表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さくて大きなわがまま  作者: しがない竜
第3章1節 屍を食べる街 上

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/90

第89話 「お爺さんの奇妙な体験」

 この坂道は誰も来ない。静かで誰の目にもつかない。そう踏んで、セロンは、採掘場と遺跡の間の道で壁に寄りかかって眠っていた。暗い色の層とその上にある黄褐色の層が混ざり合う、丁度中間に位置する崖沿いの道で、薄く白い煙が立ち込めている。


 眠りは、浅く、しっかりとした睡眠がとれるわけではないけど、夜に備えるには十分だと思った。


 どのくらいの時間が経ったかは分からない。崖の中で、ぬるい風が吹き抜ける頻度が増して、目を開けるのが面倒になった頃、セロンを呼ぶ声で、重い瞼をゆっくりと開けなければいけなくなった。


「……ンちゃん……セロンちゃん、どうしてこんな所で寝てるんでしゅか?」


 ぼやっとした視界の中、目の前にいるのは、桃色で耳がハートのネズミ。スクミ―だった。


「スクミ―……あれ? 今ってどのくらいの時間?」


 セロンはぼんやりと聞いた。


「もう夕暮れ時でしゅよ。帰る時間でしゅ」


「そう、それなら部屋に戻って……」


 セロンは、思考が戻って来て、ハッとした。


「いや、部屋にはまだ戻れないよ。まだ、やらなくちゃいけないことがあるんだ」


 スクミ―が怪訝そうな顔をする。


「トウシちゃんが心配しましゅよ」


「気がかりなことがあるんだよ」


「それって、あの採掘場の人の子供の話でしゅか?」


 スクミ―は、目を細めた。


「スクミ―も訊いたでしょ? あのマールっていう女の子が、監視の人に睡眠を削って鉱石を運ぶなら構わないって」


「けど、一人で運ぶのが条件で、誰かに手伝ってもらうのはダメだとも言っていたでしゅよ」


 スクミ―はセロンに否定的だった。


「それは、採掘の仲間同士の話で、見ず知らずの白竜が手伝うなら大丈夫じゃない?」


 セロンは、楽観的に答えた。


「見つかったら厄介な事態になりましゅよ。あの監視の人達、絶対に外部の介入なんて認めなそうでしゅもの」


「隠れながら、こっそりと手伝えばいいんじゃない?」


「どれだけ時間がかかるか分からないんでしゅよ? しっかり手伝っても夜が明けるかもしれないでしゅよ」


「なおさら、手伝ってあげないと可哀そうだよ」


 セロンは、目尻を下げて情で訴えた。スクミ―がため息をつく。


「お人好しでしゅね。あの子が助けを望んでいない可能性もありましゅよ」


「望んでいる可能性の方が高いでしょ?」


 セロンは引き下がらなかった。スクミ―はムムムっと首を傾けている。やがて、諦めたような素振りをして、顔を上げた。


「……しょうがないでしゅね。ミーはセロンちゃんのサポート役でしゅからね。トウシちゃんに伝えに行きましゅよ」


「ありがとう。スクミ―」


 セロンはニコッと笑って、スクミ―に感謝した。


「いいでしゅか? ミーが戻って来るまで、大きな行動はしないように」


「うん、そうするよ」


 スクミ―は、あっくんに事情を伝える為に駆けて行った。セロンは、採掘場の子供達が今何をしているのか確認する為に、採掘場の方へ戻って行った。



 記憶を頼りに子供たちが鉱石を掘っていた坑道まで戻ろうとすると、途中で子供達がセロンの方へ向かって歩いて来るのに遭遇した。セロンは、スクミ―から借りている地面に同化して隠れる布を被っているので、子供達はセロンに気付かなかった。


「運搬が免除されるなら、今日の成績は一位争いできるんじゃないか?」


 オールバックくせ毛の男の子が明るく訊いていた。


「そうだね。一位から三位がかたいんじゃないかな」


 どんぐり頭の男の子が(うなず)いていた。


「フフフ、そしたら、パンと水が二十日分は確保できる……」


 もっさり傘頭の女の子が不気味に笑っている。


「おいおい、パンと水なんて、街に上がれれば、いいだけ貰えるようになるって」


 ツンツン頭の男の子が軽い口調で合わせた。


「私たちが力を合わせれば、一位なんて余裕だよ」


 マールと呼ばれた女の子が上機嫌で答えた。


「マールが引っ張って行ってくれるからだな」


 ツンツン頭の男の子が優しい眼差しでマールの方を見て付け加えた。



 セロンは、彼らの後をつけて、見つからないように静かに歩くと、採掘場の入り口まで戻って来た。危険な冒険から生還したような安心した気持ちになった。だけど、地上に戻ってくるとあの汚泥臭さが強くなる。セロンは記憶が戻って来たかのように顔を(しか)めた。子供達はもう慣れているらしい。全然平気の顔だった。


