ。じゃあ面白いかもですね」
そう言った傘折は鍵のバンドをつけて私の手を引いて更衣室を抜け出た。
覗き防止の迷路のような通路を抜け出ると周囲はそんな通路すら楽しませるアトラクションにも思わせる別世界。
夏休みで人がごった返しているものの、南国やアクアリウムを模したオブジェや装飾に目を奪われる。
「凄いね……」
「でしょ? ほら! 行きましょう!」
私は傘折に手を引かれながら人の海に潜っていく。
△
プールのレジャー施設はとても凄い。
大きな波のプールがあったり、流れるプールがあったり、ボーっと水に身を任せるだけでもそれなりに刺激的だった。
高いところから流れるスライダーまであるのが本当に水の遊園地って感じ。
「燕ちゃんって笑うんですね」
スライダーの待ち時間、階段上から彼女は物珍しそうに話しかけてきた。
「なにその言い方」
「あんまり楽しいって顔しないですし、私といる時は……まぁ色々と事情もあるけど冷たく見えましたから」
仕方ないでしょ。
前までは一緒にいたくない相手だったわけだし。
けど今は恋人のフリをしてるし傘折がそっちの方が楽しいなら合わせる。
……と言っても恋人と友人の境目もよく分からないから特別に意識するわけじゃないけど。
今はただ傘折が楽しいと思うように付き合うことにしている。
「由希たちといる時は普通だよ」
「私といる時は?」
「……むかつく質問」
欲しい答えを言わせようとしてるのが気に触る。
「ではでは質問です。この水着は? 可愛いですか?」
くるりと回って身体を見せる。
改めて見ると直線だらけの自分に比べると曲線だらけで少し羨ましくなる。
そんな彼女の着ている黄色基調の明るい水着は、南国のエネルギーが溢れてるみたいでとても眩しい。
ただ水着が可愛いかと言われると……分からない。
高校に入ってからバイトと勉強漬けではあるけれど、一応オシャレにも気をつかってる。
由希たちと遊ぶ時にダサいのは嫌だし、買いはしないけどセレクトショップとかで服を見たりするのは好きだった。
服は頻繁に買えないから、2ヶ月おきのカットとリタッチだけでコスパがいい金髪に落ち着いた。
ファッションは1番手軽で重要な自己表現だから、トレンドも含めて意識をしてるつもりではある。
そういう視点で見てみれば傘折の水着は……正直あんまり似合ってるとは思わない。
傘折のキメ細かい色白な肌に黄色基調は少し眩しすぎる気がする。
なんだっけ。由希が言っていた……そうだ。ブルベだ。
夏だか冬だかは知らないけど、彼女の肌はブルーベースって感じだから暖色はあまり似合ってない。
傘折にその色は少し眩しすぎる気がする。
銀世界にヒマワリが一輪咲いてるみたいで、妙にチグハグな気はする。
とはいえ彼女自身しっかりと整った美形だから、この水着姿も様になってる。
こういう時ってどう褒めたら正解なんだろう。
「……まぁいいんじゃないの。水着はもっと似合いそうなのありそうだけど」
「どういうのですか?」
シンプルに疑問で返され、私は返答に困る。
「どういうのっていうか、青色とかのが似合いそう」
「……っ!」
そう言うと傘折は口角を上げてむず痒そうに身体をよじり、トントンとその場で足踏みをした。
……間違えたかな。
「やっぱり私、燕ちゃんが好きです」
彼女は笑う。
目尻を少し垂れさせて普段見せる子供のような笑顔とは少し違う、微笑みのような笑顔を私に見せた。
それには少し真剣味があって、私はつい大きく息を吸ってしまった。
2人の間に少し沈黙が生まれ、その時は喧騒がお互いの耳から消えた気がした。
ただ見つめ合う時間に私は少し困惑したけれど、それもわずかな時間で
「すいませーん次ですよー」
上から係員に声をかけられる。
「はーい、ほら行きましょ!」
まるで恋人みたいだ。
いや恋人のフリをしているわけだけど、なんかこれはマジの恋人っぽい。
スライダーの高さでおかしくなってるんだろう。きっと。




