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13-1 深夜の自覚

 陽菜乃ちゃんとのデートの夜、遅くに帰ると、結菜はもうすやすや眠っていた。ちゃっかり俺のベッドを占有して。


 まあいいか。そのほうが都合はいい。


 シャワーを浴びて体を洗う。前、女子会のときに結菜は匂いでなにか感づいていた。まずそれを落としておかないとならない。


 風呂上がりに、冷蔵庫からビールを出して一服した。明日は土曜だ。休みだから少しくらい夜更ししたって、かまやしない。


 さっきまでのは、二十六年生きてきて、人生初めての「ガチめデート」だった。余韻に浸りたい。


 それにしても陽菜乃ちゃん、不思議な色っぽさ――というか魔性感あるよな。ファザコンで年上好みだから、そういうオーラも出てるしさ。そらおっさんホイホイになるわ。


「実際、俺も落とされたしなー」


 バーを出て腕を抱かれると、もうダメだった。ふらふらとマンションに連れて行かれて、気がつくとふたり並んでしっぽり飲んでいた。そのうち陽菜乃ちゃんが距離を詰めてくると、言葉少なになって。


 腰に手を回すとしなだれかかってきた。そのままキスをする。これまた人生初だ。唇って、あんなに柔らかいんだな。それに舌も。陽菜乃ちゃんの口の中、火傷しそうなくらい熱かった。


 キスしたまま胸に触ると、イヤイヤするように身じろいだ。手に余るくらい大きい。どのくらいの力で揉めばいいかわからない。痛いとかわいそうなので、力を抜いて優しく撫でるようにしていると、陽菜乃ちゃんが熱い吐息を漏らした。


「初めてだから……優しくして」


 おっさんと付き合ってたというから、ちょっと意外だった。でもすぐエロ方面に持ってかれるからうんざりして全部断っていたとは言ってた。だからそうなのかも。


 結菜だって、多分処女だしな。


 そう思ったら、急に結菜の顔が脳裏に浮かんだ。


「……どうしたの」


 俺が手を下ろすと、陽菜乃ちゃんは薄目を開けた。


「ごめん。そういや俺、データまとめないとならないんだった。――明日、休出」

「そうなの」


 もたれかかってた体を起こした。


「大丈夫?」

「うん。なんとかする。……でもごめん」

「泊まってはいけないのね」

「今度、ちゃんとデートしよう」

「……そうね。今、仕事が大事な時期だもんね」


 ふうと息を漏らすと、髪と服を直し始めた。


「……じゃあ貸しね」

「借りは返すよ」

「約束だよ。……ちょっと心配」


 首を傾げている。


「なんで」

「あたしが処女だから、怖くなった?」


 不安そうな、面白がっているような、複雑な表情だ。


「そんなことはない……」

「……じゃあ、証拠にぎゅっとして」


 首に手を回してきた。


 優しく抱いて、ついもう一回キスしちゃった。かわいいしな。男なら誰だって我慢できんわ。


 ――そうして、後ろ髪を引かれながら、帰ってきた。……帰ってきたわけだが。


「俺、なにやってるんだろ」


 なんかめちゃくちゃ自己嫌悪。


 こうして振り返ってみると、馬鹿だろ、俺。なんでしなかったんだ。結菜が心配なら泊まりだけなしにして、深夜にタクシーで帰ればよかったんだ。なのに俺、どうして……。


 いろいろな想念が浮かんでは消える。自分でもわかっている考えが。


「くそっ」


 頭を振って事実を吹き飛ばすと、ベッドに潜り込んだ。


「……お兄、帰ったの」


 結菜は夢うつつだ。


「ごめんね。ベッド使って」

「気にすんな。ここはお前の家だ」

「うん」

「ほら。こっちこい」

「洋介……兄……」


 抱き着いてきた。肩を抱いて抱き寄せる。結菜がまた脚を絡めてきたんで、背中を撫でてやった。


「ふふっ」


 結菜が笑うと、俺の胸で結菜の胸が揺れた。


「今日のお兄、優しい」

「早く寝ろ。明日ふたりでデートしよう」

「ホント? ケーキ屋行っていい?」

「いいよ、いい。ふたつまで奢ってやる。それからファミレスで晩飯だ」

「ふわー。なまら幸せ」


 顔をすりつけてきた。


「……お兄にハグしてもらうと、落ち着く」

「おやすみ」

「うん……」


 もうすうすう寝息を立てている。薄明かりに見ると、幸せそうな寝顔だ。


「なあ結菜……」


 もうすっかり眠りの雲の中にいる結菜に、俺は語りかけた。


「俺な――」


 わかったんだ。やっぱり俺、今でも結菜が好きだって。……いや、「今でも」じゃない。「今こそ」好きなんだって。それこそが俺の中の「事実」なんだ。


 心の中で言ってやると、結菜を強く抱いた。夢うつつで結菜は、なにか呟いた。俺には聞き取れないなにかを。

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