 採掘場の傍にある建物に囲まれた広場まで、採掘者達が戻って来て、雑談をしている為、辺りはざわざわと賑やかだった。採掘者達はグループ毎に集まっていて、他のグループとは、距離を置いている様子だった。セロンは、ここに来た時に居た魔獣の姿が無いのが気になった。しかし、周りを見回しても見当たらない。大きな魔獣だったから目立つはずなのに、何処に行ったんだろうと訝しげに思った。


 セロンは、しばらく子供達の傍で雑談を聞きながら待っていると、崖側の方に設けられた小さなステージに監視の人達が上がって来た。採掘者達は、しゃべるのを止めて、ステージの方へ注目を向ける。何だか緊張感が高まっている気がした。


「今日の結果を発表する」


 監視の代表の女の人が鋭い声を発した。丸めた紙を片手でサッと下し、睨むように視線を向けている。


「一位、三十四班」


 子供達が歓喜の喜びを爆発させた。


「二位、二十八班」


 微妙な反応が起きた。納得いっていない様子だ。


「三位、二十三班、四位、三十九班、五位、十五班、六位……」


 監視が順位を読み上げていく毎に、喜びの反応が巻き起こった。どうやら九位までしかないらしく、読み上げられなかったグループの人達は、落胆した様子を見せていた。


「以上で発表を終わる。各班のリーダー達は、得点棒を取りに来い!」


 監視の命令で、各班一人がステージの方へ歩いて行った。子供達の班は、マールと呼ばれる女の子が取りに行った。持って帰って来たのは、監視の人が言ってた通り、掌に収まるくらいの棒の束で、マールは、子供達皆にその棒の束をそれぞれ渡した。


「久しぶりにこの束を見たが、やっぱり別格に多いな」


 リーゼントくせ毛の男の子が喜びを隠せずに言った。


「何てったって、百点なんだからね」


 どんぐり頭の男の子が棒を数えながら続く。他の子供達も満足そうな表情を浮かべていた。マールと呼ばれた女の子は、皆の顔を見回して嬉しそうにしている。他の採掘者達も気が緩んでいた。


「自由時間とする。各自夕食をとれ!」


 監視の者が全体に向けて声を発するとステージからさっさと降りて、街の方へ消えた。広場には、来た時に無かった積み荷が建物の前に並んでいる。採掘者達は、その積み荷に群がり始めた。セロンは、何をしているのだろうかと、布に隠れながら、踏まれないように距離を置いて、確認しに行った。


「パンを一つくれ」


 採掘者のおじさんが得点棒一つを渡して、丸く膨らんだ形のパンを受け取っていた。美味しそうな焦げ目がついている。


「水をくれ」「パンを二つくれ」「水をくれ」「パンをくれ」「服を交換したい」……


 採掘者達は、こぞって積荷の前にいるヨーティー族のおばさん? 達に要望を言っていた。監視の女の人達とは、違った役割を担っているみたいだった。


 子供達もパンと水を一つずつ交換し終わったらしく、再び集まって地面に座りくつろいでいた。他の採掘者達も各々で、休んでいる様子である。水を飲んではしゃいでいるグループもあった。


「なぁ、採掘場の奇怪な事件の話、聞いたことあるか?」


 突然、リーゼントくせ毛の男の子が、パンをかじりながら囁いた。


「何それ?」


「怖い話?」


 他の子供達は、知らないらしく、身構えていた。


「ここに長いこといるお爺さんから聞いた過去の話なんだよ」


 マールと呼ばれる女の子は、少し反応し、視線を落としていた。


「どうせ、作り話だろ?」


 ツンツン頭の男の子が、関心がないという素振りで水を飲んだ。


「まあ、聞け」


 リーゼントくせ毛の男の子が話し始めた。


「これは二、三年前の話らしんだがな。普段通り、この場所で採掘者達は、採掘場に行って、普段通り、採掘をしていたそうだ。何も特別なことはない。採掘者達は、日々の成果を上げる為に鉱石を掘り進めていた。


