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小さくて大きなわがまま  作者: しがない竜
第2章2節 施しの植木鉢 下

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第72話 「施しの植木鉢」

 ロウは別の保護施設に食料を届けると言っていた。なのに、今向かっているのは、街を出た森の中だった。


 街の出入り口は、上町(かみまち)下町(しもまち)の間の通りの先にある階段を登った所だった。街は、綺麗に四方向に出入り口があるらしく、今回出たのは、スティアの保護施設に一番近い階段だった。


 街の土壁の外側に猛獣や魔獣が溢れていないか、警戒心を強めていたが、その出入口には、獣はいなかった。ロウも「こちら側は、猛獣は寄せてないので」と知っている風に説明していた。けれど、下町側の方の壁を見ると、遠くに多くの猛獣が見えて、自然と身を逸らし、どぎまぎした。


「貴方なら大丈夫じゃないですか?」


 平気そうにロウは、質問してくる。野道を歩き、森の際まで来てしまった。このまま森の中になんて入ったら、どれだけ猛獣がいるか分からない。視界も狭くなるし、薄暗くなる。セロンは、寒くないのに背筋がひんやりとした。


「僕は、大した力なんてないんだよ」


 自然と声が密やかになり、辺りに目線を向けていた。また、あっくんの言いつけを守らないで動いてしまった。けれど、ここまで来たら、進むしかないと思った。


「そうなのですか? 白竜の貴方が、ですか?」


 ロウは知っているような口ぶりだった。


「白竜を知ってるの?」


 深緑が深い森の中、小さな葉刷り音さえ、猛獣の気配に感じてしまうセロンは、静かに訊いた。


「伝承で聞いたことがあります。何十年も前に白竜が突如現れて、この街を救った、そう聞いていますよ」


 ロウは、振り向きもせずに答え、迷わず森の道なき道を突き進んでいる。セロンは遅れないように横に並び、下草を掻き分けていた。それにしても、白竜が過去に街を救ったなんて、知らなかった。兄弟の誰かが救ったのかもしれないが、聞いた記憶は無かった。


「貴方はどうして、今、この街に来たんですか?」


 ロウは前から視線を逸らさず、静かに訊いて来た。セロンは、知らない言い伝えに首を傾げていたが、質問を答えるのに思考を変えた。なんて答えようか一瞬迷った。Pマナリスを盗るのが目的だとは言う気は無かった。それは、自分個人の目的というには、従うがままに進んでいるので、実感は無かったからだ。どうしようか迷った挙句、単純に自分が決めている素直な目的を答えた。


「観光と人助けする為に来たんだよ。世界一優しい竜になりたいから」


「そういえば、保護施設でもそう言ってましたね。……人助けですか……」


 ロウは、遠い目をして、どこか別の場所を見ているようだった。


 話はそこで途切れた、お互い何も言わず、下草を踏みしめる音が大きく聞こえた。森の中を吹き抜ける風が、湿った葉の鈍い音色を(かな)で、淡く光る水の飛沫(しぶき)を運んでくる。森を煎じてお茶を点てたような濃い緑の匂いがする。


 セロンは本当にこの先に、保護された街の人々が居るのか心配になって来た。


「ロウさん、この先に、本当に人を保護している施設があるんだよね」


「ありますよ」


「どこら辺にあるの?」


「もう少し行った先です」


「どうして、街の外に保護施設を作ったの?」


「必要だったからです」


 曖昧な答えだ。セロンの疑いは消えなかった。こんな森の奥で人が暮らす必要があるのだろうか? どう考えたって暮らしづらいと思った。


「少し話をしましょうか?」


 ロウがセロンの不信を解こうとしているのか、柔らかい口調で提案してきた。


「うん、しよう」


 セロンは何も話さないよりはいいと思い頷いた。ロウがゆっくりと小さく一息ついた。


「貴方は『施しの植木鉢』って知っていますか?」


「施しの植木鉢?」


 セロンは観葉植物を植えて、部屋で楽しむ鉢を想像した。


「はるか昔に、巨人がその鉢に巨木を植えて、愛でていただとか、やせた土地に住む民族が、豊作を夢見てやっとの思いで造り上げたとか、色々と俗説がありますが、名前の由来は、大地の施しによって与えられた、人々に恵みをもたらす植木鉢だから、そう呼ばれるようになったそうですよ」


