第85話 「鉱石の仕分け作業」
街の端側は、中側とは違って、忙しさと余裕のなさが蔓延っている。その様子から、街に溢れるほどある金属類やマナリスが、何処から流れるのか、セロンは分かった気がした。
多くのカルレン族の人々がせっせと働いている。端にある大きな機械はリフトになっているらしく、下から鉱車が上がって来た。作業員達が歯を食いしばって、一生懸命に押している。
セロンから一番近い所で、鉱石を四角い木箱に分けている集団がいた。その隣では、色とりどりのマナリスを選別している筋骨隆々な男達がいる。男達は、くたびれた皮の手袋で、マナリスを掴み、ぼろきれに包んでいた。包んだマナリスは、紐で上下を縛られ、木箱にテキトーに入れられている。
詰められたその木箱も運ぶ人もいるみたいだ。上腕二頭筋が発達したおじさんが一人で木箱を抱えて運搬用の車まで運んでいる。しかし、おじさんは運んでいる途中でバランスを崩して倒れてしまった。ドシャ―ンっと大きな音を立てて、木箱が割れ、中のマナリスが飛び散った。セロンは目を覆った。
「何をちんたらやっている!」
監視役の露出の多いお姉さんが、走って倒れたおじさんに向かい、赤く汚れた鞭を取り出して、叩き始めた。セロンは助けてあげようかという気持ちと、首を突っ込んだら色々といざこざが起こりそうだと思う気持ちがせめぎ合っていた。
セロンが迷っていると、状況が思いもよらない方向へ進む。
「この腑抜けめ! それでも男か!」
「あ~っ! あうっ! 鍛えていただき、ありがとうございます! あ~! おっ!」
おじさんは、嬉しそうな声を上げてる。どうやら、鞭で打たれたかったみたいだ。セロンは、問題はないみたいだと分かり、興味を失くす。その代わり、作業員の男の達の会話の方に意識が向いた。
「あ~、こんな体中が凝る作業いつまで続けてればいいんだ!」
首の太い男が天を仰いで愚痴を漏らしていた。
「おい、監視に気付かれるだろ。目立つ行為は止めろ」
隣の腕が太い男が小声で言う。
「でもよ~、分かりやすい評価がないと、気持ちが乗らねぇんだよ」
「冷静になれ。よく考えてみろ。採掘場の奴らと比べたら、天国みたいなもんだろう?」
首の太い男が考え込むような素振りをする。
「……たしかに。そうにちげぇねぇ」
男達は、やる気を取り戻して、笑いながら作業に励み始めた。セロンは、作業員達が会話していた、ここで働いている者達よりも、さらに過酷な環境に人がいるということが気になった。この広場で働いている人も大変そうだったから、それよりも過酷だなんて想像できない。誰かに詳しく訊いてみることにする。しかし、この場所にいる作業員に話しかけるのは、目立つし、話を聞いてくれる余裕も無さそうだ。セロンは、誰か話を聞ける住民を探そうとした。
「それにしても明日から三日分の水はまだ届かないのか?」
資材を確認している余裕そうな男が、もう一人のふくよかな男の人に訊いていた。セロンは、問題でもあったのかなと聞き耳を立てる。
「水は、もうすぐ来るはずなんだがな~」
「お~い! 聞いてくれ!」
慌てふためいている男が、大股で走りながら叫んで、男達の元に来た。
「……水は無理だ。……手に入らない」
大きく息をつきながら来た男が言った。資材確認していた男達が驚く。
「どういうことだよ!」
「白いソリザ―みたいな奴が、俺らが取引している商人から買い占めていきやがったんだ!」
セロンは、ドキッとした。白いソリザ―という言葉に心当たりがあった。そんな見た目で、この街に滞在しているのは、白竜しかいない。だけど、街の中で会ったのはプヨルお兄ちゃんだけだった。お兄ちゃんが買い占めたのかな?
「どうするんだ? このままだと、不足してしまうぞ」
「高くつくが、他の行商人から買うしか……」
「人数分確保できなくなるだろ!」
セロンは、人数分の水を確保できないなら大変だ、と思った。どうして、プヨルお兄ちゃんは水を買い占めちゃったんだろう?
困り果てている三人の内の一人が不意にセロンの方を見た。セロンは慌てて視線から逃れるように隠れる。助けたい気持ちはあるけど、この状況なら逆に犯人にされかねないし、水を確保する術なんてセロンに無いから、結局誰かに頼らないといけない。
セロンは、プヨルにまた会ったら、説明して何とかしてもらおうと思った。それから、近隣にいる住民に採掘場が何処にあって、どういう状況なのかを尋ねてみた。
「ん? 採掘場かい? そんな所に行ってどうするっていうんだい?」
ヨーティー族のおばさん? が変なものを見るような目をしてくる。
「興味があるから行ってみたいんだよ」
「行っても何も面白くないと思うけどね~。そうだね~。採掘場は、街の外側にある。橋から見れば分かるだろう。採掘場への入り口が崖に沿って繋がってる」
自らの長い髪を両手でいじりながら、おばさんは喋っている。
「街の外の崖側だね。分かったよ。けど、どうして面白くないと思うの?」
「卑しい者達が醜い争いをしているだけだからね。それに何にもない」
おばさんは、答えながら長い髪を指にクルクルと巻きつけている。
「そんなに惨いの?」
「行って見たらわかる」
「それなら、そうするよ。おばさん、ありがとう」
「私は、おばさんじゃないよ! 男だ!」
セロンは、目をパチクリした。どうみても、おばさんに見えるのに……。ヨーティー族のおばさんに見える人は、そのまま、「まったくっ」と言って去って行った。セロンは、採掘場に行ってみるために、街の入り口の橋の方へと向かった。