そんな採掘者の中に、今回の俺達みたいに、運悪く奥のろくに整備がされていない鉱脈を割り当てられた班がいて、爺さんは、その班だったそうだ。掘れる鉱物の量も少ないし、運び出すのも大変で、その日の高順位は諦めていたらしい。けど、その時は、その鉱脈に割り当てられたのが、逆に最も幸福だった」


「どういうこと?」


 どんぐり頭の男の子が口を挟んだ。


「まあ、黙って聞けって」


 リーゼントくせ毛の男の子は、発言を(たしな)めて、続きを話した。


「終業の鐘がなり、お爺さん達の班は、広場に戻る為に、坑道を疲れた足取りで歩いていた。今日の成果は最悪なので、夕食は、最低限の得点棒で、パンと水を一つずつ貰うことでしのごうと決めていた。明日はもっと運が良くなるさ、と励まし合っていた。


 違和感は、その時から始まっていた。何時もなら、聞こえてくるはずの他の班の声が聞こえて来なかった。いつもより戻るのが遅れてしまったのかもしれないと、足を速めてみても、一向に他の班の声が聞こえて来ないどころか、気配すらしない。


 帰る時間を間違えてしまったのでは、と焦って広場まで戻っても、誰もいない。流石に、異変を感じ取ったお爺さん達は、他の採掘者達を探しに行った。すると、坑道の採掘ポイントで、採掘者達が倒れているのを発見する。お爺さん達は、手分けして他も確認しようと決めた。そして、他のポイントでも次々と採掘者が倒れているのを発見。みんな、息をしていない。


不可解な死は、採掘者だけじゃなかった。監視官も坑道の各地で倒れているのが見つかり、みんな、死んでいた。


体に良くないガスでも噴出したのでは、と慌てて坑道から出ようとしたお爺さんは、同じ仲間の班の者が、尋問を受けているのを目撃する。お爺さんは咄嗟に身を隠した。


『お、お前達が……、や……、やったのか……?』


 監視官の声は震えていた。仲間たちは、否定したが、否応なしに連行された。お爺さんは、身の危険を感じて、身を隠したまま坑道の奥でやり過ごすことにした。しかし、当てもないお爺さんは、これからどうしようかと途方に暮れて、現実から逃れるように眠りについた。


 目を覚まし、どれだけ経ったのかは分からないお爺さんは、この場にずっといるのは良くないと思い、坑道から出ようとした。しかし、前の方から、複数の足音が聞こえて来る。どんどん迫って来ていて、逃げ道はない。命運尽きたかと悟り、静かに近づいて来る足音を待った。目を閉じて、運命を受け入れるように。


 けれど、向かって来たのは、お爺さんには思いもよらない者達だった。お爺さんは、目を開けて、恐る恐る確認すると、同じ班の採掘仲間達が目の前にいた。仲間たちは、連行されたが、処分されることなく無事に戻って来たのである。


 だが、お爺さんは、喜びとは裏腹に奇妙な感覚に襲われた。同じ班の仲間は、お爺さんが寝る前の事件を全く覚えていないのである。仲間たちは、昨日もいつも通り、坑道で採掘をしていたと言い張る。そんなはずはない。広場に戻った後、他の採掘者達を見回したお爺さんは、やはり自分の記憶は正しかったと分かる。事件で倒れていた採掘者達が見当たらないのだから。


 その事実を必死に話しても、仲間は、一向に聞く耳持たない。それどころか、監視官も全く覚えていなかった。結局、お爺さんは、頭がおかしい老人扱いをされて、普段の採掘作業が行われていくだけだったそうだ」


