6-2 ロリヰタ
「はいはいーっ」
菜々美ちゃんが手を上げた。
「じゃああたしが司会しまっす」
届いたばかりのきゅうりの一本漬けを握ると、マイクとしてぐっと突き出す。
「まず莉緒」
「そうねえ……」
首を捻ると、莉緒ちゃんが天井を見上げた。
「あたしの見たところ……なんか真面目すぎてカエルって感じ。かわいい」
「ぷっ」
菜々美ちゃんがまた笑った。
「謎感想ありがとうございます。じゃあ次」
烏龍茶ちびちび飲み、恥ずかしがりの美月ちゃんにマイク――てかきゅうりを向ける。
「……」
「なんか言いなよ。あんた女子飲みだとちゃんと話せるじゃん」
「でも、男の人だし」
「考えすぎだって。このヒト、ただのお札だよ。渋沢栄一と飲んでるんだからさ」
ひどいw いくら飲みスポンサーだからって、万札扱いかよ。
「そうそう」
莉緒ちゃんが同意した。
「あんた慶應なんだし、栄一に聞いたらいいじゃん。士魂商才とか本気かよって」
「……」
上目遣いに、ちらっと俺を見た。
「栄一さん……か、かっこいい」
「キターッ」
「あんた惚れっぽすぎ」
「そうそう。男苦手なくせに」
大受けしてるじゃん。悪い気はしないわ。純情そうな女子大生にかっこいいと言われたらな。……まあ栄一扱いなのが微妙だが。それにかっこいいとか、何十年前の言い方だよ。ずれてんな、この娘。
「次、陽菜乃」
向けられたきゅうりに、陽菜乃ちゃんがかぶりつく。
「ぽりぽり」
「あんたカッパ?」
またしても大受け。
「まあいいや。カッパの感想はどうなのよ」
「ちょうど良さそう」
「へえ」
「落ち着いてるし大人だし。でもおっさんすぎないし」
「おう。どストライクか」
「一度くらいならデートしてもいいよ、あたし」
「仮面の告白w」
悪友にからかわれながらも、俺のことをじっと見つめてくる。
なんだろうなこの娘。妙にそそるところがあるって最初に思ったけど、どんどんそのイメージ高まるわ。なんての、天然の色気あるわ。
「ということで木戸さん、今度デートしてあげてくださいねっ」
先の欠けたきゅうりを向けられた。
「……」
「ほら、返事して」
「その……」
「あーダメダメ。そこは即答快諾っしょ。これだから木戸さんは」
はあーっと、大げさに溜息をついてみせる。
「そんなんだからヘンな娘に引っ掛かって、キープにされちゃうんですよ」
「へえ。そうなんだー」
うっ。六つの瞳に、興味津々で見つめられてるんですがそれは……。
「ねえ、それどんな娘」
ダメンズウオーカー莉緒ちゃんに振られた。
「あたしも知りたい」
意外にも、無口な美月ちゃんまで食いついてくる。
「どうって……別に。普通の女子高生としか」
いかん。酒の力で口が滑った。
「!?」
「女子……高生」
「いくつ下?」
ノリノリだった全員が、目を見開いた。
「木戸さん、女子高生にキープ扱いされてんの」
さすがの菜々美ちゃんもドン引き気味だ。ヤバっ……。
「か、会社では内緒だぞ」
「わかってます」
真顔だ。
「いくらなんでも言えないし」
「まんまリアルナボコフのロリータじゃん、それ」
どうやら文系らしき莉緒ちゃんが呟く。それたしか小説だよな。
「……というか、アンファン・テリブルか。マジ怖」
「木戸さん。それ早くなんとかしたほうがいいよ」
菜々美ちゃんが、珍しく忠告を口にする。
「下手したら大問題になるから。木戸さんがそんなになるの、見てられない」
「平気だよ」
説明は面倒なんで止めとくが、なんせ親戚全体公認だからなー、謎同棲。最悪会社バレしても、首にはならんだろ。なんとなれば神田のおばさんとかウェーイ系父親に説明させるし。
「うそっ」
「うそじゃないさ」
なんか食いついてくるな。
「菜々美」
割り箸を持つと、莉緒ちゃんが菜々美ちゃんに突き出した。
「あんたはどう思ってんのよ、木戸さんのこと」
「えっ」
急に振られて、菜々美ちゃんが素の顔になった。
「あたしらに聞いたんだから、あんたも言いなよ」
「あ、あたしは別に……」
急にもごもごし始めた。
「バイト先の栄一さんとしか……」
「へえ。万札の心配してんの」
「突っつくとなにかとおごってくれるし。一宿一飯の恩義」
身も蓋もない。
「義理ねえ……。そんだけじゃないっしょ」
「特にそういうわけでは……」
急に歯切れが悪くなった。
でもあれだな、恩くらい感じてるってのは、マジかもな。よく考えたら今日だって、俺が知らん女のキープ扱いになってると知って、さりげなく俺に彼女候補見繕ってくれてると、考えられなくはない。
だってそうだろ。彼氏と別れたばかりで寂しい娘、ずっと彼氏のいない娘、それにファザコン気味で年上好みの娘。それ選んで飲み会セッティングしてくれてるんだからな。
会社でもやたらと俺をイジるけど菜々美ちゃん、割といい娘だわ。女子会の渋沢栄一扱いなのはちゃっかりしてるとは思うが。
「もういいじゃん、莉緒」
無口だった美月ちゃんが、口を挟んできた。
「楽しく飲もうよ」
「……だね。もうお酒なくなったし」
「あたしもちょっとだけお酒飲む」
酒に弱いとか言ってたけど、美月ちゃん飲んで大丈夫なのか。
「んじゃあ飲み直しね。栄一さんの謎事情はまた今度の飲み会のネタってことにして」
「木戸さん、次はどうします」
ようやく雰囲気戻ったな。
「またハイボールでいいよ」
「じゃあ注文すっか」
莉緒ちゃんが、呼び出しベルを押した。




