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小さくて大きなわがまま  作者: しがない竜
第2章2節 施しの植木鉢 下

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第77話 「降り注ぐ光」

 結局、祭壇に保護されている人はいなかったし、(さら)われた人もいなかった。ロウは死んでしまったから訊けもしない。見つかってない以上、問題の解決ができたわけではないし、残された施設の子供達はどうするのだろうか。セロンは、何だか億劫な気持ちになっていた。


 祭壇の外に出ると、空気がこんなにも美味しいものなのかと思い知らされた。緑の匂いが心地よいし、雨上がりの冷えた風も頭をシャキッと醒めさせた。


 セロンは、ひとまず、街に戻ろうと考えた。それから、さっきの大きな爆発のことを思い出していた。あの爆発はなんだったのだろうか? 山の上から見ても、森には特に変わった様子は無いように思う。


少し奥に見える街に目を向けた。下町(しもまち)の方が見るからに荒れているのが分かった。グロウ族との争いで半壊したままだ。上町(かみまち)の方は……ん? 高かった黒い塔が倒れてる? 部隊との争いで崩れてしまったのかな。セロンは、特に爆発と関係があるとは思えなかったが、街がどんな状況になっているのか気になり始めた。


セロンは、一人で山を降りて、一人で森の中をかけて走った。手も使ってさらに速く走ることもできたけど、立って走るのに慣れてるし、気が乗らなかった。猛獣の警戒は一応していたが、遭遇する気配もない。順調に街に辿り着けると思った。


 街の壁が見える森の出口に差し掛かった頃だった。街の中央付近の上空から、一筋の光が降りて来た。まだ、陽は沈んでないのに、その一点だけ、さらに明るい光に照らされたように、空の上から光が降り注いでいる。


 同時に、大地が震えだした。セロンは、驚きのあまり飛び跳ねてしまった。街の外壁が崩れ始めてる。正面に見える壁が土煙を巻き上げながら、沈んでいき、やがてただの土山になった。壁に繋がる階段もその衝撃で、潰れるように落ち、石板が転がった。セロンは、いきなりの出来事に口をポカンと開け、尻尾が横倒しになる。


 続けざまに、悲鳴が巻き起こった。セロンは、ハッと我に返り、急いで街に戻る。何が起きているのか把握する為に、リフトバルーンを使い、まだ崩れていない家の上に登った。


 街全体の外壁が無くなっていた。隔てるものが無くなった為に、下町の一角から猛獣や魔獣の大群が街に押し寄せてきている。下町の人々が、死に物狂いで逃げ惑っていた。猛獣達の唸り声と雄叫び、人々の悲鳴が交錯する。治安維持部隊が迎撃しているが、間に合ってない。下町は、一瞬にして地獄絵図になっていた。


 セロンも助ける為に、屋根伝いで街の中の方まで進み、住民を襲おうとしている猛獣に向かって、物質Pをぶつけた。猛獣は横殴りに叩きつけられ、動かなくなる。今度は、なだれ込むように幾多の猛獣が迫って来た。セロンはもう怖気づかない。向かい打つべく、再び物質Pを動かそうとした。その時だった。


 ググガガガアア~!!


 空気を痺れさせるような鋭い咆哮が轟く。セロンが見上げると、上空、森の彼方から白い竜が飛んできた。シェルクお兄ちゃんだ。辺りは水を打ったように静まり返った。猛獣達もピタリと動きを止めて、身を強張らせている。次に見えたのは、白い光だった。猛獣達が次々に白い光に包まれていく。そして、光が消えた後、そこに猛獣の姿は無かった。跡形も無く消えていた。セロンはシェルクの光の魔法だと知っていた。


 周りの仲間が消えて、恐れをなした猛獣達が、血相をかいて森の方へ脱兎のごとく逃げていく。シェルクが街の上を旋回して飛んでいた。街の至る所で白い光が弾け煌めき、猛獣達が次々と、跡形も消し飛んでいく。残った黒く蠢く群れは、森の中へ消えて行った。セロンは、息を飲み、尻尾を震えさせ興奮した。


 一頭だけ逃げないで人を襲い続けようとする獣が居た。全身がどす黒く、四肢が黄ばみがかった、赤爪のクマの魔獣。前に平民の男性を目の前で殺した魔獣だ。セロンは一瞬身を強張らせたが、すぐに気を取り戻した。クマの魔獣は、流れに逆らって猛獣の群れをなぎ倒し、奥の森の方から猛進している。遅れて来たようだった。


 格好の獲物となる逃げ遅れた老婆を見つけると、興奮して雄叫びを上げた。老婆は、腰を抜かしている。もう怖くなんかないぞと勇猛な意思で、セロンはクマ魔獣に立ち向かおうとした。


 空から一直線に白い閃光がクマ目掛けて突き刺さった。ズドンと大きな衝撃が辺りをひしめく。セロンは、びっくりして飛び上がった。シェルクが、クマ魔獣を踏み潰していた。シェルクは、嘲たような笑みを浮かべ、すぐに、空へ飛び上がる。また何処か街の外に飛び去って行ってしまった。クマはひしゃげて、ピクリともしない。


「ああ、白竜様が再び、我々を救って下さったんじゃ」


 老婆はありがたそうに空に両手をかざし、仰いでいた。セロンは、感嘆し、羨ましく手をギュッと握りしめた。



 緊急事態はあっという間に収まった。しかし、街の人々は困惑し、狼狽えていた。疲労困憊の者もいる。無理もない。昼間から街を滅茶滅茶にする争いが起き、今度は街を守って来た壁が突然、崩れて無防備な状態になったんだから。セロンは、平民に同情の念を抱きつつ、中央の光の柱を注視した。あの光が引き金で、街の外壁が崩壊した。いったい、あの光はなんなのか? セロンは、光の元に向かった。


 光の筋は、下町の広場の中心に注がれていた。中央に眩しく輝いていた銀のオブジェが消えている。それどころか、光が注がれる範囲の地面は、光に沿って、綺麗な円状の穴が開いていた。セロンは恐る恐る近づいた。広場周辺には、疲れ切って倒れたり、膝を抱えている人がちらほらいるが、光を気にしている余裕はないみたいだった。取り囲む店は損壊が少ないものが殆どなのに、中に人気は感じなかった。また、宿屋で嗅いだようなミントの香りがする。


 ふと、穴の反対側に木組みの看板が立っているのを発見する。以前は無かった看板だ。穴を回り込んで覗いてみる。セロンは驚愕した。見覚えのある禍々しい内容が書いてあり、背筋に寒気が走った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


100日後に、恐怖の大魔王が、天罰を下す


生き残りたくば、魔法を使わず、人並の生活をせよ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 恐怖の大魔王って書いてある! 山の家の地下にあった絵本の恐怖の大魔王のこと!? 百日後に天罰を下すってあるけど、大魔王が攻めて来るの!?


 セロンは衝撃で、尻尾を硬直させた。後ずさりして、周りの誰かにも見てもらおうとするが、気づいてくれる人は誰もいない。とにかく、この光は何なのかと再び、近づいて観察してみた。


光が刺す範囲には、何もない。まるで浴びたものを浄化しているようだった。穴の底は見えず、首を伸ばしても見えてこない。セロンは、恐る恐る爪の先で触れようとした。


「その光に触れるな!」


 セロンは両脇を掴まれ、後ろに引き戻された。驚き、顔を向けると、あっくんが眉間に皺をよせ、怒った表情をしている。


「……どうして?」


 訳も分からず、無意識にセロンの口から出た言葉はそれだった。


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