「どうだ? 奇妙な話だろ?」


 オールバックくせ毛の男の子は、話を終えて感想を聞いた。子供達は、みんな凍り付いていた。


「何だよ。結局、ボケた爺さんの夢落ちかよ」


 ツンツン頭の男の子が怖くないと気張って突っぱねた。


「けど、本当のように聞こえるから、上手い話だよ」


 どんぐり頭の男の子が言った。


「そんな話信じない……」


 傘を被った頭の女の子は耳を塞いで頭を振っていた。


 マールと呼ばれる女の子は、俯いたまま、静かに考え込んでいた。セロンは、本当にありそうで怖いと思い、尻尾をブルっと震わせた。


「まっ、お爺さん一人だけが言っていた話だからな。恐らく作り話だろ。でなきゃ、神の仕業だな」


 オールバックの少年は、笑い飛ばすように話を閉めた。


 食事が終わり、休み時間が終了すると採掘者は、辺りに建っている細長い建物の中に入って行った。もう、後は寝るだけらしい。


「また明日、頑張っていい順位取ろうね」


 マールと呼ばれる女の子は、先程の静けさとは打って変わって、笑顔で子供達に言った。


「そうだな」


「今日を乗り切ったんだから、後は、運気が上がっていくだけだろう」


 子供達は前向きに答えて、同じ、細長い建物の中に入って行った。セロンは、建物には入らずに、外で待つようにした。子供達が通常なら取れないと言っていたのに、一位を取ったということは、彼女はこの後、一人で出て来なければいけないはずである。


 辺りが暗くなって来て、慣れていないセロンは、見ずらくて不気味だと小さくなっていた。すると、建物の扉が静かに開いた。


 こっそりと、採掘者達に気づかれないようにマールという女の子が扉から出て来て、そっと音が立たないように閉めていた。


 広場を小走りで横切り、採掘場の入り口の方へ向かっている。セロンは、後をつけるように忍び足で歩いた。採掘者が寝ていると思われる建物の裏の方から、荒々しい存在を感じ取ったセロンは、反射的に顔を向けると、昼間広場に居座っていた魔獣が、広場の方へ向かってきていた。警戒心を強めながら、採掘場の入り口にさっさと向かい、荒々しい崖沿いの道を下った。


 人が居る時には、姿が見えなかったのに、いなくなると現れれるのは、やっぱり人を襲うのが目的ではなくて、監視するのが目的のように見える。セロンは、いったい誰が魔獣を飼いならして採掘者を監視させているのだろうかと、不思議だった。


 セロンの歩く坂道の先には、マールが足元を念入りに確認しながら下っていた。崖の向かい側の街の明かりが淡く道を照らしている為、全く足元が見えないという訳ではない。しかし、見づらいのに変わりないので、日が出ている時よりも危険に感じる。時折、吹いて来る風も、主張が激しく、いけない行為をしているセロン達を責め立てているようだった。


 崖を下るほど、視界が暗くなって来る。上の方にある街の明かりが小さくなってくる。マールは、隠し持っていたランタンに火を灯し、腰にぶら下げ始めた。セロンは、灯りを持っていないので、マールの姿を頼りに後をついて行くしかなかった。


 マールは、暗くて入り組んでいるのに、特に迷いもなく、昼間掘っていた鉱脈まで辿り着いてみせた。突き当りの広々とした道には、掘って置きっぱなしのままの鉱石が積まれていた。マナリスも、重ならないように並べられている。


 マールは、持ち合わせていた籠の中に山積みになった鉱石を入れ始めた。籠一杯に入れて、一息吐くと、「よっ」という掛け声で籠を持ち上げた。背中に背負い、前かがみになって、上り坂をゆっくりと駆け上る。足場が不安定で、態勢もきつそうなのでフラフラと倒れそうにもなっていた。セロンは転ばないか心配になりながらも、気づかれずに支えてあげる方法がない。なので、少しでも運ぶ回数を減らして早く終わるように、セロンも同じように運ぶと決めた。


 坑道内に置き忘れられているマールが持っていたものと同じような籠を見つけて、セロンも運び始めた。坑道を通っている時に、マールが岩壁に括りつけられているランタンに火を灯していたので、道は、明るく、分かりやすかった。


 布を被りながらだと運びづらく、今は、姿をさらしているので、マールと鉢合わせないようにしなければならない。見つかったら少なくともスクミーには怒られそうだ。セロンは、坑道の途中で、脇道に入り、息を潜めてマールが再び、鉱石を取りに行くのを待った。マールが通り過ぎ、すれ違うと、出口の方へ向かい、坑道から出る。


崖沿いの平地に出て来た後、いったいどこまで運んだのだろうかとキョロキョロと周りを見回した。けれど、特に目立った置き場がない。残る選択肢は、レールに乗った鉱車で、セロンは、一つ一つ中を覗き込んだ。すると、橋に繋がるレールの一番前の鉱車に鉱石が入っていたので、これだと思い、セロンも持っていた鉱石を中に入れた。