「へ~」


 植木鉢が人々に恵みをもたらすって、どんな風なんだろう? セロンはいまいちイメージが持てなかった。ロウの話は続いた。


「その植木鉢は、何百年も前に誰かが地中深くの遺跡で見つけたそうなんです」


「遺物なの?」


 セロンはてっきり、売っているものと思っていた。ますます訳が分からない。


「話が本当ならそうなりますね。それで、これは、その植木鉢の話なんですが、興味深い話が残っているんですよ」


「どんなの?」


「少し長めの逸話ですが、覚えている限り話しましょう」


 セロンは頷いた。


「これは、植木鉢が発見された後の話です」


 ロウの口調が伝道師のように低く静かな深みを持ち始めた。


「植木鉢を見つけたのはたった数人のならず者だった。植木鉢を見つけた彼らは、高値で売れると喜び、王都まで運び出そうとした。けれど、植木鉢は予想以上に重たく、運び出すのに一苦労した。運び方も不安定で、画期的な方法も無く、とうとう、ある草原の中を運んでいた時、誤って落としてしまった。一瞬しまったと青ざめた。けど、彼らは慌てるよりも驚きの方が大きくなった。なぜなら、植木鉢は眩い光を放ち、地形を無視し、周囲一帯の土が盛り上がるようにして、高い壁を造り出したからだった。彼らは腰を抜かし、仰天していた。どうしたものかと、手をこまねいていると、近くに生えていた赤い実に目が留まった。さっきまでは、青いはずだった。彼らは、奇妙な感覚になり、恐れも感じていたが、冷静に頭が冷えた時、一つの可能性に行きついた。それは、都合の良い解釈で、普通の人なら気味の悪さが勝るのだが、彼らは明日を生きるのにも必死な立場。藁にもすがる思いだった。なにより、王都に運んでも、本当に売れるかなんて保証が無く、骨折り損になるくらいなら、この赤い実を信じようと考えた」


 セロンは絵本の物語のようだと思い聞き入っていた。だから、ロウの話を黙って聞くことにした。


「彼らは、その壁の中で必死に畑を耕し、ポケットに入っていた食べ粕の種を蒔いた。思惑は当たった。種は、見る見るうちに芽を出し、あっという間に実をつけたのだった。彼らは歓喜し、ならず者から農夫となり、せっせと畑を耕し始めた。実った作物は、各街に売りさばき、彼らはたちまち、大金持ちになった。噂を聞いた各街の者は、その壁を訪れ、手伝いたいと申し出て、彼らはこれを受け入れた。やがて、商人や料理人、職人などが住むようになり、壁の中は、活気があふれる街になった。月日が経ち、植木鉢の勝手も分かって来た住民達は、次第に手を抜いても贅沢に暮らせると分かり、のんびりとだらしない生活をし始めた。それもそのはず、粗末な仕事をしたって作物が立派に生えてくるのだから」


 突然、ロウの声音が低く、重くなった。


「ある時、作物の実りが悪くなった。慌てた街の人々は、あれこれと原因を探り出し、ようやく植木鉢の土に栄養が不足していると分かった。だから、栄養源となる肥料を集め、土を復活させようとした。効果は抜群で、再び、実りが良くなり、人々は安堵した。それから、さらに街の人々は植木鉢の仕組みを思い知った。植木鉢は魔法の苗床だった。屠殺した家畜一頭だけで、数十回分の収穫が出来てしまったのだから。もっと言えば、以前より実りも大きく、豊作になってしまっていた。これを期に、街は大きく変わった。街では、獣を狩りに行くのが当たり前になり、畑の肥料にするようになった。そして、その役目は、魔法を使えない者の役割になった。魔法を使える者は、彼らの監督をし、優雅に腰を掛けて、食事を楽しんでいた。もう、植木鉢に栄養が尽きることは無くなった。街が完成を迎えた」


 ロウの声音が不安定になって来た。


「しかし、満ち足りない魔法を使える者は、どんどんと贅沢をするようになった。贅沢品を買い集め、コレクションとし、華やかさに欠けるという理由で、食器を金製に変えた。年に一度の宴の為だけに、大袈裟な装飾を施した高見台を造らせた。気に入らないと思えば、すぐに取り壊させて、新しく造らせた。全ては、魔法を使えない者が担っていた。負担は大きかった。けれど、他に行くよりはいい暮らしはできて、満足はしていた。

長い月日が経ち、街の体制はたちまち悪評として各地に広がりだした。噂は、流れに流れ、ある団体の耳にまで入った。その団体は、素晴らしい力を持っていた。それでいて、偽善の気風が強かった。当然、街のやり方が気に入らず、突然押しかけ、統領を打ち倒した。偽善集団はそれで満足して帰っていった。他に何もする気が無かった。だから、魔法を使えない者達は困惑していた。事態の収拾を図ったのは、一人の優秀な魔法使いだった。魔法を使える者達は、彼の台頭に喜び讃えていた。魔法を使えない者は、不安を抱いていた。特に、立場の弱い者は不幸を被ることになった。

断言しよう。新しく台頭した統領は、最悪の外道だった」


ロウが突然立ち止まった。目の前には、鬱蒼(うっそう)と生い茂った草木の壁が広がっていた。周りは深く、入った時よりも暗さが増している。結局、猛獣と遭遇する危機は無かった。それなのに、セロンの気持ちは、落ち着かず、この場に長くは居たくなかった。ロウの話も早く終わらないかなと不安を募らせるものになっていた。


明らかに、様子がおかしい。


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