 再び、ばったりと会わないように脇道に隠れながら、運ぶことにする。しかし、次にすれ違った時にマールは腑に落ちないような顔をしていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……うーん……? 積んだ時は……はぁ……もっとあったような……気がしたんだけど……。はぁ……疲れてる……のかな……」


 マールはぽつりとつぶやいていた。妙に思われても、セロンは姿を現すのは止めておこうと決めていた。スクミ―になんて言われるか分からない。それに、終わってしまえば、そんな違和感なんて忘れてしまうのだから。


 マールの足取りとペースは遅くなってきていた。大体、鉱車一杯くらいの鉱石と、さらに慎重に運ばなければいけないマナリスがあるので、そう簡単には終わらない。籠を使って運べる量は、持ち上げられる限界から、そこまで多くないので、何十往復もしなければならない。マールが一人で運ぶとなると一晩では終わりそうもないのである。


 数時間経って、マールは、壁に寄りかかり顔を仰ぎ、大きく息を吐いていた。マールが運び出さないとセロンも動けないので、セロンは、少し離れて見守っていた。セロンは、以前よりも力が増しているみたいで、鉱石の運搬は苦では無かった。マールが息を整えて立ち上がると、独り言を呟いた。


「採掘場の亡霊が勝手に運んでるのかな……リュカ達がいないとやっぱり心細いな……」


 マールは鉱石が入った籠を気合を入れて持ち上げ、歩き出した。セロンは、訳を話せずに歯がゆかった。


 セロンが何度目かの運び出しで、鉱車に鉱石を入れた時、坂道の方から軽いザクザクとした音が聞えた。ぱっと見ただけでは分からない。何者かがいる。セロンは警戒して、様子を窺った。セロンに向かって、その地面を這うような音が近づいて来る。セロンは、身構えて、避けるように横に飛ぼうとした。しかし、目の前で、布がバッとなびき、スクミ―が姿を現した。


「もう始まってるんでしゅか? トウシちゃんを探すのに一苦労して遅れてしまいましたでしゅ」


「なんだ、スクミ―か~」


 セロンは、緊張が和らぎ、一息つく。スクミ―は軽く息が上がっていた。


「こんな暗い中、よくやりましゅね」


 スクミ―は他人事のように呟いた。


「マールっていう女の子が、大変そうなんだ。いまここに彼女しかいないんだし、もう正体表してもいいんじゃない?」


「姿を見せてどうするっていうんでしゅか?」


「彼女が休めるようにしてあげるんだよ。今のままだったら、倒れちゃいそうだし、僕が一人で運べば簡単に済むよ」


 スクミ―は、ムーっと目を瞑り、唸っていた。


「……あの子は分かってくれましゅかね?」


「分かってくれるよ。優しい子だもの」


 セロンは、確信を持って答えた。



 スクミ―はマールだけに教えるくらいならいいと許してくれたので、マールに接触しようと思うが、中々タイミングが分からなかった。いきなり飛び出して行っても、驚き、悲鳴を上げられる可能性もあるし、道の途中で待っていても警戒されてしまいそうだった。


 なので、今までのように隠れながら手伝いつつ、自然と見つかるようにしようと考えた。マールが坑道の途中で休んでいる時に、布を被り、隠れながら、わざと目の前を通ったりしてみる。これで気づくだろうと見立てていた。


 しかし、あからさまに分かるように、目の前を通り過ぎてもマールが疲れすぎていて、目を瞑り、俯いて息を整えているため、まったく見向きもされなかった。


「……私の考えが甘かったのかな……」


 マールは、とほほと弱音を漏らしている。セロンは黙っていられず、「僕が手伝うよ」と呟いた。


「誰! 誰なの!?」


 マールは周りを見渡して声の主を探した。目の前に不自然に地面に落ちた布に気付いて、状況が呑み込めないでいる。


「君は鉱石を運ばないといけないんでしょう? 僕が力を貸してあげるよ」


 セロンは、穏やかな口調で語り掛けた。マールが怯えと好奇心が混じった表情で布を見つめる。


「……えっと……あなたは……布の妖精さんか何か?」


 マールは恐る恐る聞いた。マールには、布が喋っているようにしか見えないのである。


「白竜だよ。白竜のセロン」


「白竜……?」


 マールは不思議そうに布を見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